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第883話 『二将への任務』



 帝都へ引き上げ始める。


 その中で私は、ジュノー様の横に侍り、ヴァルツ将軍とフリート将軍を交えた会話に耳を傾けていた。



「パスキア王国ヘは、アテナ王女だけが向かっているのか?」


「いや、王女は冒険者に身を落としていると言っただろ。他に仲間がいる」



 それを聞いてジュノー様は、微かに笑った。



「フッ、くだらん。ろくに護衛も率いずにいる王女一人、捕らえるのにわざわざドルガンド帝国の将軍が、二人も動くまでもないだろう。この件は、ジーク・フリートに任せる」



 二人ではない。ジュノー様が行くのであれば、私もお供をする。当然だ。そう決めていた。



「駄目だ。ジュノーには、ジーク・フリート将軍と共に、アテナ王女を拘束しに向かってもらう」


「なぜだ? 小娘とその変な趣味に付き合わされている仲間……単なる冒険者数人だろう。竜殺し殿なら、一瞬で片がつくな」



 確かにその通りだ。ジュノー様の言っている事は正しい。


 アテナ王女の年齢は、まだ16歳か17歳……それ位だったと思う。そんな娘と、彼女の行動に付き合わされている護衛代わりの冒険者数人、ジュノー様やフリート将軍の相手にはならない。


 だがヴァルツ将軍は、またしても、笑った。



「何がおかしい? クリスタフ」


「いや、すまん。それとようやく、親しみを込めた呼び方をしてくれて嬉しいよ。実は先ほど聞いていたと思うが、アテナ・クラインベルトは、かの伝説級冒険者ヘリオス・フリートの愛弟子であり、その剣の才能はもはや達人をも凌駕するという」


「どの程度だ? 言っても片田舎の剣術道場で、一番って程度だろう?」


「ドワーフの王国を救った事件、記憶にあるか。それをやってのけたのが、アテナ王女だ。彼女は、その際にリザードマンの国、ザーシャ帝国が秘密兵器として引き連れてきた地竜をも一刀両断にしたという」



 地竜を一刀両断って!! そんな真似ができる人間がいるのか……!? いや、ここに二人はいる。


 でもそんな。単なる剣術好きのお姫様が、ジーク・フリートと同じく、竜殺しなんて大業をやってのけたとでもいうのか!?


 流石にこれには、ジュノー様も驚きの表情を見せた。



「彼女の仲間も、つわものだ。ノクタームエルドでは、若手最強と名高い冒険者チーム、アース&ウインドファイアの、アースの異名をもつノエル・ジュエルズ同行している。彼女の父親はドワーフだが、母親はヒュームだそうだ。そのせいか、その姿は小さな少女そのものだが、中身はドワーフを超える怪力を持つという」


「なるほど、面白い。アース&ウインドファイアという名は、一応耳にしたことはある。そのアースが、ハーフドワーフだったか」


「驚くのはまだ早いぞ。ノエル・ジュエルズ。その祖父は、あの名高い鍛冶職人デルガルド・ジュエルズだ」


「デルガルド・ジュエルズ……」


「かつてヘリオス・フリートは、パーティーを組んで、冒険者の活動をしている時期があった。その時に、一緒に組んでいた一人で、デルガルド・ジュエルズは、Sランク冒険者だった。それも相当に無双の強さだったそうだが、彼女はそのデルガルドの孫だ。とうぜん、その戦闘能力も受け継いでいる」


「面白い! 確かにそれは面白い」


「あとこれを聞いた時には、私も驚きを隠せなかったが、魔導大国オズワルトの天才魔法使いとして有名な、マーリン・レイノルズも旅の仲間になっているという」


「マーリンだと? その名前は知っている! 知っているぞ!!」


「私は思う。ジュノー、君はドルガンド帝国最強だと思う。だが私の間者の情報が正しく、本当にアテナ王女と共にいるのがあのラダン・レイノルズの孫、マーリンであった場合、君はきっと返り討ちにあうだろうと」



 ジュノー様に、敵はいない。最強。それはジュノー様ご自身も思っていられる。だからこそ、ジュノー様はヴァルツ将軍を睨みつけた。



「ジュノー、どうやらやっと引き受けてくれる気になったようだな」


「いいだろう。だがそこまで言われたのだ。マーリン・レイノルズと、ノエル・ジュエルズは殺してもいいのか」


「必要であればかまわない。だが、アテナ王女は絶対に殺してはならない。だからと言って、ヘリオス・フリートの愛弟子を簡単に捕らえられるとも思わない。殺さない程度にして、捕まえて連れてくるんだ」



 ヴァルツ将軍はそう言って、足を止めるとフリート将軍に石のようなものを手渡した。フリート将軍は、それが何か知っている。



「転移の魔法石か」


「よく知っているな。それがあれば、現在アテナ王女がいると報告が入っているパスキア国境付近まで、ひとっとびだ。今から、直ぐに向かってくれ。それとアテナ王女と別行動で、エスメラルダ王妃とエドモンテ王子も同じくパスキアへ向かっているらしいが、そちらは手を出すな。王妃子飼いの鎖鉄球騎士団、他2千名の兵が護衛についている。我々が必要なのは、アテナ王女だ」



 ジュノー様とフリート将軍は、頷いた。そして早速フリート将軍は、ヴァルツ将軍から受け取った転移の魔法石を掲げた。石が光り始める。私は慌てて、ヴァルツ将軍に駆け寄る。



「あ、あの!! 閣下!! 私も、ジュノー様のお供に!! お願いです、どうか!!」



 ヴァルツ将軍は、微笑んでこたえた。



「いいだろう。だが急げ、もう転移するぞ」


「あ、ありがとうございます、閣下!! ありがとうございます!!」



 振り返り、ジュノー様とフリート将軍の隣にかけよる。



「いいのか、ベレス。魔導大国の天才、マーリン・レイノルズがいるとなると危険だぞ。他に兵もいない、死ぬかもしれんぞ」


「かまいません!! ジュノー様の共をできるのなら!!」



 フリート将軍が叫んだ。



「行くぞ!! 目的地は、クラインベルトとパスキアの国境だ!! 俺から離れるなよ!!」



 フリート将軍が掲げた石から、更に光が放たれる。光は更に強くなり、辺りは真っ白になった。転移――最後にヴァルツ将軍の声がきこえた。



「そうそう、そういえば言い忘れていたが、現在アテナ王女は、旅のトラブルを避けるためにアテナ・クラインベルト改め、アテナ・フリートと名乗っているらしいぞ」



 私の近くで、誰かがズッコケるような音がした。辺りは、光で何も見えない。だけど私には、あの竜殺しの異名を持つジーク・フリート将軍が、まさかズッコケているなんて想像はできなかった。きっと、見間違い……


 誰か近くを歩いていた兵士が、転んだかなにかした音。きっとそうに違いない。

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