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第864話 『ボンバータとバラミス』



「ぐはははは!! 俺様こそが、ルーラン王国一の怪力武将と言われた、ボンバータ様だあああ!!」


「我こそは、ルーラン王国が勇将の一人、バラミス!! 悪魔の如き諸行を重ねるドルガンド帝国兵を、屠る者の名だ!! 覚えておけ!!」



 重量のありそうなモーニングスターを振り回すボンバータに、馬に騎乗しながら槍を巧みに振るうバラミス。どちらもルーラン王国きっての勇将だ。


 ドルガンド帝国の北部、旧ルーラン王国の領土でもある大森林の真っ只中を、今も我が軍はルーランの残党軍を討つ為に侵攻している。


 まずはルーランの勇将、タルサ・ズリックの森林ウルフの群れを使った奇策の戦法で、前衛にいたジュノー・ヘラー将軍とジーク・フリート将軍の率いる軍は、まんまと大打撃をうけて敗走した。


 私は急ぎ、両将軍のもとへ駆けつけたが、両将軍の率いる軍はほとんどが全滅。しかし両将軍自身は、まったくもってかすり傷ひとつおっておらずに、襲い掛かってくる敵を次々と倒していた。


 しかもジュノー・ヘラー将軍に関しては、敵将サボタイ・ジュベスを簡単に討ち取ってしまった。


 これが漆黒の戦乙女の実力――それを垣間見た感じがした私は、緒戦で率いる兵のほとんどを失ってしまった二将の罪を不問にし、両将軍を傍らにおいて、私自ら先頭の指揮をとる事にした。


 その後、大森林に紛れ込んで息をひそめている今は亡き、ルーラン王国の国王を見つけ出す為に本体を前進させた。私は二将を連れて更に辺りを調査していると、また新たな敵将と遭遇し戦闘になった。


 私は今一度、その実力を試す為と、来るべき日に戦力の温存の為も含めて、遭遇した敵兵に対してジュノー・ヘラーをあたらせた。


 すると彼女は、兵はいらないと言い放ち、敵兵を目にすると早速そこへ向かって単身駆けて行った。そして次々と敵を斬り殺す。その表情には、悲しさも切なさも、怒りも気持ち悪さも何もない。虚無。


 あえて言えば、退屈している……そんな印象を受けた。


 そんな彼女の前に、ルーランの将軍が二人も現れる。ボンバータと、バラミス。彼らの部下は、既にそのほとんどをジュノー・ヘラー将軍が斬り殺してしまっている。


 たったの一人の娘に、ルーランの名高き勇将率いる自慢の兵をズタズタにされてしまい、ボンバータもバラミスも引くに引けぬ戦いになってしまった。怒りとプライド。彼らは、それで命を落とすだろう。



「ヘラー将軍」


「ジュノーでいい。あなたは総司令官だ」


「ではジュノー」


「なんだ?」


「気をつけろ。ボンバータは怪力無双と嘯いてはいるが、その実確かにルーラン一の怪力の将だ。それにバラミスも、ルーラン最強の騎士であり、極めて練度の完成された騎士団を統率している!! どちらも油断のならない相手だ!!」


「そうか、解った」


「本当に理解しているのか?」


「解ったと言ったではないか。要は、二人とも殺せばいいのだろ? それなら私に任せていればいい」



 ボンバータとバラミスを含めた、襲い来るルーラン王国の精鋭達。その者達に一人、悠然と歩いていく漆黒の戦乙女。最初に爆発したのは、一番近くにいる兵。



「馬鹿にしやがって!! 娘一人に、我々が負けるか!!」


「こうなったら娘だろうて、容赦はしない!! かかれーー!!」



 ジュノーは、剣を構えない。ただ普通に剣を手に持っている。敵が近づいてくると、剣を振って突き刺す。ただそれだけの事でも、あまりのスピード。速さで攻撃力が増しているのか、手にしている剣の切れ味が凄まじいのか、もしくはその両方か。


 ジュノーが剣を振ると、まわりのルーラン兵は瞬く間に、まるで糸の切れた人形のようにバラバラになって崩れていく。そしてまた血の雨が降り注ぐ。



「ひ、ひいいいい!! 化け物だああああ!! 悪魔だあああああ!!」


「こらああ、逃げ出すな貴様らあああ!! 俺達には、ルーラン王国を復興させるという、大いなる使命があることを忘れたかああああ!!」



 四散するルーラン王国の兵。それを止めようとするボンバータ。


 完全にたった1人の娘、ジュノーに呑まれてしまっている。こうなれば、戦はもはや決したようなもの。あとは、ジュノーがどう終わらせるかといった所だろう。



「うおおおおお!! 憎っくきドルガンド帝国軍に死を!! 我が殲滅してくれよう!!」



 ジュノー目がけて、騎兵が突撃してきた。ルーラン王国の勇将、バラミス率いる騎士団!! 


 何十騎という馬に跨った騎士が、スピアやランスを手にジュノーに迫る。このまま何もしなければ、ジュノーは馬に突進されて踏み潰される。私は彼女に声をかけた。彼女に対応策がない場合、私はジーク・フリートに手を貸せと命令するか、兵を動かさなければならない。


 だが漆黒の乙女は、私の期待を裏切らない。



「大丈夫だ、何も心配はない。そこで全員、突っ立って見ていればいい。直ぐに終わる」


「何が終わるだああああ!! この女は悪魔だ!! このまま跳ね飛ばせ!!」


「御意いいいい!!」



 目の前まで迫ってくる、バラミス率いる騎兵団!! ジュノーは、バラミス達の方を向くと、手に持っていた剣の切っ先を彼らに向けた。そして短く声を発した。



「凍れ」



 ジュノーが目の向ける方、剣の切っ先から放射線状に、一気に冷気が広がる。そして一瞬にして、バラミス達騎兵全員を凍らせて固めてしまった。



「バラミス!!」



 我々もその光景に驚いたが、一番驚きの声をあげたのは同僚でもあるボンバータ。ジュノーは、別に大した事でもないかのようにボンバータに言った。



「残りは、お前だけだ。さあ、かかってこい」



 ボンバータが辺りを見ると、氷ついて固まっているのは、バラミスとその部下達と馬だけではなく、ボンバータの率いていた兵も全員だった。全て氷漬けになってしまっている。



「ま、まさか氷使いだったとはな……」


「私は面倒ごとが嫌いなんだ。ルーラン王国の残党軍討伐なんてつまらない仕事は、さっさと片づけてしまいたい。だが、ボンバータとか言ったが……貴様はかなり、腕に自信があるのだろ? まさに井の中の蛙だな。だからその自信をへし折ってやりたくて、特別に生かしてやった」


「な、なんだとおおお!! こ、この女ああああ!! 何様だあああ!!」



 ボンバータの顔は一瞬にして仲間を失った戸惑いから、怒りへと変わって行く。


 こんな事をしても、何にもならない……だが私は、ジュノーを知る為にもう少し彼女に成り行きを任せた。


 なにより、今この場で上げた大戦果は、間違いなく彼女一人の手柄なのだから。

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