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第890話 『黒い追手 その1』



 咄嗟の攻撃な上に、死角からの【貫通水圧射撃(アクアレーザー)】。それを難なく回避する漆黒の剣士。



「おっと、危ない! アテナ王女とハイエルフの他に、もう一人強力な頼もしい仲間がいたか!」



 漆黒の剣士、ジーク・フリートは、馬車の幌の一部を剣で破った。剣も黒くて、異様な力を放っている……禍々しい剣。



「見つけた。さっきの見事な【貫通水圧射撃(アクアレーザー)】を放ったのは、このガキのようだが……【ウィザード】か」



 ジーク・フリートはそう言って、マリンに剣の切っ先をむけようとするとマリンは、また【貫通水圧射撃(アクアレーザー)】を放った。避ける、ジーク・フリート。



「っと!! 危ねえ!! なんだ、お前は!! 問答無用か!!」


「ほほう、ボクの攻撃を二度もかわすとは、どうやら君はただ者じゃないようだね。でも今度は、外さないよ」


「なんつー恐ろしいガキだ。なるほど、お前がAランクに匹敵するっていう、Bランクか。だが、いくらやっても同じだ。お前と俺じゃ、実力差がありすぎるからな」


「へえ、実に思いきった事を言うね。でもそれ、君が弱くてボクが強すぎるって意味だよね」



 マリンの目つきが変わった。相変わらず眠そうな目をしているけれど、感情が消えたような目。私は慌てて叫ぶ。



「マリン!! 殺しちゃ駄目!! この男は、まだどういった者かも解らないから!!」


「解った。それなら足を狙って、動けなくしようか。≪【貫通水圧射撃(アクアレーザー)】≫!!」



 マリンは右手を翳すと、人差し指をジーク・フリートの右足に向けた。そして【貫通水圧射撃(アクアレーザー)】を放つ。指先からまるでワイヤーのように、高速高圧の水のビームが迸る。


 凄まじい貫通力と、速度。だけどジーク・フリートはそれをまたしてもかわして、マリンと距離を詰めた。


 ルキアとカルビが、マリンに加勢しようとしたので、私は目でそれを制した。マリンでもてこずる相手なのに、ルキアやカルビなら、一瞬で殺されるかもしないと思ったからだ。



「なに⁉ ボクの魔法をここまで……そして、は、早い!!」


「だから言っただろ? 俺にはそういう技……魔法なんてえのは、効かないって。そもそもの実力が違うんだよ」


「マリン!!」



 本当に信じられない。あのマリンが、圧倒されている。こうなったら、御者をルシエルに代わってもらって、私があの剣士の相手をする。


 刹那、誰かがジーク・フリートにタックルをした。



「ノエル!!」


「うおおっ!! なんだ、このドワーフは!! まさかこいつが、デルガルドの孫か!!」


「一目でドワーフと解るのか。だが惜しいな。確かにデルガルドの孫だが、残念ながら半分不正解。あたしは、ハーフドワーフだよ!!」



 ジーク・フリートは、ノエルのことは把握していても、私とルシエル――そしてマリンに警戒をおいていた。


 ルキアやクロエと一緒に並んで座っていた幼女に見えるノエルの事を、デルガルドさんの孫とは、思わなかったのかもしれない。全く警戒していなかった。それが功を奏したのだろう。


 ノエルとジーク・フリートは、そのままもつれ合って馬車から落ちた。地面にゴロゴロと転がる。



「ここは、引き受けたあああ!! アテナ、あたしに任せて先へ行けーー!!」



 ノエルはそう叫ぶと、背負っているバトルアックスを手に取り、ジーク・フリートに襲い掛かった。ジーク・フリートは慌てて起き上がると、ノエルのバトルアックスをあの禍々しい剣で受けて弾く。


 走り続ける馬車。ジーク・フリートと打ち合っているノエルの姿が、どんどん遠くなっていく。ルシエルが言った。



「アテナ!! おい、アテナ!!」


「うん、大丈夫!! ノエルは、私達の大切な仲間だからね!!」



 馬車を道の脇に止めと、私は馬車から飛び降りた。



「マリン!」


「ん? なんだい? ボクがノエルと代わってこようか?」


「大丈夫。それよりマリンは、ルキアとクロエ、カルビを守ってくれる?」


「それはかまわないけれど、ボクがあの剣士の相手をした方がいいんじゃないのかい。言っておくが、ボクの本気はまだまだこんなものじゃないよ」



 ちょっと不満げに頬を膨らませて言ったマリンを見て、クスリと笑ってしまった。



「知ってる。でも、ここは私がやらなくちゃだと思うから」


「解った。じゃあ皆の事は、このボクに任せてよ。でもこのボクに、上手く御者をできるかどうか」


「それなら、ノエルがやってくれるから」



 そう言うと、ルシエルが「オレにやらせろー!」って駄々をこねると思った。だけど違った。ルシエルも馬車を飛び降りて、私の隣にくる。



「オレも行くぜ」


「え? 私一人で十分だよ」


「十分じゃねーだろ? あの黒い剣士、異常な強さだし……なんというか、もう一個なんか感じるんだよなー」


「なーんだ、気づいていたんだ」


「あたぼーよ! まあ、そういう訳だからオレも行くからな」


「フフフ、ありがとう。頼りにしているからね、相棒」

 


 そう言ってルシエルに、ウインクして見せるとルシエルは、にっこりと満面の笑みを浮かべて親指を立てた。


 ノエルが押されている。私とルシエルは、急いで助太刀に向かう。馬車から声。



「アテナ―――!!」


「アテナさんーー!!」



 ルキアとクロエ。



「大丈夫だから!! 心配ないから、先に行っていてー。後で必ず追いつくからね!」



 手を振る。


 ジーク・フリートの重い一撃で、吹き飛ばれるノエル。彼女の後方へ素早く回り込み、ルシエルと共に優しく受け止めた。



「うぐっ!! ア、アテナ!! それにルシエルも!!」


「ノエル、選手交代だぜ。ここからは、オレ達に任せな」


「な、なにを馬鹿言ってんだ!! ここはあたしに任せろって言ったよな!!」


「ごめんなさい、ノエル。でも、ここは私達に任せてほしい。あと、ノエルにはルキア達を守って欲しい」


「…………」



 真剣な表情で見つめてお願いすると、ノエルは、溜息を吐いて馬車の方へと引き返して行った。そして御者席にノエルが座ると、馬車は動き出してパスキア王都へ向けて、走り始めた。


 私とルシエルを残して――


 鬱蒼とした山道。そこで私とルシエルは、ジーク・フリートと対峙する。



「はっはっは。これは願ったり叶ったりだな。俺の狙いは実はお前だ、アテナ・クラインベルト。逃げ去った馬車には、何も用はない」


「それなら、こちらも好都合だわ。それじゃ、決着をつけましょう」


「おいおい、1対2だぞ。卑怯だとは思わないのか」



 私はジーク・フリートを睨みつけて言った。



「そちらの都合で仕掛けてきたんでしょ。だから、思わない。それによく言えるね」


「は? よく言えるとは?」



 ルシエルが続けて、私の言った言葉の理由を伝えてくれた。



「いい加減、出てきたらいいんじゃねえのか? もったいぶりやがって」


「っち! バレてたか」



 ジーク・フリートが舌打ちすると、近くの茂みから2人の女性が現れた。一人は、ジーク・フリートと同じく漆黒の鎧に身を包む、銀色の長い髪の女。そしてもう一人は……ルーラン王国の騎士だった。

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