表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
888/1345

第888話 『アシュワルドの強さ』



 私は目を細めて言った。



「お役目ご苦労様です。それじゃあ、ここまでで大丈夫ですから、あなた達は本来のお仕事に戻ってください」



 怪訝な顔をするアシュワルド。



「は? 私は、姫様……アテナ様を無事パスキアまでお守りする役目を、仰せつかり参上した次第でありますが……その私に今すぐ、国境警備の任へ戻れと⁉」



 険しい顔をするアシュワルドに、流石にルシエルもビビる。アシュワルドって、体格も大きいし筋肉モリモリだし、明らかに強そうで迫力のある顔をしているから、普通の人なら怖がっちゃうのかな。でもハンサムだからモテるし、実は綺麗な奥さんがいたりする。


 まあ私は、子供の頃から彼の事を、ゲラルド同様に知っているから、怖いともなんとも思わないけれど。



「そうよ。本来のお仕事である国境警備の任務であったとしても、エスメラルダ王妃直々の護衛の役目でもいいわ。でも私の護衛なら、必要ないから」


「ですが、アテナ様。この辺りは、危険な魔物もでますし、盗賊も現れます」


「だから大丈夫だって。心配しなくても、ちゃんとパスキアに行くから。それに私はこう見えても、Aランク冒険者なんだから。因みにそっちにいる2人もAランクだし、あっちのBランクの【ウィザード】も実力はAランクよ」



 アシュワルドに、ちゃっかりとルシエル、ノエル、マリンを紹介する。流石にこのメンツなら、アシュワルドも納得するはず。



「Aランク……この娘達が……」



 アシュワルドの視線が3人へ向いた。その眼光はとても鋭く、流石の3人も緊張している様子。だけどルシエルは、アシュワルドに向けて軽く手を挙げた。



「お、おっさん、大丈夫だよ。オレ達がついてっからよ」



 ルシエルを、また睨みつけるアシュワルド。でも今度は、ルシエルは引き下がらずに前に出た。


 この一瞬怖がって見えても、基本的には物怖じしない性格は見事だと思う。だけどいくらルシエルでも、相手がアシュワルドっていうのは……


 アシュワルドは、ルシエルの真ん前まで移動すると、上から見下ろして言った。



「ほう、エルフの小娘。貴様らを本当に信頼してもいいのか?」


「え? そんなん当たり前に決まってんだろーがよ! もちのほんよ! オレは、なんてったってAランク冒険者だぞ!」


「俺は、クラインベルト王国国境警備指令だ」


「な、なんだと!? それは、凄いな!」



 やっぱり、ゲラルド同様に威圧感が凄いなあ。あのルシエルが一歩、後ずさる。



「で、でも、そ、それがどうした? オレのが強いわい!」


「なら試してみるかい? Aランク冒険者だと? その程度なら、簡単に捻って千木って投げて終わりだ」


「ひ、捻って千切るだと⁉ そ、そんな事しちゃいけなんだぞ!! こ、国境警備している偉い人が、そんな事をしちゃいけねーんだぞ!! それにオレはこう見えて、114歳だぞ! おっさんは、どう見ても60位だろ。なら、歳上は敬えよな!」



 アシュワルドの額に血管が浮き出ているのが、解った。そういえば、アシュワルドって40代後半だったよーな。


 子供みたいにその場で何度も跳ねて、アシュワルドに言葉をぶつけるルシエル。止めないといけないんだけれど、ぷぷぷ……あのルシエルが必死になって、アシュワルドに抵抗している光景は、可愛くて微笑ましいしちょっと笑っちゃう。


 でもそろそろアシュワルドを追い返して、先に進まないとね。そう思ってアシュワルドに、帰ってってもう一度言おうとした所で、今度はルシエルの隣にノエルが並んだ。



「おい!」


「なんだ、小娘」


「小娘とはなんだ! あたしには、ノエル・ジュエルズという立派な名前があるんだ」


「ノエル……ジュエルズ……」



 何かに気づく、アシュワルド。



「もしや、お前……父親……いや、祖父の名はなんという?」


「デルガルド。デルガルド・ジュエルズだ」



 これにはアシュワルドも驚いた様子。伝説級の冒険者、ヘリオス・フリートの名は、武を極める者であれば、一度は耳にしたことがある名前。SSランクの冒険者。


 彼は私の師匠であり、クラインベルト王国にも暫くいてくれた時期があった。前王妃のティアナ……私のお母様とも友人だった。


 だからゲラルドやアシュワルドは、とうぜんその名を知っているし、会ったこともあるし、同じ武芸を極めるものとしても意識をしてきた。


 そのヘリオス・フリートが以前にパーティーを組んでいた仲間、デルガルド・ジュエルズ。その名を当然のように知っていても、なんの不思議もなかった。しかもデルガルドさんも、ドラゴンを素手で殴り飛ばす事ができる位に、とんでもなく強い人だった。



「そういう事か、なるほど」


「そういう事だ。なんなら、あたしと今ここで剣を交えてみるか? あんた強そうだが、世界は広いんだなって改めて思い知るぞ」


「こんらー、ノエル!! 勝手に、オレとおっさんの間に入ってくんなっつーの! このおっさんは、今このオレとお話ししてんだっつーのよ!!」


「はあ? いいからお前は、ここで静かに大人しくしてろ。もう選手交代なんだよ!」


「なにをー!! そ、そんなん横入りだぞーー!!」



 今度は、ルシエルとノエルでもめだしたので、私は溜息を一度吐き出すと二人の間に入って止めた。そしてまたアシュワルドの方へ向き直り、言った。



「兎に角、もう大丈夫だから、帰ってアシュワルド」


「しかし、姫様……」


「帰って! お願い……」



 アシュワルドの目を見つめて強く言う。すると、アシュワルドは暫く沈黙した後、振り返って部下たちに、「行くぞ!」と一言だけ発した。


 そして、エスメラルダ王妃のもとへ向けてか、それとも国境警備の任に戻ったのかは解らないけれど、彼らは姿を消した。


 アシュワルドはアシュワルドで、私の事を凄く心配してくれている。それは解るけれど……でも私には、こんなにも頼りになる仲間たちがいるし、今の私は冒険者アテナ・フリートだから。変な気遣いは、いらない。


 隣に、そそそとルシエルが来て囁く。



「あのおっさん、相当強いんなー」


「うん、強いよー。ルシエルなんて、簡単に捻られちゃうよ」



 私がまた冗談を言っていると思って、ケラケラと笑うルシエル。



「アシュワルドは、クラインベルト王国ではゲラルドと並ぶほどの剣士だからね」


「え? ゲラルドって……本当?」


「うん、本当」



 ゲラルドの名を出して、ようやく顔色が変わる。ルシエルも一緒に、ルーニやお父様達と楽しんだ王都キャンプ場。そこでルシアルは、ゲラルドに出会っている。その時に、同時にゲラルドが相当強いって知っている。


 だからこそルシエルは、アシュワルドがゲラルド並みに強いと聞くと、笑うのをやめてゴクリと唾をのみ込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ