表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
899/1344

第899話 『いよいよだなー』



「姫様に仇名すやからを、捕らえろおおおお!!」


「っちい! めんどくさい、クラインベルトの国境警備隊か!!」



 アシュワルドの兵が、ジュノーに次々と襲い掛かる。人馬一体という言葉があるけれど、ジュノーは自分で作りだした氷の獣に跨り、まるで一体となって次々とアシュワルドの兵を打倒していく。



「私の楽しみを邪魔する奴らは、皆殺す!」


「うわあああっ!!」



 このまま逃げ切れそう……だけど、それでいいのかと思う。


 ジュノーは、かなり強い。私がここで逃げたら、きっと国境警備隊にかなりの犠牲がでるかもしれない。じゃあ、どうすればいいのか……


 私の腰に手をまわして、捕まっているルシエルが言った。



「おっし、ようやくオレの凍らされた手も回復したぜ」


「え? もう大丈夫なの?」


「ああ、オレも火属性魔法は使えるからな。暖かくなる魔法で、頑張って溶かした。まだちょっと痺れているけど……これで戦えるぞ。さて、どうする? 兵達を助けるか? アテナの国の兵だろ」


「うん、そうね。このままアシュワルド達に加勢しようか」



 頷くルシエルの後ろから、こちらに迫ってくる馬。アシュワルドが騎乗していた。私達の直ぐ後方では、アシュワルド麾下の兵がジュノーを取り囲んで、戦いを繰り広げている。



「姫様!!」


「アシュワルド!!」


「ここは、我らにお任せください」


「で、でも!?」


「姫様は、私の真の力をご存じでしょう?」



 そう、アシュワルドはゲラルドと並び評される程の将。そしてクランベルト王国では、ゲラルドや姉のモニカと同じく、最強の剣士とも呼ばれている。



「ありがとう、アシュワルド。でも、気を付けて。あのジュノー・ヘラーというドルガンドの将軍、とんでもなく強いわよ」


「ふむ、確かにビリビリと何か感じますし、私の兵達もやられていっている。ならば、そろそろ部下達の加勢に参るか」



 ルシエルが少し身を乗り出した。



「おっさん、気をつけろよ! ありゃあ、これまでに出会った事がない位の化物だぞ!」


「化物なら、既に何人か知っている。だがその助言は、肝に銘じておこう。では、姫様! また後程、お会い致しましょうぞ。アイルビーバック!!」



 馬の速度をどんどん緩めていき、後方にいるジュノーの位置へ移動するアシュワルド。



「ええいっ、邪魔だ!! 私はアテナに用がある!! 貴様ら雑魚は、邪魔をするな!!」


「アテナ様と、言え! 下郎が!! 貴様は、ここでこの俺に敗れて連行されるのだ。姫様に危害を加えようとした、重罪でな!! なに、大人しくすれば命までは奪わんさ」



 アシュワルドは剣を抜かずに、馬に備え付けていたウォーハンマーに手を伸ばす。それを握って、他の兵と共にジュノーに殴りかかった。


 アシュワルドの一撃は、空を斬ってもブオンというとんでもない轟音がした。ジュノーも受け太刀できないと悟ったのか、アシュワルドと距離を取って回避する。しかしその先には、アシュワルドの兵が回り込んで彼女を囲む。



「うおおおお!! なんてうざったい!! アテナ、逃げずに私と戦ええええ!!」


「それじゃ、アシュワルド。気を付けて」



 ジュノーの叫び声を無視して、私はアシュワルド達とジュノーから離れていった。草原をかけて、どんどん距離をあけていく。


 近くに木々が生い茂る場所を見つけたので、カルビの背に軽く触れて伝えるとカルビはそちらに駆けて、木々の生える場所に飛び込むとそこを駆けた。


 暫く駆けていると、川を見つけた。カルビが振り返る。



 ワウッ


「おっと、そろそろルキア達の馬車に追いつくみたいだぞ」


「それじゃ、カルビ。ちょっとここで止まってくれる? 少し喉が渇いちゃった」


 ワウ



 川辺に止まり、私とルシエルはカルビの背から降りた。すると空気の抜けた風船のように、カルビはフシュルルルっと小さくしぼんでいき、もとの子ウルフの大きに戻った。


 私はカルビを抱き上げると、その口にキスをして抱きしめた。



「ありがとう、カルビ。本当に頼りになったよ」


 ワウ。



 ノクタームエルドでも、ルキアのピンチの時にカルビは巨大化して彼女を助けた。クロエがゲース・ボステッドの屋敷に捕らえれていた時もそう。ノエルと共に、後を追って私をそこまで誘導してくれた。


 人間とか、魔物とかそんなのもう関係ない。カルビは、私の大切な仲間で大事な家族なんだなって改めて感じた。ルシエルにとっても、それは同じ思いだろう。その証拠に――



「おーーおーー、よしよしよし。大活躍だったな、カルビ。流石はカルビだぜ」


 ワウウウワウウウ。


「よし、ご褒美に干し肉をあげよう。いいか、特別だぞ」


 ワウウ!


「よーし、ほら、干し肉だ……って美味そうだな」



 ルシエルは懐から干し肉を取り出すと、カルビにあげると見せかけて自分で齧った。



 ガルウッ!!


「いって!! こら、カルビ!! オレの足を噛みやがったなー!!」


 ガルウウウウウ!!


「こんのー、てめーー!! このオレに歯向かうとはいい度胸だ!! あっ、いて!!」



 ルシエルの頭を、ポカリと軽く叩く。



「なにすんだー、アテナ!!」


「さっきのは、ルシエルが悪い!! ちゃんとカルビに干し肉をあげなさい! あげるって言ったんだから」


「ちぇーーっ」



 ルシエルは口をとがらせて、手に持っていた残っている干し肉をカルビにあげた。カルビは、美味しそうに干し肉を貪る。私はそれを横目に、川へ近づくと水をすくって飲んだ。ルシエルも同じようにする。



「ふう……喉も潤したし、それじゃルキア達を追いかけようか」


「ああ、そうだな。カルビの反応から、近い所できっと馬車を止めて、オレ達が追いついてくるのを待っているに違いない。急ごうぜ」



 ここはもうパスキア王国。ルキア達と合流をすれば、王都までは一直線。いよいよだなーって思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ