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第893話 『黒い追手 その4』



 ジュノーに強烈な膝蹴りを入れられて、またしても大きく吹っ飛んで転がった。


 だけど今度は木に打ち付けられずに済んだし、ちゃんと受け身もとった。転がった先でわざと派手に転がり、衝撃を殺す。


 転がった先で、ジーク・フリートと戦闘中のルシエルも、蹴られて私の方に転がってきた。目を合わせる。



「おー、いってー!! まったくなんて、おっさんだ!! あんな重そうなフルプレートメイルを着込んでやがるのに、とんでもねえスピードだぞ!!」


「あら、弱気な発言なんて珍しい。フフ、苦戦しているみたいね! ルシエル」


「あんだと? アテナだって、苦戦してんじゃん!」



 ぶーーー、言い返せない。確かに、ジュノーのような強敵には、今まで出会ったことがない。


 例えば師匠やモニカと比べると、絶対そっちの方が強いとは思えるけど、師匠やモニカは敵として戦ったことがないから、なんとも言えない……身内だしね。


 でもジーク・フリートが、ジュノーの事を帝国最強って紹介していたけれど、確かに大袈裟でもなく、それ程の強さは感じる。明らかに規格外の強さは、持っているし秘めている。


 ジュノーとジーク・フリート、2人は並んでこちらに一歩一歩と近づいてくる。



「どうすんだ、アテナ? あいつら相当強いぞ!」


「ルシエルが相手してくれている、ジーク・フリートもかなり強いよね?」


「ああ、めっちゃ強いぞ、アイツ。アテナがジュノーって奴とやり合っているのも横目で見ていたけどさ、あのオッサンもジュノーレベルに強いぞきっと」



 私も薄々は感じていたけれど……今、私とルシエルの目の前には、ドルガンド帝国最強と言ってもいい2人が迫ってきている。徐々に私達を追い詰めるように、こちらに近づいてきている。



「お、おい、どうすんだよアテナ! ここで、やっちまうっていうのなら、オレもそれなりの覚悟をしてだな」


「え? 覚悟をしてどうするの?」


「本気出すに決まってるだろ! 決戦だよ、決戦!! それなら腹くくるけど、どうする!?」



 ルシエルがそこまでいう程の敵。さて、どうしたものか。


 かなり迫ってきた所で、ジュノーが再び話しかけてきた。



「さあ、観念しろ。抵抗せずに大人しくするなら、命だけは助けてやろう。しかし私の望みとしては、精一杯抗って欲しいというのが本音だが……まあ、いいだろう。噂というのは、たいがい尾ひれがつくものだが、それを思いしらされた。強いと聞いていたが……この程度とは、正直拍子抜けだな」



 ジュノーの言葉を聞いて私は、どうするかはっきりと決めた。そう、私もそうだし、ルシエルだって結構な負けず嫌いである事は、間違いはないんだけど。



「ルシエル!」


「おう、どうするか決めたか?」


「うん。逃げる!」



 ズッコケるルシエル。



「に、逃げるんかい!!」


「でもああまで言われて、誤解されたまま逃げるっているのも癪じゃない。だからちゃんと、誤解をといてから逃げようか。このまま戦っていても、長期戦になりそうだしね」


「あっ、察し。そういう事ね」



 あと少しで踏み込んでこれるという距離で、ジュノーとジーク・フリートは一旦足を止めると、素早く剣をこちらに構えた。来る。



「ルシエル!!」


「おうさ!!」



 私とルシエルは、同時に手をジュノー達の方へ突き出して叫んだ。



「喰らえ、≪【火球魔法(ファイアボール)≫】!!」


「ちょっと本気!! ≪【竜巻発射(ウインドバスター)】!!≫



 大きな火球と、横殴りに発射される竜巻が、ジュノーとジーク・フリート目がけて同時に襲い掛かる。


 ドガガガーーーン!!


 爆炎と竜巻によって薙ぎ倒されたり、へし折れる木々。轟音。辺りには、土煙が舞った。



「おっしゃ!! 命中!! 見たか、俺とアテナのコンビ技、ウハハハ」


「調子に乗ってないで、逃げるわよ! ほら、こっち!」


「アイアイサー!」



 山中を走る。


 結構、強めに魔力を込めて放った【火球魔法(ファイアボール)】。まともに着弾していたら、ただでは済まないはず。だけど、あの2人は残念な事に普通じゃない。



「どこまで走って逃げるんだよ!!」


「兎に角、こっち!!」



 転がるように、山の中を駆ける。


 すると、木々が生い茂る場所を抜けた。外。目の前には、拓けた草原が広がっていた。空は快晴。とても清々しい陽気……なのに、唐突な寒気が背中から突き刺してくる。



「アテナ!」


「うん! 解ってる!」



 ルシエルと共に、足を止めて振り返る。すると、そこには漆黒の戦乙女、ジュノー・ヘラーが立っていた。



「アテナ、あいつずっと追ってくるつもりだぞ!」


「でも相方は、追いついてきてないみたい」



 きょろきょろと辺りを見回すルシエル。



「ほんとだ。鎧のオッサンは、いなくなってるぜ。それならこのまま、2人がかりでサッとやっちまうか。ちっと卑怯だけど、ルキア達もオレ達が追いつくのを待っているだろうしな」


「ルシエル!!」



 ドンッ!



 ルシエルを、咄嗟に突き飛ばした。剣。いきなり真後ろに現れたジーク・フリートが剣を振り、ルシエルを斬ろうとしたのだ。だけど私がルシエルを突き飛ばして、その剣を避けさせた。



「ちい、避けたか!」


「ひいいい!! あっぶねーー!!」



 転がった先で起き上がり、剣を抜くルシエル。私もルシエルも、さっきまでジュノーの気配しか感じていなかったのに……いきなり現れて攻撃された。



「おい、ジュノー。さっさと役目を終わらせようぜ」


「フッ。そうだな」



 再び斬りかかってくるジュノーと、ジーク・フリート。私とルシエルは、慌てて応戦する。でも次の瞬間、ルシエルの体勢が崩れた。斬られた? ううん、確かにさっきの剣は避けたはず。なのに、どうして!?



「うわあ!!」


「ルシエル、どうしたの?」



 見ると、ルシエルの両足が完全に固まっていた。氷漬けにされて、地面に張り付いている。



「こ、氷属性魔法!?」



 慌てる私とルシエルの反応を見て、薄ら笑いを浮かべるジュノー。それで彼女の魔法だと察した。


 ジーク・フリートが、チャンスとばかりに動けないルシエルに斬りかかる。



「このエルフの女は、連れて帰る命令は受けていない。だから、この場で斬って捨てる!」


「うわあああ、アテナ!!」



 ま、まずい!! 私は思い切り地面を蹴ってルシエルの前に移動し、ジーク・フリートの前に立ちはだかると彼の剣を受けとめた。


 だがその代償に、ジュノーの重い蹴りを脇腹に喰らってしまった。

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