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第884話 『ペロリ』(▼アテナpart)



 山道を馬車で行く。


 今乗っているのは、馬車だけどその馬車を引いているのは、牛。プッシュオックスという(しゅ)の魔物で、身体も大きくとてもパワフルだけど、大人しい。だから、こうして馬車を引いたり、農耕用に適した牛らしい。


 私達は、途中立ち寄ったエドウィー村で、この馬車と牛をもらって、パスキア王国までの旅を続けていた。


 後部荷台、馬車の中にはルシエル、ルキア、カルビ、ノエル、マリン、クロエの6人が乗り込んでいる。


 少し前は、3匹のバジャーデビルの赤ちゃんもいたけれど、このままこの子達を連れて旅するのは大変だという事と、パスキア王国へは連れていけないから、この山で出会った木こりのパテルさんに預けた。


 今になってやっと、3匹のバジャーデビルと別れてとても寂しい気持ちになっている自分に気づく。


 だって、バジャーデビルって気性も激しいし、狂暴で人を襲って食べると言われている魔物だけれど、赤ちゃんはとても可愛かったから。それにあの子達3匹は、決して人は襲わない。そう思える位に、可愛くていい子達だった。


 パテルさんは、木こりだけど以前は冒険者で、【ビーストテイマー】のクラスについていたという。だからパテルさんの住んでいた家には、パテルさんと家族になっていた魔物や動物達が沢山いた。一緒に仲良く暮らしていた。だからあの3匹もきっと大丈夫。あそこならすくすくと、元気で優しい子達に育つと私は確信している。


 でもあれだな。もう出発しちゃったんだけど、もっとウィニーやテガー達と戯れたかったな。普通、あんなダイナミックベアとか、サーベルタイガーのような猛獣系の魔物と戯れられる事なんてそうそうない。


 そう考えると、もっとウィニーやテガーに抱き着いて匂いとあの肌触りを……



「アーテナ!」


「ル、ルシエル!」



 馬車の後部から、御者席の方へルシエルが顔を出してきた。そして隣の席へ移動してくる。



「よっこらしょーいちっと! ふいー、よし、アテナ! 御者を代わってやろうか?」


「え? いらなーい」


「え? なんだよ、それ。ずっと御者やってっから、オレが代わってやるよって言ってんのにー」


「いらなーい。だって、ルシエルに任せたら、谷底とか崖に突っ込みそうなんだもん」


「こら!! そんな事になんねーよ。オレに任せれば、大丈夫だっちゅーの。御者なんて簡単よ。なんせオレのクルックピーの扱いは、知っているだろ?」


「それは知っているよー。だって一緒にカッサスの街のクルックピーレースに出たんだもん」


「ほらな。なら任せろって」


「嫌よ。だって、ルシエル、御者をした事がないでしょ」


「したことないけど、できるって! アテナだってしてんじゃんよー」


「私はだって、小さい時から経験があるんだもん。馬車の扱いって、他の人も乗せていたら、ちゃんと周囲を見て進まなきゃだし……ルシエルは、注意力散漫だから任せられないかな」


「あ、あんだとおおお!! そこまで言うか? ちきしょー、アテナめえええ!!」


「ちょ、ちょっとやめなさい!! 今、御者をしているんだから、ふざけないで!! って、きゃあああ、ぞわわってしたああ!!」



 ルシエルがいきなり私の顔に、頬ずりをしてきたので身体に悪寒が走った。両手で手綱を握っていたけれど、片方の手でルシエルの肩を押した。



「ちょっと、あっち行って!!」


「なんだよ、なんだよ、押すなよな。オレとアテナの仲じゃないか。いいじゃんかよ」


「あんたは、盗賊か!! って私とルシエルの仲ってどういう仲よ!」


「そんなの決まってんじゃん! 一緒に旅して、一緒に食事して、一緒にお風呂に入って、一緒に同じお布団入って……それってもう、アレだよな、フヒヒ。ムチュチュチューーー」


「いやあああ!! こら、やめなさい!!」


 ギュギュギュギューー!!



 口をとがらせて、迫ってくるルシエルを全力で押した。だけど御者をしながらな上に、片手じゃとてもルシエルを押し返せない。ルシエルが思い切り尖らせた唇が、ついに私の頬に届いた。またぞわわっとして、悲鳴をあげる。すると、馬車の中からルキアが顔を出した。



「ちょっと、何をしているんですか、ルシエル!! アテナの邪魔をしたら、駄目ですよ!!」


「ちげーし、邪魔なんかしてねーし! まーーたルキアは、オレを悪者にしよってからにー、まったくもー」


「今のは、絶対邪魔をしていましたよ。だってアテナの悲鳴が聞こえたもん! ルシエルは、いつもそうやって……」


「なんだとー!! アテナがずっと御者をしてっから、ちょっと楽しそ……じゃない、大変そだなと思って、御者の役目をちーとばかり代わってやろうと思っただけなのにー!! どいつもこいつも、オレの優しさの解んねー奴らだ!! いいさ、こうなったら、もうどうなってもしらねえぞ!! 喰らえ、ペロッ!!」



 ルシエルはそう言って、私の鼻の下をペロリと舐めた。嗅ぎたくなくても、強制的に嗅がされるルシエルの唾液のにおい。



「あああああああああ!!」


「ワッハッハッハ!! どうだ、アテナ!! オレを怒らせると、こうなるのだ!! 思い知ったかああ!!」


「アテナ、大丈夫ですか!!」


「もおおおお、大丈夫じゃなああああい!! ちょっとルシエル!!」


「ヒャッヒャッヒャッヒャ!! もう満足したからいやーや。退散退散っとー」



 ルシエルは笑い転げて回ると、そう言って素早く、馬車の中に潜り込んでいった。もう!! いったいなんなの、あのエルフは!!


 ルシエルに舐められた鼻の下を、ハンカチでごしごしと擦る。クンクンと嗅ぐと、やっぱりルシエルの唾液のにおいがほのかにする。っもう!!



「大丈夫ですか、アテナ?」


「大丈夫じゃないよー、っもう!」



 私の嘆きが聞こえたのか、馬車の中から再びルシエルの笑い声。きっと、お腹をかかえて笑い転げているな。まったくもー、なんて事をするのよ。


 御者席。今度は隣に、ルキアがちょこんと座った。

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