第9話 『VSフードの女』
また、跡をつけられていた。
テント専門店に向かう途中に、なんとフードの女にまたもやつけられていたのだ。いったいどういうつもりなんだろう。本人は、気配を隠しているつもりかもしれないが、もはやバレバレである。
――――もう我慢ならない。
今度こそは、逃がさない。とっ捕まえてやる。
「もう逃がさないからっ!!」
私は、フードの女目がけて、走り出した。すると、フードの女も走り出して逃げる。逃がさない! 全力で追跡する。20メートル位の距離。早い。なんて足が速い奴だろう。でも、見てらっしゃい。今度は絶対に逃がさないからね。
フードの女は、また路地に入り込んだ。ぴったり追いかけて、路地に入る。そして路地を抜ける。
「待ちなさーい!! 今度こそ、絶対に逃がさないわよ!! いい加減に観念しなさい!!」
そう叫ぶと、その声を聞きつけた近くにいた騎士団が、「いったい何事だ⁉」と逃げるフードの女の前に立ち塞がった。
フードの女は、騎士団に逃げ道を塞がれ立ち止まる。たじろいでいる様子が見て解る。
「何事だ!!」
赤色のショートカットの女騎士が声を張り上げた。彼女は、この騎士団の隊長だろう。
「不審者よ! この街に入ってから、ずっと付け回されているの!」
フードの女が更にたじろぐ。女騎士はその様子を見て、睨みつける。
「なるほど、理解した。全員抜刀!」
「はっ!」
女騎士の号令で、他の5人の騎士も剣を抜いて構えた。
「私は、クラインベルト王国騎士。ローザ・ディフェイン。現在、このエスカルテの街の治安維持任務の為に、王国から派遣されている騎士団の団長だ。そこのフードの女、抵抗をやめなさい。抵抗をするのならば、容赦なく力ずくで拘束する」
やはり、騎士団だった。クラインベルト王国の騎士団…………
とりあえず、もうフードの女は逃げられない。正体を暴くチャンスだ。
「さあ、観念しなさい。なぜ、私をずっと付け回しているのか解らないけど、その理由を喋ってもらう。それと、フードの中の素顔を見せてもらうわ」
フードの女を私と騎士団とで挟撃する形。じりじりと距離を縮め追い詰めていく。
すると、フードの女は、騎士団の方へ走り出した。まさか、突破する気⁉ しかも、普通人数の少ない私の方を突破しようとするでしょ?
「抵抗するなら、斬り伏せるぞ! かかれえっ!」
騎士団に向かっていくフードの女。騎士たちが一斉にフードの女を包囲。まず1人が斬りかかった。
「せりゃあああああ!」
フードの女は、騎士の攻撃を避けるとその騎士の懐に素早く入り込み相手の胸に軽く両手を添えた。そして、何か聞き取れない位の声……言葉を発すると騎士は、大きく吹っ飛んだ。
「どわーーーっ!!」
それを見た騎士団長ローザの顔つきが変わった。部下たちに指示を出す。
今度は同時に3人の騎士が、フードの女に一斉に攻撃をしかける。剣。フードの女は、その攻撃を持っている弓とナイフで防ぐ。その直後、またもや何か小声を発する。すると、そのフードの女を中心に竜巻のような風が発生し、一斉攻撃した3人の騎士は宙に巻き上げられた。そして、大きな甲冑の金属音と共に地面に落下した。
何者なの⁉ 甲冑を着込んだ重武装の騎士団4人をたった一人で、瞬時に倒すなんて。只者ではない。
「貴様! 私を本気にさせたな! 後悔する事になるぞ!」
ローザは、残っている騎士一人に目標を逃がさないように指示して逃げ場を封じさせると、フードの女目がけて一直線に斬りかかった。
剣。金属音。フードの女はローザの強烈な攻撃を弓とナイフで交互に弾く。
「とりゃりゃりゃりゃりゃーー!!!!」
ローザは、剣を連続で打ち込む。その攻撃は、止まらない。スピードは、どんどん加速しその威力も強烈になっていく。
「はっはっはっ! 打ち込むスピードと威力は、まだまだ上昇するぞ! 貴様に、何処まで耐えられるかな?」
フードの女が、遂によろめいた。
――――鋭い殺気! まずいっ!!
「とった!!」
!!!!
ガキンッ!!
お互いの鋭い殺気を感じた私は、次の瞬間咄嗟に二人の間に割って入った。そして、腰に差している二振りの剣でそれぞれローザの剣と、フードの女のナイフを防いで止めた。
「ここまでよ! 私は、私に付きまとって来る不審者を捕まえて欲しかっただけで、斬り殺して欲しいとまでは、頼んでないわ」
そう言うと、ローザが頬を膨らませた。
「私は、この街の治安維持の任についている。それに、抵抗するなら斬り伏せると警告もした」
「警告って言っても普通は脅しでしょ。命のやり取りにまで、発展するような事ではないでしょ。……それとあなたも、いい加減に顔をみせたらどうなの?」
そういって、フードの女の手を掴んだ。すると、その手を振りほどこうとしたので、引き込んでフードを取った。
「やっぱり…………」
長い美しい髪に、輝く金髪。整った顔。フードの女の正体は、見知った顔のエルフだった。
「………………ほんっっっっとーーに、すまないと思っているううう」
どこかで聞いたようなフレーズ…………何処でだったかは、覚えてはいないが……何とかして誤魔化そうとしている…………やはり、知っている顔だった。
っていうか、見覚えのある弓とナイフにその、とんでもない運動神経。更に、【発勁】などの東方の国の体術に見せようと頑張ってはいたけど、騎士たちを吹き飛ばした風の精霊魔法。
薄々、そうじゃないかなとは、思っていたがやっぱりルシエルだった。
――――ルシエル・アルディノア。ギゼーフォの森で薬草採取の際に出会ったエルフ。
「なぜ、こんな事を?」
「やーー、それは……実は……」
神妙になったルシエルを、騎士達が取り囲み拘束した。
ローザは、ルシエルではなく私に対しても剣を向けた。
「どうやら、知り合いだったようだな。何はともあれ、この街でこれだけの騒ぎを起こしたのだから、それ相応の覚悟はしてもらおう」
「ええーーー、なぜ⁉ 私、別に何も悪い事なんてしてないんだけど! 確かに不審者は、顔見知りだったけど、本当に知らなかった訳だし……」
「いいから、くるんだ! これより、おまえ達を詰め所に連行する。理由はなんであれ、騎士達を吹き飛ばしたりしたのは事実だからな。立派な公務執行妨害だよ。さあ、来い!」
こうして、ルシエルと再会を果たした私は、ローザ率いる騎士団に一緒に拘束されて、詰め所まで連れていかれるはめになった。
私は、新しいテントを購入したいだけなのに……なぜ、こんな事に…………
…………くすんっ
「…………アテナ?」
「なによ?」
「………………ほんっっっっとーーに、すまないと思っているううう」
「うるさいっ!!」
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〚下記備考欄〛
〇アテナ 種別:ヒューム
Dランク冒険者で、物語の主人公。年齢は16歳だけど、意外としっかりもの。そしてその剣の腕は、とんでもない。森で薬草を集め薬茶を作り、それを売ろうとエスカルテの街の知り合いの店を訪ねる。街へ入ってからずっとストーキングしていたフードの女の存在に気づき、正体をつかもうと追い掛ける。
〇フードの女 種別:???
エスカルテの街へ入ったアテナをストーキングするフードを被った謎の女。アテナよりも足が速い⁉
〇ローザ・ディフェイン 種族:ヒューム
クラインベルト王国、王国騎士団の団長。現在はアテナが自家製の薬茶を売る為に立ち寄ったエスカルテの街の治安維持の任務についている。外見は赤い髪のショートヘアで凛々しい感じ。法を厳守する性格で、腕にも自信があって逆に太々しく見えたりもする。
〇ルシエル・アルディノア 種別:ハイエルフ
お肌がプリプリピッチピチの114歳。長い髪の金髪美少女エルフだけど、黙っていればという条件付き。一人称は、「オレ」。野菜より肉が好き。食事をご馳走してくれたアテナの薬草集めと言う変わった趣味を手伝ってやる事にした。とても立派な弓を所持しており、ナイフ捌きに関してもなかなかの腕を持つ。エスカルテの街では、フードを被りギゼーフォの森で薬草集めをしていたアテナと知り合って別れたのだが、その後も隠れてあとをついてきていた。なぜ?
〇王国騎士団 種別:ヒューム
クラインベルト王国には、いくつもの屈強な騎士団が編成されている。その任務は、治安維持の他にも突如出現した危険な魔物の討伐や、他国からの侵略された場合の防衛など。常に訓練を行い備える彼らは、今日も国の平和を願っている。
〇ギゼーフォの森
クラインベルト王国にある、のどかで穏やかな森。動植物が沢山生息している森で、薬草もそこいらじゅうに自生している。本作1話で、アテナがこの森でなく、鬱蒼とした森ネバーランの森にいた理由は、薬草と言うのは実に様々な種類があって、ネバーランの森に自生している薬草を採取する為でした。
〇発勁 種別:体術
的に掌を当てて、そこから震脚と瞬発力、そして体内にある気を使ってゼロ距離から打ち出す掌打のような技。突きや蹴りのように、肉体の外部を破壊する技ではなく内部からダメージを与える技。東方の国では、このような摩訶不思議な技を使う武芸者がいる。
〇ほんっっっっとーーに、すまないと思っているううう 種別:フレーズ
バウアー的な……。面白いですよね、海外ドラマ。