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第865話 『ジュノーの扱い』



 ルーラン王国一の怪力を持つ、勇将ボンバータ。彼は今まさに対峙しているジュノーに、仲間と部下を一瞬にして氷漬けにされて、殺された怒りに身を震わせていた。


 通常のものよりも、明らかに重量のあるモーニングスター。それをブンブンと振り回して、ジュノーに投げつける。



「喰らええええ、小娘が!! バラミスと部下たちの仇!! それに今まで帝国によって無残にも殺された、ルーランの民達の無念、俺が晴らしてやるぜえええ!!」



 いくらジュノーが強くても、見た目は線の細い娘だ。あんなモーニングスターの鉄球をまともに喰らいでもしたら、一撃で全身の骨が粉砕するだろう。そう思ったが、モーニングスターの一撃は、ジュノーには掠りもしない。


 ジュノーは、相変わらず構えもせずに、ただただ右手に剣を持ち、感と才能だけで相手の攻撃を避けているように見えた。翻弄。


 やがてボンバータの息は、激しくあがっていく。



「くそ――!! くそくそーーー!! 逃げまくりやがってええええ!! くそーー!!」



 まるで道端の石ころでも見ているかのような、ジュノーの視線。ボンバータはそれを理解しているからこそか、いくら息があがっても攻撃をやめれない。怒りと意地。やめる訳にはいかないのだ。


 一見、見た目には、ボンバータのような筋肉隆々の大男が、モーニングスターという豪快で残忍な武器を手に、華奢な娘を相手に一方的に襲い掛かかっているようにも見える。だが実際は、ボンバータはジュノーの掌の上で、もはやいいように転がされているのだ。



「はあ、はあ、はあ……ぜえ、ぜえ、ぜえ……ちくしょう!!」


「まだ、何かできるか?」


「なんて女だ!! 嫌な奴だぜまったく!! 悔しいが、これが俺の実力……」



 意表を突く攻撃。喋っている途中でボンバータは、モーニングスターを素早くジュノーの頭部へ放った。



「ぐははは!! これは、もらったああああ!!」



 鉄球がジュノーの頭部に命中……したかに思ったのは束の間、鉄球は彼女の頭部に触れる前に凍り付いて静止する。しかしボンバータはそれも読んでいたかのように、凍り付いたモーニングスターを手放して、素手でジュノーにつかみかかる。彼女の首に両手をかけて、締め上げた。



「ぐはははは!! 勝った!! 勝ったなあああ!! 悪魔のような娘め、この俺様が討ち取ってやったぞおおおお!!」


 ドガーーーンッ!!



 刹那、轟音と共に空からの落雷――ボンバータとジュノーに降り注いだ。しかしジュノーは、全く焦げてもおらず全身にほのかに雷を纏っている。



「ぐ……は……ば、馬鹿な……」


「馬鹿とはなんだ? ひょっとして、私が氷属性の魔法しか使えん脳なしに見えたか?」



 馬乗りになっていたボンバータの身体を、面倒くさそうに押してどけると、ジュノーは立ち上がって服についた土を払った。そして周囲を見渡す。


 ジュノーにとって、もはやボンバータへ対する関心は薄れたものになっている。彼女はこの森林に身を隠している、次なる獲物の気配を探している。



「うおおおおおお!!」



 もはや、力尽きたかに思えたボンバータは、いきなり立ち上がるとモーニングスターを手に取って、それをジュノー目がけて振り下ろす。


 ジュノーは、眉一つ動かさずに剣を少し振る。するとモーニングスターの鉄球と繋いでいた鎖は、砕けて飛び散った。


 このままボンバータと距離を詰めて、倒す。そう思った刹那、ボンバータは背を見せて全力で草木の生い茂っている森の中へと駆けた。


 私は、突っ立ったままのジュノーに声を発した。



「ジュノー!! 逃げられるぞ!!」


「ヴァルツ総司令官が、ルーランの勇将とか言っていたうちの一人だから、もっと楽しめるかと思った。だが違った。あの程度の男なら、放っておいても別段問題はないだろう」


「問題はある。我々は陛下の命で、クラインベルト攻略作戦を決行しなくてはならない」


「ここは、クラインベルト王国ではないが」


「この場所を平定せねば、クラインベルト王国と(いくさ)はできない! いくらジュノー、貴殿でもクラインベルト王国に攻め込んでいる合間に、この場所でルーラン王国の亡霊達が決起し、ドルガンド帝国の街や村に攻め込んできたら対処できぬだろう」


「…………確かにその通りだ」


「ジュノー、貴殿の強さはまさに一騎当千。それは、はっきりと理解したが、それでも万能ではない。我々の目的はあくまでも征服だ。このヨルメニア大陸全土を、陛下に治めて頂く。それこそが、目的だ」


「征服……私にはよく解らないが、将軍としての責は果たせるように心がけよう。ボンバータは、次に見つけた時には必ず討ち取ると約束する」



 私とジュノーのやりとり、それを周囲の兵だけでなくジーク・フリートもじっと見ていた。いや、正確には見られていたという感覚。


 ドルガンド帝国の将軍は、現在クラインベルト攻略作戦の最中、全てこの私の指揮下にある訳だが、この二将に限っては普通の扱い方では手に余るな。



「よし、それではジーク・フリート将軍には引き続きこの私の警護を! ジュノー・ヘラー将軍も、共に行動をしてもらう。全軍、この調子でルーラン王国の残党狩りを継続せよ!」


『はっ!』



 後続のフランツ・フリューゲル将軍と、アテーム・シュバインにもその事を伝える。そして軍を動かして、ルーラン王国残党の完全討伐へと再び乗り出した。

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