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第858話 『善き魔物達の楽園』



 ルシエルは毛布を頭から被り、テガーを抱きしめたまま珈琲をすする。そんな緩み切った感じだったけど、表情だけは真剣だった。


 私はルシエルの気持ちを察して、なんとなく思った事を聞いた。



「もしかして、バジャーデビルをパテルさんに預けるとか?」



 深く頷くルシエル。やっぱりそうだったかー。



「いいの?」


「ああ、いい。実はアテナのとこに来る前に、ちゃんといい子にしているか、バジャーデビル達がいる部屋を覗いてきたんだよ。そしたら、3匹ともとてもぐっすりと満足した顔で眠っててさ、なんていうか安心している感じだったよ。そう、このテガーやウィニーのように、前からここに住んでいたみたいにさ」


「そうなんだ」


「それでさ、あのキノコブタいんじゃん?」


「キ、キノコブ……キノレットね!」


「そうそう、キノレット。あいつがさ、こっそりと、バジャーデビル達の様子を見てくれていた」



 キノレットは、ウィニーやテガーと同じくこの場所でパテルさんと一緒に暮らしている、キノコの傘を被った豚系の魔物。


 ここにいる魔物達は、パテルさんに面倒を見られている訳じゃなく、お互いに助け合って生きている。言うなれば、パテルさんの家族。


 だから……だからルシエルは、この話を切り出したんだ。



「オレ達は、これからパスキア王国に入国すんじゃん。それからアテナは、王子と会ったり色々するだろ?」


「うん、そうなるね」


「そしたらさ、そこへこのままバジャーデビル達を連れてはいけないだろって思ってさ。しかも子供のバジャーデビルが3匹だろ? その点ここは、ヤギミルクにミルクの実も沢山とれるしさ。食い物にも困らないだろ? アテナはどう思う?」


「うーーん、ルシエルがそう思うのなら、私も賛成かな。カルビみたいに、使い魔として一緒に冒険するなら連れて行ってもいいとも思うけど、カルビの場合はなるべくしてそうなった。言ってしまえば、私は必然だったと思う。だけどバジャーデビルは……」


「あの時は、何もこんな地面の底で苦しんで死んでいく事はないと思って、オレが勝手に連れてきちまったからな」



 俯くルシエル。



「アテナ、ごめんな」


「え? 何が?」


「いつも勝手してさー。でもバジャーデビルは、あの時それが一番だと思ったんだよ。だってそのまま放置すればさ……」



 私はルシエルに、微笑んでみせた。



「それでいいんじゃない。だってあの時、もしもルシエルが私だったら、私もバジャーデビルの子供たちを連れて戻ってきちゃったと思う。むしろ、ルシエルがその慈悲の心を大事にしてくれていて、私は嬉しいけどな」


「アテナ……」


「だから私もあの子達の未来を考えると、ここでパテルさんに預けるのが一番の幸せだと思う。ここならウィニーやテガーにキノレットもいるし、パテルさんはそういうのに慣れているし、【ビーストテイマー】の経験もあるからね」


「そうなんだよ。それにここは、食べるものも豊富で、緑が多い。ウィニーやテガーもいるから、凶悪な魔物もやってこない。まさに、善なる魔物の楽園だなと思って」



 善なる魔物の楽園か。


 なるほど。



「ルシエルにしては、随分と上手い事を言うのね。フフフ」


「ルシエルにしては、ってなんだよー! そんなんいうからアレだぞー、ルキアが真似して、オレを虐めるのさー!」


「アハハハ、ルキアはルシエルに厳しいもんね」


「うむ。キビシーわい」



 ルシエルと二人で話をしていると、いつの間にか朝日が顔を見せ始めた。辺りが明るくなってきたよ。



「それじゃ、顔を洗ってきて歯を磨くとしましょうか」


「ええーー、もう起きるのー?」


「早めに出発する予定だよ。とりあえず、馬車を引いてくれる牛にもご飯あげてたら、ルキア達を起こして朝御飯にするから、その時にパテルさんにバジャーデビルの事を頼もうか」


「うん、そうだな。オレから話すけど、いいよね?」


「はーい、それじゃルシエルに任せました。それじゃ、はいはい、いい加減起きて準備して」


「ええーー、もうちょっと寝たいんだけど」


「出発したら、また馬車の中で寝てもいいから。はい、支度するー」



 ルシエルを押し出して、私もコップやら歯磨きやらタオルやらを持って井戸の方へ移動する。



「さあ、今日も一日頑張るぞーーい!!」






 ――――出発の支度を終えて、牛にご飯をあげてるルキア達を起こす。言うまでもないかもだけど、マリンは目蓋を開けているのか開けていないのか……かなり眠たそう。


 それからパテルさんに、早めに出発する事を伝えて早めの朝食。その時にルシエルは、バジャーデビルをここで預かってもらえないかという話を切り出した。予想はしていたけれど、パテルさんは二つ返事で預かってくれると言ってくれた。もちろん、子供の間はできるだけミルクで育てるとも。


 バジャーデビルと言えば、気性が荒く狂暴な肉食の魔物だけど、愛情をもって育てればそれも変わるはず。だって、ルシエルやルキアやクロエが、バジャーデビルに別れを言いにいくと、3匹のバジャーデビルはそれぞれ3人に抱き着いて離れようとしなかったから。


 確実に、ルシエル達の愛情は伝わっている。



「それじゃ、もういのるんか。なんや寂しいなるの」


「フフフ、また来ます。バジャーデビル達もだけど、ウィニーやテガー、キノレットにも会いたいから」



 ルシエルが、なははと笑う。



「パテルさんの絶品料理もまた食べたいしな。鍋から、うどん、そしておじやと三大変化だったもんなー。恐れ入ったよ、ほんと」



 いつまでも別れを惜しんでいられないけれど、皆別れを惜しんだ。


 私ももう一度、ウィニーとテガーに抱き着いて、十分に癒しパワーを吸収した所で、3匹のバジャーデビルに「また来るから、ちゃんといい子にしていないと駄目だよ」と念を押しておいた。


 こうして私達は、パテルさん達に3匹のバジャーデビルを預け、ルシエルが言う『善き魔物達の楽園』をあとにした。

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