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第863話 『サボタイ・ジュベス』



 漆黒の戦乙女、ジュノー・ヘラーが次々と襲い掛かってくる敵兵士を斬り倒していると、草木が生い茂る場所から新たな敵が姿を現した。


 飛び出してきた敵兵がずらりとジュノー・ヘラーの前に並ぶと、彼女一人に向けて剣を抜く。だが漆黒の戦乙女は、複数の手練れを相手にしなければならないというのに、特に同様した素振りも見せずに、ただただ無表情だった。



「ここは我らルーラン王国の土地だ!! 悪名高く、汚れたドルガンド帝国の者達よ、よく聞くがいい。お前達に対して、即刻この地より出ていけとは言わない。なぜなら帝国には恨みがあり、できればここで全員死んでもらいたいからだ!!」



 ジュノー・ヘラーがこちらに気づくと、敵兵も私とジーク・フリートの存在に気づいた。敵兵は驚いた表情を見せた。



「おお!! これは……まさか。こんな所で、単身でいるクリスタフ・ヴァルツ司令官と会えるなんて……これは神の思し召しだろうか。神よ、感謝します。ここで敵司令官を討てるとは!」



 私と出会うなり、いきなり神に祈りを捧げる敵兵……いや、この男。よく見ると、知っている。ルーラン王国の勇将の一人、サボタイだ。サボタイ・ジェベス。こんなルーラン王国きっての勇将と、こんな所で遭遇するとは……私は剣を構えると、サボタイに声をかける。



「ジュベス将軍……サボタイ・ジュベス将軍か。私がここであなたと会えたことこそ、神に感謝をしたい」


「それはこちらのセリフだったはずだ。クリスタフ・ヴァルツ将軍。いや、総司令官だったか」


「今は陛下に全軍の指揮を任されており、そう名乗っているに過ぎない」


「なるほど、やはり貴殿は、他のドルガンド帝国兵とはどこか違う。聡明であり、道理が解るお方だとは聞いていたが、そのイメージの通りだ」


「ジュベス将軍は、私を買いかぶっておられる。私は平民の出で、大した力もない。だが人並み以上の努力はしてきたつもりだ。それでこの歳になって、ようやく陛下に認められたという所だろう」



 サボタイは、フフっと鼻で笑う。



「やはり、貴殿は帝国兵にしてはとても惜しい人材だ。どうだ、我々ルーラン王国に寝返らぬか。帝国には多くの兵や民を殺され、土地も奪われた。だから帝国兵は皆殺しだと、我々は決めている。だが、貴殿ほどの男なら、特別に我がルーランに迎え入れてもかまわない。どうだ?」


「断る」



 即答だった。サボタイの表情が険しいものに豹変する。そして合図をすると、何十人というサボタイの部下が、武器をこちらにも向けた。 



「サボタイ・ジュベス将軍。忘れたのか? 私の現在の立場は、ドルガンド帝国の総司令官だぞ」


「クーデターを起こせばよい。そうすれば、国王に私から願い出て、貴殿を旧帝国領の統括ができるように手配しよう。そうすれば、実質貴殿が帝国の支配者だ」


「先ほど会った時は、まさにルーラン王国の気高き勇将という雰囲気をまとっていたが、今はまるで悪役のようなセリフを語るな。サボタイ・ジュベス将軍」


「悪役は、貴殿ら帝国兵だろ? 我らは今や亡霊と化し、怒りに満ちている。仕方がない、そちらにいる漆黒の剣士は、おそらくジーク・フリートという新しく帝国の将になりさがった者だろ? という事は、ここには兵を連れてもいない将軍が3名……しかもそのうちの一人は総司令官とくる。このまま黙って逃がす手はないのでな。下る気がなければ、全員ここで死んでもらう」



 サボタイが言い放つと、一番敵に近い位置にいるジュノー・ヘラーが動こうとした。私は、ジュノー・ヘラーが戦闘再開する前に、もう一つだけサボタイに質問をした。



「私達をここで殺すと言うのなら、それでもいい。私達は、ドルガンド帝国の覇業に誇りを持っている」


「フッ」



 一瞬、隣にいるジーク・フリートが笑ったような気がした。まあいい。私も陛下に忠誠は誓っているものの、今の帝国の行いについては疑問しかない。そんなのは、解り切っている事だ。だからジーク・フリートは、よく言うよとでも思って、笑ってしまったのだろう。



「それでなんだ? やはり助けて欲しいか?」


「いや、違う。貴殿らの森にいる森林ウルフを使った戦法、あれは見事だった。あんな手を使うのは、ルーラン王国の勇将、タルサ・ズリックではないか? それだけ確認しておきたかった」


「そうだ、タルサがいる限り、我が王国軍はいかようにも巻き返せるだろう。だがな、このサボタイ・ジュベスとて一応はルーラン王国の将軍に名を連ねる者ではあるぞ!! 漆黒の女剣士を斬り殺して、直ぐにクリスタフ・ヴァルツとジーク・フリートの二将を討ち取ってみせる!! 全員、かかれえええ!!」



 サボタイがそう叫んだ刹那、武器を手にしていた部下たちは、その場に一斉に倒れた。


 唐突に血飛沫が舞って、サボタイの部下たちの手足や首が宙を飛んで地面に転がる。戦を見慣れている私でさえも、その光景を目におぞましさを感じた。



「な……馬鹿な……い、一瞬でこんな真似ができるだと⁉」



 サボタイの部下は、かなりの手練れだった。しかしそれを一瞬にして始末したジュノー・ヘラー。


 彼女はやはり、冷淡でこれといってなんでもない事のように、無表情のままサボタイの前まで近づいて行って、彼の前に立った。そして私の方を振り返り、言った。



「ヴァルツ総司令。この男に他に聞く事はあるか? なければ……」


「特には、な……」


 ザンッ



 とんでもない速さの抜刀。ジュノー・ヘラーがこちらへUターンする後ろで、サボタイ・ジュベスの首は宙に飛んで彼は倒れた。


 漆黒の戦乙女、ジュノー・ヘラーと龍殺しの剣士、ジーク・フリート。これは、二将軍の使い方を改めて考えねばならない。改めて……改めてそう思った。

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