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第897話 『氷の獣』



 大きな身体に変化したカルビ。その背に乗る私とルシエル。平原を駆け抜ける。流石にこれなら、人の足では追ってはこれない。


 振り返ると、なすすべもなく呆然と立ち尽くして、こちらを見ているジュノーとジーク・フリートとベレス――3人の姿があった。


 そのまま真っすぐに駆け続けるカルビの背に乗っている私は、後ろからその首に抱き着いた。


 すんすん、どさくさに紛れてカルビの頭のにおいを嗅ぐ。お日様のパワーをしっかりと浴びた干し草のような、いい匂い。凄く落ち着く。



 ワウ?


「ありがとう、カルビ! やっぱりカルビは、物凄く頼りになるよー」


「おいおいおい、オレだって活躍したぞ! カルビを褒めるなら、オレも褒めてくれよな」



 私の腰に捕まっているルシエル。フフフ、ちょっとふてくされている。



「はいはい、ルシエルさんもよく頑張りました。ありがとう」


「フフン、どう致しまして。ルシエルさんは、大活躍だったからなー」



 あっさりと機嫌がよくなった。こういうルシエルのさっぱりした性格は、見習いたいものがある。だけど……



「ふう……」


「ひゃああああ!! っていきなり何をするのよ、ルシエル!!」


 急に首筋に息を吹きかけてきた。丁度、うなじの部分で思わず変な声をあげてしまう。それが面白かったのかルシエルは、ケラケラと笑った。



「ひゃっひゃっひゃ! ひゃああああ……だってさ。アテナが、ひゃあああっだって!」


「こらーー、ルシエルーー!!」



 振り返って鬼の形相で睨み付けると、ルシエルは、そっぽを向いて下手くそな口笛を吹いて誤魔化した。



「まったくもー」



 私達二人を乗せて、走り続けるカルビの頭を優しく撫でる。



「でもカルビとルシエルのお陰で、ジュノー達からはなんとか逃げおおせられたみたいね」


「確かにそうだな。いくらオレとアテナの最強コンビでも、ちょっとあいつら得体が知れないものな」



 得体が知れないなんてものじゃなかった。ジュノーとジーク・フリート。あの二人はドルガンド帝国最強の剣士というだけあって、その強さはかなりのものだった。


 底が知れなくて、異質な強さ。師匠や、私の姉のモニカに似ている。



「でもさー、あのままバトってて勝てたかな?」


「え? 勝てたって、ジュノーに?」



 頷くルシエル。



「どうだろう。私もまだ全ての奥の手を見せた訳じゃないし、ルシエルもそうでしょ。ジュノーのあの黒曜石のような黒い氷は、何か物凄く危険な感じはしたけど、彼女もまだまだ本気じゃなかった感じだし」


「ほう、やっぱりそうか。アテナは、まだまだカードを隠し持っているんだな」


「兎にも角にも、私はここでジュノーやジーク・フリートと死闘を繰り広げて、生死をかけた戦いをする気はないの」


「ふーん、剣士なのにな」


「剣士だったら、戦うっていうの?」


「だって、剣士なら剣に人生かけてんじゃん? なら、強え奴と出会ったらどっちが上か白黒勝負をつけてみたくなるんじゃん?」


「へえ。なら、私は剣士じゃないかもね。私は旅する事、美味しいものを食べる事、キャンプする事が大好きなキャンパーだもんねー」


「確かにそうだった」



 ワッハッハと二人で大笑いする。



「それはそうと、カルビ。ルキア達の馬車に向かってんだよな、これ」


 ワウ!


「言わなくてもそれ位、ちゃんと解っているもんねー、カルビ」



 そう言ってまたカルビに抱き着いて、どさくさに紛れて頭のにおいを嗅ぐ。すんすん。あーーん、たまらんち。とんでもなく、癒されるよー。



「そうか、それならいいんだけどな……」



 ルシエルは呟いた。そして何気に後ろの方を振り返り、変な声をあげた。



「お、おい!」


「え? なに?」


「おいおいおい! アテナ!!」


「なんなのよ、どうしたの?」


「アテナ、後ろ後ろ!! 後ろを見てくれ!! あいつ……」



 ルシエルの異様な声に振り返ってみると、後方から何かがこちらに駆けてくるのが解った。



「な、なにあれ?」


「解らんけど、ヤバそーなにおいはプンプンするな」



 キラキラと輝き、青い白い獅子のような形をした獣!? それが凄まじい勢いで追ってくる。しかもその背には、ジュノーが騎乗している。



「嘘でしょ!? ジュノーが、追ってきているわ!!」


「ジュノーはいいけどよ、なんじゃありゃああ!! よく見てみろよ、氷でできた獣だぞ!! まるで氷で造った獅子の彫刻だ!!」



 物凄い勢いで迫ってくる。そしてジュノーがこちらに手をかざすと、その掌から連続してツララが発射された。私はカルビに強く抱き着いて叫んだ。



「カルビ!! 後ろから敵が迫ってきている!! しかもツララを飛ばしてきているから、避けて!!」


 ガルウウ!!



 後方から飛んでくるツララをまるで、後ろに目でもついているかのように器用に避けるカルビ。でもジュノーは、どんどん速度をあげて追いついてくる。


 カルビはずっと私達二人を背に乗せて走りっぱなしだし、このままじゃ直に追いつかれてしまう。



「うぉうぉい!! どうする、アテナ!! もしツララが命中するとすれば、まず先に後ろに跨っているオレに突きささるんだけど!!」


「確かにそうだけど、何か問題ある?」


「あるよー。だって痛いの、オレやだもん!」


「それなら、応戦して。いいもの持ってるんだから」


「ほへ? あっ、そうか! そうだったそうだった。よく考えたら、こういうシチュエーションって、オレが得意とするもんだったわ。なはははは」



 ルシエルはそう言って弓を手に取ると、矢を引き絞り、後方から迫ってくるジュノーに向けて放った。

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