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第86話 『ギャンブラー』 (▼アテナpart)





 ――――ガンロック王国。


 オロゴの村でナジーム、バーバラさんと別れたあと、私たちはレンタルしたクルックピーで、カッサスの街へ向かった。


 そして街へ到着した。


 カッサスの街は、とても栄えていて、多くの人で賑わっていた。それを見て、クラインベルトの王都やエスカルテの街を思い出した。


 ミャオにバーン、ミラール、ロン、クウにルン。皆、元気かな。


 でも、こんなだだっ広い荒野が広がるこの土地で、こんな大きく栄えた街があるなんて。とっても不思議。市場のような場所では、果物や干し肉などの他に、魔物から獲った素材や民芸品のようなものも売っている。見て回るだけでも、楽しい。探せば、カレーの元とか胡椒なども置いてあるかもしれない。


 街に着くなりルシエルは、早速目を輝かせて、ナジームから話を聞いていた、クルックピーのレース場に行きたいと言い出した。



「早く行こう! アテナ、ルキア! カルビもちゃんと、ついてこいよ」


「ちょっと待ってくださいー。人が多いのに……あんなに先走って……いいんですか、アテナ」



 心配するルキアに私は笑ってこたえた。



「いいんじゃない。すっと楽しみにしていたみたいだし、オロゴの村からこの街へ向かっている間も、楽しみだ楽しみだって言っていたしね」


「ならいいですけどー。でもアテナはルシエルにあまいです」


「あははは、まあまあ」



 頬を膨らませるルキアの手を引いて、ルシエルのあとを追いかける。カルビも駆ける。



「ここだー、ここ!! 凄いぞーー!! 早く皆来て見てみろー。ここで皆レースをやっているんだ!!」



 レース場に入ると、観客席にルシエルの姿があった。


 辺りを見回すと、ここは大勢の人で溢れかえっていた。そして、その人たちは皆、目前の巨大なレース場で繰り広げられているクルックピーのレースを観戦し、賭けに興じて熱狂していた。至る所で、歓声や罵声も飛び交っている。



「よーし!! こうなったら、ここでガッポリ旅費を稼いでおくか!! アテナ、ルキア! オレに金をよこせ!! 後で何倍にもして返してやるぞ!」



 黄金に輝く長い髪の、美しいエルフが仲間から「金をよこせ!!」と盗賊さながらのセリフを言って、金をせびろうとしている。そして、ギャンブルしようとしている。その光景に目を疑ってしまった。


 だけど、ルシエルだからなーって思って現実を受け止めてしまった。



「はいはい。じゃあ、いくらお金があればいいの?」


「全部だよ! 全部! 有り金全部だすんだよ!! ほらさっさとしろ!!」


「あんたは、盗賊か!!」



 私は盗賊エルフのルシエルに、ペシリと軽く突っ込んだ。



「はいはい。じゃあ、これ渡すけど…………本当に勝てるの?」



 自信満々といった顔で、親指を立てて見せるルシエル。余計に不安になってきたよ。


 そして、私からふんだくるようにお金を受け取ったルシエルは、今度はルキアに襲い掛かった。



「ダメです!! ダメですってば!! これは、旅費ですよ!! お金を賭けて、もし負けたらどうするんですか!!」


「いいから、よこせー!! この可愛い子猫ちゃんめ!! このオレ様に抵抗したらどうなるか! どうなるかー!!」


「ダメです!! ダメですよ!! ダ……ダメ……ははは……あははは……ちょっと、やめ……

 あははーー」



 ルシエルは、必死で抵抗するルキアをくすぐってお金を奪い取った。もう、ここまでくると本当に盗賊エルフなんだけど。しかも、ルキアに馬乗りになって、くすぐるのを止めない。あの顔……悪魔だ。っていうか、ダークエルフ? ダークエルフにあった事がないから、イメージだけで思っちゃっているけど。



「クククク……生意気な猫娘め! コチョコチョコチョ――もう二度と、オレに逆らえんようにしてやる」


「あはは……ちょっと……やめ……アテナ!! なんとか言ってください!!」



 ルキアの目が潤んでいる。流石にもう必死で助けを求められたので、エキサイトするルシエルを止めた。カルビは、そばで尻尾を振っている。きっとじゃれ合っていると思っているのかもしれない。違うんだよー、カルビ。



「それで、本当に大丈夫なの?」


「心配するな。大丈夫だ。ピッチーとも、あれだけ解り合えたし、クルックピーの事はだいたい解っている。一目見ただけで、そのクルックピーの能力が全て手に取る様にな。だから次のレースで、2-5に全額いく。まあ見ていろって」


「ほんとうにーー?」



 私もルキアも全額失うのかと不安になった。だけど、驚くべき結果となった。


 それから、ルシエルは3連勝を収めたのだ。勝ったら全額賭けてっていう賭け方をしていたので、所持金がびっくりする程、膨れ上がった。私たちは当然、手の平を返すようにルシエルのその才能を誉め称え、浮かれた。



「フフフ……次は、1-4だ」


「もうやめましょう! もうやめましょう! ルシエル! もう、十分勝ちましたし、ここでやめた方がいいですよ!



 ルシエルの腕を掴んで。必死に止めるルキア。私ももうこの辺で引いた方がいいと思った。だが、ルシエルはもう前だけを見ている。



「ルシエル。十分勝ったし、ここまででやめとこうよ。もういいでしょ? ずっと、勝ち続けるとかありえないんだし、ここら辺が引き時でしょ?」



 すると、ルシエルは私の顔を覗き込むような表情で言った。



「アテナ……オレは、今ちょっと自分用にかなりフワフワのいい毛布が欲しいと思っている」


「え? 毛布?」


「あと、ナイフも欲しい。さっきちょっと街中を走った時に、チラッと店でミスリル製品を置いていた店があったんだ」


「え? それって……」


「だから、ミスリルナイフも欲しいなーって。ついでに、カルビに首輪型の魔装具も買ってもいいしー。あと、ガスバーナーコンロってしっているか? アテナ。あれがあれば、洞窟とかダンジョンでさえ、快適なキャンプができるんだぞ」



 私はルシエルが何を言わんとしているのか、理解した。つまり…………



「これで、更に勝てば、なんだって欲しいものをゲッツできるんだぜ!!」


「ルシエル…………私……」


「いけません! アテナ!! もう十分ですし、これ以上欲を出したって!!」



 ルシエルは、ルキアの口を塞いだ。



「じゃあ、全額、次のレースに賭けてくる!! これで、レースは最後だ!! 勝って気分よく、ショッピングにリッチな飯でも食いにいこう!」

 

「わかった! 私も腹をくくるわ。私もルシエルを信じる。仲間を信じるって大切な事だもんね」



 私の頭の中は、すでにミスリル製品の果物ナイフと、ガスバーナーコンロ……あと新しいフライパンやコッヘルやらでいっぱいだった。


 ――――そして、最終レースが行われた。



「この勝負、もらったあああ!! いけええええ!!!!」




 ――――そのレースの決着がついた時、私たちは全額失った。








――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇アテナ・クラインベルト 種別:ヒューム

Dランク冒険者で、その正体はクラインベルト王国第二王女。趣味は、旅と食事とキャンプ。二刀流使いで、魔法も使いこなす。現在は、仲間と共にガンロック王国を冒険中。早速荒野世界に足を踏み入れるも、遭難する。ナジームという行商人に出会い、助けてもらう。お礼にナジームの仕事を手伝い、オロゴ村からカッサスの街を目指し到着した。


〇ルシエル・アルディノア 種別:ハイエルフ

アテナのパーティーメンバー。Fランクの冒険者で、クラスは【アーチャー】。精霊魔法も得意。外見は長い髪の金髪美少女だが、黙っていればという条件付き。弓の名手でナイフも良く使う。アテナと共に冒険中。早速ガンロックの荒野世界で遭難。水も食糧も無くなりピンチになった所をナジームに助けられる、ナジームの連れているピッチーを気に入り、大好きになってしまった。自分もピッチーのようなクルックピーを手に入れて一緒に冒険がしたいと密かに思っているが、アテナに知られるとちゃんとお世話ができるのかとヤイヤイ言われるので一旦諦めた。


〇ルキア 種別:獣人

Fランク冒険者。猫の獣人。まだ僅か9歳だが、いつも一生懸命でとても賢く気遣いのできる優しい少女。エスカルテの街のギルマス、バーンから特別なナイフを貰い、アテナからは魔物に関する本を貰う。文字も教えてもらう約束をして、ルキアは戦闘技術だけでなく知識もモリモリと成長していく。現在、アテナと共にガンロック王国を冒険中。


〇カルビ 種別:魔物

子ウルフ。アテナと別行動していたルシエルが出会った子ウルフ。ニガッタ村での騒動を経て、アテナのパーティーの正式な4人目の仲間となる。(※あえて匹ではなく4人とカウント。)ルシエルの使い魔。最近は、アテナやルキアに、実はルシエルよりもカルビの方がしっかり者なのではと思われ始めている。


〇ナジーム・フムッド 種別:ヒューム

アテナがガンロック王国入国後に初めて出会った人間。ガンロック王国の厳しい環境をあまく見ていたアテナ一行は、水も失い喉の渇きに加え空腹や照り付ける太陽で、全滅を免れない事態へと陥った。だがナジームと出会いアテナ一行は助かった。


〇バーン・グラッド 種別:ヒューム

クラインベルト王国、エスカルテの街の冒険者ギルドのギルマス。


〇ミラール、ロン、クウ、ルン 種別:獣人

ルキアの友人で、同じ村の出身。賊に捕らえられ、奴隷にされかけた所をアテナに救われバーンが保護した。現在はエスカルテの街で元気に暮らしている。


〇クルックピー 種別:魔物

ダチョウのような鳥の魔物。羽はあっても飛べない鳥。だけど、その走る速度はずば抜けていてガンロック王国では馬のように使われ親しまれている。身体は丸みがあり、羽毛でモッコモコ。


〇ガンロック王国 種別:ロケーション

アテナ一行の現在いる国。荒野が広がる砂漠のような大地が広がる。


〇カッサスの街 種別:ロケーション

ガンロック王国にある街。クルックピーを使ったクルックピーレースを大々的に行っている街で、外国でも有名。クルックピーレースは、観戦するだけでなくお金を賭ける事もでき、熱狂的なファンも多く興行収入も凄まじい。その為、荒野にある街の中ではとても栄えている。

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