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第87話 『賭け友』






 私たちは一瞬にして、全額を失った。絶望に打ちひしがれた。



「はっはっはっ。見事に負けてしまったな。ごめんごめん!! ほ……ほら、ギャンブルってのはな! 時の運だから!」


「っもう! ごめんじゃないですよ! 私、ちゃんと言ったじゃないですかー!! お金、全部無くなっちゃって、これからどうするんですかーー!!」



 ルキアは、逃げて回るルシエルを追いかけ回して、ポカポカと叩いている。その必死になって追いかける可愛い猫耳少女の様子に、ちょっと癒されたので少し気持ちが楽になった。まったくもールシエルには、困ったものだ。


 …………それに、


 まあ――――最悪私には、少しは貯えがあるから、いざとなったら銀行に行ってお金を引き出せばなんとかなるんだけどね。このカッサスの街にも当然、銀行はあるわけだし。



「ごめんごめん! ごめんって言ってるだろー。もう、十分に謝っているから許してくれよー」


「んもーーー!! ルシエルったら! ルシエルったらー!!」



 そんな二人を見て、カルビが尻尾を振っている。やっぱり、じゃれ合っていると思っているのだろう。違うんだよー、カルビ。


 その時、誰かに肩を叩かれて、話しかけられた。振り向く。



「へっへっへ! 金に困っているみたいだね! アテナちゃん!」



 振り返ると、そこには懐かしい顔があった。



「ヘルツ!! ヘルツ・グッソー!!」


「っよ! 久しぶり、アテナちゃんにルシエル! それと、子猫ちゃん? ……に、ウルフ⁉」


「うわーーー!! ヘルツーー、久しぶりだなーー!! どうしてたああ。なあ? ほんとにどうしてたんだよー!! ちゃんと、食べてたか?」



 ルシエルが興奮している。そう、ヘルツは以前にクラインベルト王国を旅していた頃に知り合った冒険者。ルシエルとは、その際に狩り友になった。そして、その時はローザもいて4人でキャンプの焚火を囲んで仲良くご飯を食べた。そういえば、ローザが寝ぼけてヘルツの事を「パパ」って言ったんだっけ。ぷぷぷぷ。懐かしい思い出だね。



「この子は、仲間のルキア。そして、このウルフは私たちの使い魔のカルビ。二人とも私たちの大切な仲間だよ」


「初めまして。ルキアです。アテナとルシエルとは、パーティーを組んでいます。よろしくお願いします」


「ルキアちゃんね。よろしくー。オレッちは、冒険者ヘルツ・グッソーってんだ。そして、そっちのウルフが…………カルビ……ぷぷぷぷ。あーーはっはっはっは。そりゃあいい!! カルビか!! ウヒヒ」



 ガルウウウウウ!! 

 


 ガブッ!!



「あいたああッ!! このクソ犬!! やめろって!!」



 カルビは、自分がバカにされている事に気づいて、ヘルツを齧った。



「それで、ヘルツはどうしてこのガンロック王国へ? ギルドの依頼か何かで、こっちへ来ているとか?」


「へっへー、オレッちがこの国へやってきた理由――――それはこの国で年に一回行われているフェス、ガンロックフェスを楽しむ為さ。実はオレッちは、そのイベントの参加者なんだぜ。これでも毎年参加しているんだぜ。今年もその時期になったんで、この国へ勇んでやってきたわけよ」



 ヘルツは、そう言って自慢げにギターを弾く素振りを見せつけた。



「なんだそれ? ガンロックフェスってなんだ、アテナ?」



 興味津々のルシエル、ルキアも注目している。私は、二人にガンロックフェスについて少しは知っていたので、説明をした。


 ガンロックフェスとは、このガンロック王国で年に1度、開催されているミュージシャンによるミュージシャンとそれを愛する者の為の大イベント。参加者は、毎年300人を超え、それを見にやってくる入場者数は2万~3万人も集まるという、世界最大の野外音楽ライブイベント。


 このヨルメニア大陸全土はおろか、世界中から音楽家が集まり、そこで色々な音楽を三日三晩演奏し続けるという。まさに、お祭り。


 このイベントは、国の収益にも大いに貢献しているので、王国全体が国をあげて開催支援している。確か、この国の王女、ミシェル・ガンロックもロックミュージシャンで、フェスに参加しているそうだ。



「いってみたい!! いってみたいぞ! アテナー!! オレもそのフェスに興味深々だぞ!」


「ウフフフ。私も一度、行ってみたいと思ってたからいいかもね。フェスは、広い荒野のど真ん中で開催するんだけど、三日三晩ぶっ通しでやるから、みんなそのフェスが行われている期間は、その荒野でキャンプするんだよ。ちょっとそういう事を聞くと、キャンパーとして捨て置けないよね」



 それを聞いてルキアは、目を丸くした。



「お店とかもあったりしますか? 音楽って、あまり色々知らないから私、聞いてみたいです。ギターとかドラムとかって楽器があって、ロックミュージックていう、凄くかっこいい音楽があるって昔ミラールから聞きました。カスタネットや笛みたいな楽器なら、私の村にもあったんですけど」



 私は、ザックからリンド・バーロックの本を取り出して、二人に見せた。



「私がフェスの事を知っていたのも、実はこの本の受け売りなんだけどね。リンド・バーロックも、そのフェスを見に行ったそうよ」



 つまり、リンド・バーロックが旅していた時代…………ガンロック王国では大昔から続いている大イベントなのだ。それならなんとしても見たい。それに、どちらにしても私たちの今している旅は、リンド・バーロックの旅の本をトレースしている。



「だから、このカッサスの街を出たら、次はガンロック王国の王都を目指すつもりよ! そこで、フェスが開催されているからね」



 それを聞いてルシエルもルキアも、興奮して飛び跳ねた。しかしその直後、そこまでの路銀が無い事に気づいたて、項垂れた。レースの賭けに負けたのは、記憶に新しすぎる。


 ヘルツが手を叩く。



「聞いてくれ。オレっちも、さっきレースで金を全部すっちまってな。正直、困っている。このままじゃ、フェスに参加はおろか、そこまでの路銀も足りねえ。だから――――ここは、一つ儲け話があるんだが、それにのらないか?」



 儲け話…………だいたいそういうのって、まともな話じゃない。だけど、ルシエルの狩り友であるヘルツの話だし、聞いてみるだけならと思った。



「一応、聞くけど、儲け話ってなに?」


「気になるだろー? めちゃくちゃ強い、アテナちゃんやルシエルなら確実に、ドカっと稼げるぜ!」



 めちゃくちゃ強い? それってどういう…………



「ずばり、ここのレースに参加するんだ。っていっても、賭ける方じゃねーぜ、駆ける方だ。レースに参加して、優勝賞金を頂く!! これだ!!」



 レースに私達が参加って⁉ ええーーーーーー!!


 それを聞いて、困惑する私とルキア。それをよそに、ルシエルのテンションは爆発した。








――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ローザ・ディフェイン 種別:ヒューム

クラインベルト王国、国王陛下直轄騎士団『青い薔薇の騎士団』団長。アテナやルシエルとは親友で、一緒に旅をしりキャンプをしたりもある。悪には太々しく見える時もあるかもだけど、親しい者にはとても好意的。正義感も強いが、ドジっぷりをアピールしてしまったり可愛いところもある。ローザという名前の意味は、薔薇。彼女の騎士団の名前は、彼女の名前と親しい友人であり主人でもあるアテナの髪色からつけた。


〇ヘルツ・グッソー 種別:ヒューム

Dランク冒険者。狩り好きの冒険者。団体行動は、あまり好まないのか一人で活動している。クラスは【アーチャー】でボウガン使い。ルシエルとは、彼女が狩りをしていた最中出会い、狩り友となる。一人称は、「オレッち」。女好きで酒好きで、ギャンブル好き。だけど、人は良い。可愛い女の子を見ては、鼻の下を伸ばしているが、意外にも結構紳士的な性格。特にルシエルとは気が合うようだ。


〇リンド・バーロック 種別:ヒューム

およそ150年前にいた、冒険家。キャンパーでもあり、アテナは彼のファンで彼の書いた本を愛読している。


〇ガンロックフェス

ガンロック王国で年に1度、開催されているミュージシャンによるミュージシャンとそれを愛する者の為の大イベント。参加者は、毎年300人を超え、それを見にやってくる入場者数は2万~3万人も集まるという、世界最大の野外音楽ライブイベント。このヨルメニア大陸全土はおろか、世界中から音楽家が集まり、そこで色々な音楽を三日三晩演奏し続けるという。まさに、お祭り。このイベントは、国の収益にも大いに貢献しているので、王国全体が国をあげて開催支援している。ガンロック王国の王女ミシェル・ガンロックもロックミュージシャンとして、フェスに参加している。ヘルツはこのフェスに参加したくて、ガンロック王国までやってきた。


〇儲け話

街や村に行けば、大抵こういう話は転がっている。中でも、酒場にはもっと転がっていたりする。しかし、儲け話が転がっているからと言って、必ずしもそれで儲かるかと言われればそれは結果を見てみるまで誰も解らない。


〇うまい話

街や村に行けば、大抵こういう話は転がっている。中でも、酒場にはもっと転がっていたりする。しかし、うまい話しが転がっているからと言って、必ずしもそれがうまいかと聞かれてみても、結果を見てみるまで誰も解らない。


〇ギャンブル

賭け事。他の国でも合法の国は多いが、ガンロック王国も認められている。特にカッサスの街のクルックピーレースは、他国でも有名なギャンブルで街及び、王国が運営している。クルックピーレース目当てで外国から来る者も多く、興行収入は凄まじい。


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