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第89話 『ライスバーガー』







 夕暮れ。カッサスの街から、少し離れた場所――――荒野で、キャンプを張った。


 ヘルツも一緒にどうかなって誘ったんだけど、ハリルの家に泊まるのだそうだ。久々の再会だって言っていたし、片手に酒瓶も握っていたし積る話もあるのだろう。



「ただいまー。狩りからもどったぞ」


「ルシエルもルキアも、ご苦労様。それで――何か獲れたの?」



 見ると、二人の後ろに何かがある。どうやら、狩りは上手くいったようだ。



「わあ、ファイヤーリザード!! やったね。二人で見事に仕留めたんだね!」



 これで、肉にありつける! って感じで、カルビも駆けまわって興奮している。



「何匹かいたので、どうしようか考えたんですが……少し離れた所に1匹でいるファイヤーリザードがいたので、ルシエルと二人でそのこを狙って仕留めました」

 

「しかも、これを聞いたらびっくりするぞ! とどめは、なんとルキアがやったんだ」


「ええーー!! 本当に⁉」


「えへへへ。もう、無我夢中で必死でしたけど……」


「オレが、矢で動きを止めてルキアが例のナイフでとどめたんだ。見事なコンビネーションだったぞ。アテナに見せたかったなー」



 それは凄い! ルキアも冒険者として日々成長を積み重ねているんだね。



「ルキアがファイヤーリザードを仕留めるなんて!! もうすっかり冒険者だね」



 顔を赤くして照れるルキア。本当によくやった。……あれ? でもルキアをよく見ると、ちょっと尻尾が焦げている。まさか……私は心配になりすぐに聞いてみた。



「ルキア、その尻尾……」



 そう言った刹那、ルキアは自分の尻尾を両手で握って隠した。



「ちょ…ちょっと、攻撃を仕掛ける時に、気づかれちゃって……火炎を吐きかけられた時に、ルシエルに助けてもらいました。でも、ちょっと火炎を尻尾にかすっちゃって……それで焦げちゃっただけで、特には大丈夫ですよ」 



 まさか、そんな危なかったなんて。ルシエルがいて、良かったよ。


 私は、「お願いだから、気を付けてね!」と言ってルキアの頭を撫でた。ルキアは申し訳なさそうな顔をした。考えてみれば、ルキアはまだ9歳だもね。パーティーの一員として一生懸命、役に立とうとする姿は健気に思える。でも、十分に気を付けないとね。



「さあ、飯だ飯! ちゃっちゃと、解体するぞー!」



 ルシエルがファイヤーリザードの解体をし始めた。本当にこのエルフは狩人だ。こういう仕事がとても早い。


 さて、じゃあ私も調理を始めるとしますかね。気合を入れる。


 私は、二人がお肉調達の為に、狩りに行っている間にメスティンでライスを炊きあげていた。今日の晩御飯は、このライスとファイヤーリザードのお肉でちょっと変わった料理を作るよ。


 まず、ルシエルがブロック状に解体してくれたファイヤーリザードの肉を、スライスしてフライパンでこんがりと焼く。美味しそうに焼けたら、特製のタレを塗り込みもう一度焼く。それができたら、今度は炊き上げたライスに少し塩と片栗粉を入れて混ぜる。しっかりとライスが混ぜあわさったら、それを平らに仕上げ円盤状にしてフライパンで両面を焼く。円盤状になったライスの形が、ボロボロと崩れなければ成功。


 以上の工程を経て、完成後、特製ダレで味付けされたファイヤーリザードの肉と、予め街で手に入れていたシャキシャキしたレタスを円盤状になったライス2枚で両面から挟んで、『ライスバーガー』の完成。


 それを8個作った。4人いるから1人2個だね。足りなければ、ファイヤーリザードの肉を焼いて、シンプルに塩胡椒で頂こう。



「うんめーーー!! ライスバーガーうんめーーなーー!! 今になって改めて、アテナがなぜ以前にニガッタ村にこだわってそこを待ち合わせにしていたか、思い知ったよ。ライスは、いいよ。んーんーんー」



 絶賛してくれるのは、嬉しいけども相変わらず、口の中から白い粒が飛び散ってくる。折角美しい金髪エルフのフォルムをしているのに、台無しだ。


 私も食べてみる。ライスバーガーに思い切りかぶりつくと、中からジューシーなお肉の旨味が、口の中に溢れ出てきた。そして、それがまたお肉を挟んでいるライスとよく合う。ライスも少し、焦げた部分が香ばしくて美味しい。これはいいものだ!



「もぐもぐ……とても美味しいです。私、このご飯大好きですよ」


「モッチャモッチャ……オレも気に入ったよ! モッチャモッチャ……うんめーー!!」



 口の周りにライスの粒をつけて話す、ルシエル。その隣、ルキアとカルビの口の周りにも白い粒とタレがついていた。それだけ、美味しくて夢中になって食べてくれているって事だね。


 食後、私特製の薬茶を入れる。焚火。夜の荒野は、温度が急激に下がる。その中で飲む、温かいお茶や焚火の炎は、安らぎを与えてくれる。


 その中で私は、明日のレースに備えて話を整理しておこうと思った。



「レースには、私とルシエルが参加する。他にハリルの方からは、ヘルツとジェニファーの二人が出るそうよ。だから、こちら側から出場するのは、私達を合わせると4人かな」


「特別レースは30人もの騎手が参加すると言っていましたね。すると、他の26人を抜いてアテナ達4人で上位1位から4位まで取れば、私達の大勝利って事ですよね」



 私達の勝利を信じて疑わない、ルキアの真っ直ぐな目。うーーん。上手くいけばいいけど、そんな簡単に行くのかなー。私とルシエルに限っていえば、レース初心者な訳だし。



「まあ全部上手くいけば、そういう事になるよね。でも、相手はプロの騎手だからね。勝てるかどうかは、正直……時の運かな」


「いや、アテナ。悪いがオレは勝つぞ! 絶対勝ってみせる!!」



 ルシエルが夜空を見上げながら言った。その後ろから、ルキアがつつくように声をかける。



「ルシエル、頑張ってください! 頑張って、ギャンブルで負けて失った私達のお金を取り返してくださいね!」


「うぐ…………お……おう!! 任された! 明日は泥船に乗った気持ちでオレ達の勝利を見届けてくれ」


「それを言うなら大船でしょ!」



 キャンプが笑いに包まれた。


 何にしても折角だからね。とりあえず、やるからには明日のレースは、ルシエルが言ったように勝つつもりでトライしたい。

 


「そう言えば、ハリルが言っていたよな。明日参加する特別レースは、広い荒野を走る長距離レースで……しかも、危険な場所を走るって。それって、魔物に襲われたりするような所を走り抜けるって事だよな」


「そうね。でも、きっとそれだけじゃないよ。この特別レースは、武器の持ち込みも許可されているレースらしいし。ハリルの納屋でジェニファーにあった時も、彼女からは、レースの騎手っていうより、何か剣士とか武術を嗜んでいるような、特有のニオイがしたわ」


「だとすると、つまりそれって……」



 私は、確信した事を言い放った。



「ずばり明日、開催される特別レースとは、通常行われているレースと違って、選手同士が潰し合うレース。デスマッチレースってことね」



 それがこの特別レースの賞金が、大金だっていう理由。


 だけどそれなら、単なるスピードとテクニックだけで勝負するのではなく、走りながらも剣や槍で戦って勝利を勝ち取るレースなら、私やルシエルの勝つ確率はグンと跳ね上がると思った。

 

 私は、ルシエルと拳を突き合わせた。








――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ファイヤーリザード 種別:魔物

真っ赤な皮膚をした蜥蜴の魔物。ガンロック王国の至る所に生息している魔物で、口からは火炎を吐く。火だるまにされる冒険者もいる事から危険な魔物ではあるが、その素材は余すところがない。牙は火打石になるし、内臓や肉も売る事ができる。なので、この魔物を見つけては狩って素材を売って生活する冒険者もガンロック王国には多々存在する。ファイアリザードではなく、ファイヤーリザード。


〇メスティン 種別:アイテム

飯盒。ライスだけではなく、他の調理にも使える優れもの。


〇ライスバーガー 種別:食べ物

美味しいよね。バンズの代わりにするライスは、そのまま固めて焼くとボロボロと崩れる。なので、片栗粉等を使って形を作るとしっかりとしたバンズの形をしたライスができあがる。


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