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第887話 『迫る騎士団』



 パスキア王国に入国した。もう直ぐで、山を抜け出る。そうすれば、何処までも続くような、パスキアの雄大な平原が顔を見せるはず。


 馬車を走らせていると、後ろからマリンがチョロっと顔を出してきた。



「ちょっといいかい、アテナ」


「え? 今度は、マリン? どうかしたの?」


「うん、どうかしたんだよ。実は、この馬車の後方から何者かが迫ってきているよ」


「え? 本当に⁉」



 マリン表情は、落ち着いている。でも、とても冗談を言っているようには思えない。しかも、誰かがつけてきている……ではなく、迫ってきている。っという事は、このままいけば、いずれ私達に追いついてくるという事か。


 それでパっと考えられるのは、ドルガンド帝国。でも後方から来ているって事は、クラインベルト王国方面からって事になる。パスキア王国から誰かやってきているのであれば、前方から来るはずだし。


 頭を巡らせていると、マリンの横からルシエルも、ニュルっと顔を出してきた。



「おーーい、なんか来てんぞ!! 後ろから、見えるだけでも何十騎って騎兵がこっちに向かってきているんだけど。どうする?」

 

「アテナ……」



 不安な顔をするルキア。彼女の頭をなでると、また考えた。


 何十騎……しかも騎兵って事は、軍隊でしょ。どうしようかな……



「どうする、アテナ? なんならオレがぶっ飛ばしてきてやろうか!!」


「ダーメ。まだ敵だと決まった訳じゃないでしょ。ノエル、ちょっといい?」


「なんだ?」


「御者をちょっと、変わってくれない?」


「それならオレっちが! あっ、こら!」



 御者席。私とルキアの間に、無理やりに入ってこようとしたルシエルを押し返す。その隙に私は、ノエルと御者を交代して、馬車の後部へと移った。



「しどいーー、オレが交代するっつったのんにー!!」


「それはやーだ」


「なんでー」


「なんか、怖いから。ほら、ノエルの邪魔しない」


「なんだよ、ケチー、ケチー。オレは馬だって、クルックピーだって誰よりも上手く扱えるんだぞー。馬車だって上手く操作してみせるってー」


「はいはい。それじゃまた、そのうち頼むから」


「ヒンッ! ちっきしょー」



 馬車の後部荷台。幌から顔を出して、後方から何者が迫ってきているのか確認をする。


 あれ? あの騎兵が持っている旗……あれは、クラインベルト王国の紋章が入っている。って事は……



「ノエル!! 聞こえる!!」


「ああ、聞こえているぞ!! どうする、このままスピードあげて、突っ切るか。だがプッシュオックスと軍馬じゃ、勝負にならないぞ。直に追いつかれる」


「ううん、もういいの。追ってきているのは、クラインベルト王国の兵士だと思う。このまま道の脇に、馬車を停車させてくれる?」


「なに? 解った!」



 ノエルは馬車の速度を落とすと、私がお願いしたように道の脇に停車させた。騎兵が追いついてきて、馬車の前までやってきた。


 いきなりの事態に、あきらかに怯えるクロエ。彼女の肩に優しく触れて、「大丈夫だから、任せて」と明るい声で言って、彼女を安心させた。そして馬車から降りると、続けてルシエルとノエル、それにマリンも降りた。


 ルシエルが耳打ちする。



「もしかして鎖鉄球騎士団? あいつらも今頃、エスカルゴ王妃の護衛をしながら、同じ目的地目指しているんだろ?」


「あはは、エスカルゴって、それカタツムリだから! もう、やめてよ。エスメラルダ王妃ね。でも外れ。彼らは、鎖鉄球騎士団じゃないわ」



 今度はノエルが言った。



「もしかして、鹿角騎士団(ろっかくきしだん)か」


「ううん、シカノスは、もしかしたらこっちへ来ているかもしれないけれど、それならきっと、エスメラルダ王妃の護衛についているんじゃないかな」


「するとこいつらは……」



 騎兵が私達の乗る馬車の前に集まり整列すると、部隊の後方から大柄の男が進み出てきた。バーン・グラッドのように丈夫そうな筋肉隆々の身体……ううん、この人の方が筋肉は凄いかも。


 立派な鎧甲冑に、身体に似合った大きな剣を腰に佩いた姿は、威風堂々としてまさに武将といった感じ。


 その男は、私の前まで近づいてくると、鋭い眼光で、まるで睨みつけるように私の目を見ると跪いた。すると他の兵達もその場で一斉に跪く。



「え? 知り合いなの?」



 きょろきょろするルシエルを見て、緊張感がとけてしまう。まあでも、私も見知った顔である事は、間違いないんだどね。


 外の状況を気にして、馬車からルキアとクロエとカルビも降りてくる。それを見て、私は皆に聞こえる声で言った。



「皆、心配しなくていいから。この人は、クラインベルト王国国境警備司令官の、アシュワルド・ブラスコネッガー」


「も、ももも、ものっそい、名前じゃねえええか!! 絶対強い奴の名前だぜー!! いいなー、オレもルシワルド・アルディコネッガーに改名しよっかなー」


「なに言ってんのよ、もう」



 ルシエルの声に、アシュワルドが彼女を睨みつけた。流石のルシエルも、アシュワルドの迫力に圧され、目線を反らしてへたくそな口笛を吹いて誤魔化している。



「今の私の身分は、単なる冒険者だし、楽にしていいわよ、アシュワルド。あと、他の皆もね」



 そう言うと、アシュワルドは立ち上がる。そして部下たちを見回すように目を向けると、兵士全員が立ち上がった。



「お久しぶりね、元気だった? アシュワルド」


「はっ! 姫様もご壮健のようで、何よりでございます!」


「姫様って……今は、これでもお忍びなんだから、アテナでいいわよ。それでどうしたの? 何か、ものものしい感じがするんだけど……」



 笑いを堪える声。目をやると、ルシエルが両手で口を抑えている。


 私がちゃんと王女様やっているから、それを見て可笑しくてしょうがないと言った感じ。普段の私を知っているから、余計に可笑しいんだろうけど。でもアシュワルドは、結構真面目な性格だから、お願いだから茶々を入れないでよね。



「はっ! アテナ様がパスキア王国へ到着されます間、我らが護衛につかせて頂きます。微力ではございますが、馳せ参じた次第にございます!」


「ふーん、それは、お父様の指示で?」


「いえ、エスメラルダ王妃の命に従っております!」



 なるほど……

 

 これは護衛というか、私が途中で約束を反故にして、何処かへ行っちゃう事がないように見張りをつけたんだな。


 まだパスキア王都にも到着していないのに、なんだか重い溜息が出た。

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