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第857話 『朝、誰かいるね』



 目を覚ますと、まだ辺りは暗かった。



「ふわああ~~」



 ガンロック王国からノクタームエルドに入った時に立ち寄った休憩場所、ロッキーズポイント。そこで再開した行商人のモルト・クオーン。彼から特別価格で売ってもらったものは、結局どれもお気に入りで、特にこの腕時計は更にお気に入りになっていた。お風呂の時とか以外は、常時身に着けている。


 だから今も身に着けている訳で……眠たい目をこすりながらも、その腕時計を確認する。



「…………4時……前か……」



 少し口のあたりにヨダレの後があったので、ハンカチでこする。そしてそのまま後ろにいるウィニーに体重を預けながらも、大きく豪快に背伸び。



「ううーーーーん、ちょっと早いけど、目も覚めちゃったし、そろそろ起きるかな」



 毛布から出ようとすると、ブルルっと寒気。ウィニーのモフモフの毛皮と、高い体温のお陰で、外だというのにかなり暖かく快適に眠る事ができた。だけどやっぱり、ここは外だ。寒い……



「うーーーん、よし! ここで、こうしてミノムシになっていてもジリ貧だ。覚悟を決めて動こう!」



 そう思った所で、ふとあることに気づく。そういえばテガーは? ウィニーとテガーが、昨日は私と一緒に眠ってくれていたはずなのに。


 周囲を見ると、まだ薄暗い焚火の傍にこんもりした何かを発見。テガーと、そのテガーに抱き着いている大きなミノムシ。私はそのミノムシに這いよると、毛布をめくった。



「ヒンッ! 寒い!」


「ちょ……ちょっと、こんな所で何しているの? ルシエル」


「ヒンッ! 寒い! ちょっと、毛布かけて、毛布かけてよ!!」


「っもう、いったいなんなのよー」



 毛布をルシエルに返すと、ルシエルは慌てて毛布の中へと避難する。そしてズリズリと毛布を被ったままテガーの方へ近づいていくと、テガーを毛布の中に引きずり込んだ。


 キャンッ!


 テガーも眠っていたので、驚いて悲鳴をあげる。



「ウヘヘヘヘ、あったけー、テガーはあったかくていいなー。うん、これはいいものだ」


「ちょっと、テガーが嫌がってない?」


「嫌がってないよーう。だって、こんな美人のエルフが抱き着いてあげてんだぞー。役得じゃねーか、なあテガー」


「自分で言わない。それにルシエルだって、こーんなに可愛いサーベルタイガーのテガーに抱き着けているじゃない」


「……まあ、確かに言われてみればそうだな。じゃあ、アレだ。ウィンウィンって奴だな」


「ウィンウィンじゃない。テガーは、嫌がっているでしょ」


「嫌がってないよ。なーー、テガー」


 グルル……



 テガーに抱きしめて、顔をこすりつけるルシエル。あれ、絶対テガーに目ヤニとかヨダレを擦り付けているよね。まったくもう……


 朝の寒さを我慢して身を起こす。そして薪を掴むと、何本か焚火に突っ込んだ。そして空気を送り込むと、くすぶっていた炭が赤く怒り始める。再びメラメラと火が踊りだして炎となった。


 水の入っているヤカンを手に取ると、そのまま火にかける。



「私はもう起きちゃったからあれだけど、ルシエルももう起きる?」


「うーーん、まだ眠いな」


「それじゃ、珈琲はいらないね」


「珈琲は、いります」



 プっと軽く噴き出す。


 湯が沸いたので、珈琲を二人分淹れた。珈琲の入ったコップを、ルシエルにも差し出す。受け取らないので近くに置くと、もぞもぞと動き出してやっと座ると、その珈琲に手を伸ばした。



「ずるずる……うんめー、朝の珈琲、ちょーうんめーなー」


「とてもハイエルフのセリフとは思えないわね」


「そりゃあれだぞ、偏見だぞ。エルフだってー、げっぷしたりオナラしなりなー」


「やめて!! それ以上言わないで!! 私のエルフに対してのイメージが崩れえるから!! エルフっていうのは、クールでこう知的なイメージなんだよね」



 ルシエルは、どこまで行ってもルシエル。だけど、そう言っても私もエルフという種族の事はあまり詳しくない。


 ドワーフもそうだったけれど、ノクタームエルドを旅してドワーフの王国に行ってやっと、色々なドワーフと知り合う事ができた。それでドワーフっていう種族は、豪快で親切で優しいって事が解った。


 今も、ノエルのお爺さんのデルガルドさんや、口は悪いけど私の事をとても大事にしてくれたジボールの事、そしてミューリとファムに紹介してもらった宿の主のベップさんと女将さんのユフーインさんの事を思い出す。


 ルキアも、ドゥエルガルの友達が沢山できたみたい。


 ……だからドワーフという種族については、それなりにずいぶんと解った気がしているけど、エルフについてはまだそれほど知らない。


 たまに冒険者のエルフを見かける事もあるけれど、やっぱりルシエルのようなエルフはまずいないような気がする。だいたい、肉を豪快にモッチャモッチャ食べるようなエルフもいないと思うしね。


 私は本当に美味しそうに、珈琲をすすっているルシエルをじっと見つめた。



「それで」


「ずずず……うんめー。え? それでとは?」


「なんで、こんな所で寝てるのって聞いたのよ」


「あっ、そうか。実は昨日の夜さ、寝ようと思ったんだけどさ。横になったままクロエやマリンと喋ってたら、盛り上がっちまってなー。そりゃもう盛り上がったよ。ルキアはカルビ抱いたまま、疲れていたのか先に寝ちまったし、ノエルはいなくなってたしなー」



 ノエルは、お酒をもってここに来ていた。それで一緒にお酒を飲んで、何でもない話をした。


 今にして思えば、彼女は何か話したい事があったのかもしれない。でもノエルとはこれからも一緒だから、いつでも話をする時間はある。



「それで、その盛り上がった話から、どうしてあなたがここで寝ているって話に繋がるの?」


「そうなんだよ、全く不思議だよな。盛り上がっていたはずなのに、気が付いたらクロエもマリンもルキアのように、先に寝ちまいやがってさー。気がつけば、一人で話して笑っていてよ。そんな自分に気づいた時に、とても寂しくてたまらなくなったのよー」


「それで、私の所にきたの? ルシエルは寂しがりやさんだから、気持ちはわかるけどね」


「ええ、寂しがり屋さんなのは、否定はしませんよ。だけど、ちょっと違う。実は、自分一人だけ起きている事に気が付い後、ちょっとそこから一人考えていたんだよー」


「え? 何を?」


「バジャーデビルの子供達の事だよ」



 ルシエルは、いつになく真剣なまなざしで答えた。

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