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第859話 『冷戦は終わりを告げる』(▼クリスタフpart)



 ――――ドルガンド帝国。


 偉大なる帝王、ジギベル・ド・ドルガンド様の命で、私は兼ねてから冷戦状態にあるクラインベルト王国征服の総司令官となった。


 この身分に至るまで、身体は千切れえるかもしれないと思うほどに訓練を重ね、寝る間も惜しんで猛勉強をした。手柄も立てた。だが私は、平民の出だ。出世も明るくないと思った。


 だがそんな私を陛下は、出世させてくれて将軍にまでしてくれた。そして今や、名だたる将軍達を統括する総司令官にまで、のし上がる事ができた。このご恩は、必ず返さなければならない。


 陛下も、我がドルガンド帝国も絶対的な民族至上主義者だ。我が国の国民はだいたいは、他国民を下衆な目で見てさげすんでいる。


 だからこそかもしれない。この貴族でもない平民の出の私が、帝国の将軍にまで出世できた理由。平民であったとしても、ドルガンド帝国民であれば優れている。もちろん、格差があっても、平民であっても貴族であってもだ。帝国人である事が最も重要である。


 陛下は、それを国民全体にアピールする為、そして私の能力を高く買ってくれたので、今の地位に取り立ててくれたという訳だ。一種のプロパガンダとも言えるが。


 私は、なんとしても陛下の期待に応えなければならない。クラインベルト王国全土を制圧し、セシル王を処断してその首を陛下のもとへ送り届けてみせる。


 だがクラインベルト王国は、今や一枚岩ではなかった。


 我がドルガンド帝国が、クラインベルトと冷戦を続けている間にも国力を高め、戦力を増強し士気を高めてきた。クラインベルト王国も同じ。


 新たに入手した情報では、クラインベルト王国のセシル王と、ガンロック王国のベスタッド王、更にノクタームエルドにあるドワーフ王国のガラハッド王は互いに手を取り合い、三国同盟を結んだとか。


 その事で昨日、ノイシュバーヴェンタイン城に参内し、陛下にその件をお伝えした。


 しかし陛下の私を見る目は、とても厳しいものだった。


 私は一瞬にして悟った。陛下の期待を裏切れば、同じ帝国人だとしてもこの場で首を刎ねられると――



「クリスタフよ。それでどうするのだ? クラインベルト王国は、我が国の領土となるのであろう。それは、いつだ?」


「それはもちろんでございます、陛下。決して遠くない未来。ですがクラインベルト王国は、隣国の……」


「クラインベルト王国とは、長く冷戦が続いておる。だが余は、そろそろそれも終わりにしたいと決めたのだ。クラインベルトを征服した後は、クラインベルトを隅々まで地慣らして、我が民を住まわせるのだ」


「素晴らしいお考えにございます、陛下」



 陛下のおっしゃられる地慣らしの意味とは何か――つまり、クラインベルト王国民を皆殺しにして、そこへドルガンド帝国民を住まわせる。そしてクラインベルト王家の歴史を完全に消滅させ、ドルガンド帝国の領土を拡大し、我が帝国の国力を堅固なものにするという事。


 私は軍人だ。必要とあらば、人を殺すのに躊躇いをもたない。だが、クラインベルト国民であっても、罪の無い者を皆殺しにするというのは、疑問を感じずにいられないし正直やりたくはない。


 やりたくはないが、陛下の命であればやむおえないのかもしれない。従わなければドルガンド帝国民であろうが、将軍であっても反逆者なのだから。


 それで陛下は、あの時更に私の目を絶対的な意思で凝視し、迫ってこられた。



「クリスタフよ。余が長年に渡り、夢にしてきた野望を、お前こそが叶えてくれると信じておるぞ。それでどうするのだ? お前の考えを聞きたい」



 今の現状でクラインベルトに兵を進めたとしても、クラインベルトには名将ゲラルド・イーニッヒと、それに続く強力な将が打って出てくる。


 更には、ガンロックやドワーフの王国からも援軍がやってくるだろう。下手をすれば攻める側の我が軍が蹴散らされ、追撃されて全滅するかもしれない。


 そうなったら、きっとどの国かはそのまま我がドルガンド帝国に、仕返しとばかりに攻め込んでくるかもしれない。


 考えられるのは、クラインベルトならゲラルド・イーニッヒ将軍か、第一王女のモニカ・クラインベルト。他には、ガンロック王国の国王ベスタッド王もありうる。


 …………


 しかし、我がドルガンド帝国も野望を持ち、長きに渡る冷戦時に『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』やヴァレスティナ公国とも協定暗躍し、極力国力を消耗させる策略を用いて、今や何十万という兵を育てて、維持できるまでになった。


 それを今ここで、迂闊な行動をとって失ってしまうのかと考える。


 だからと言って、陛下に「流石に三国を相手に戦えない」と答えれば、きっと烈火の如く激怒されるだろう。ドルガンド帝国は、どの国より優れていると信じて疑わないのだから。


 それにその事に私一人が疑問に思ったとしても、陛下が……この国がそういう思想を持ち続けている限り、どうしようもない。それを踏まえて行動をしなくてはならない。


 私は跪いたまま、顔をあげて陛下のお顔を見上げた。



「必ずこの私が、クラインベルト王国を攻め滅してご覧にいれます」


「おお、言いおったか。その言葉が聞きたかったのだ」


「ですがその為には、他の将軍にも協力してもらわねばなりません」


「その通りだ。だから、お前……お前こそが総司令官なのだ。他の将軍を自分の手足の如くに使うがよい」


「はっ! しかしながら陛下。陛下もご存じと思われますが、私は戦下手でございます」



 少し微笑んでそう答えると、陛下は機嫌よく笑われた。ジギベル・ド・ドルガンド。この皇帝を目の前にして、言葉や仕草、態度なども迂闊なミスをしてはならない。



「よく言うわ。それで?」



 私は、どうすればクラインベルト王国を手中にできるか。それを陛下にご説明した。

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