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第855話 『はい。ケモナーでもあります。』



「本当に外で、寝るんかえ?」


「はい。お気遣い、ありがとうございます。でも大丈夫です、慣れているから」



 自分はキャンパーだし、こっちの方が落ち着くとパテルさんへ伝える。つまり、皆はパテルさん家で泊まらせてもらうけれど、私は外でキャンプすると。


 だっていくらパテルさん家が大きいと言っても、全員で寝るには窮屈な感じはする。


 まあ……こっちがキャンプするメインの理由なんだけど、この山の中にあるパテルさんの敷地というか、この場所がなかなか素敵なロケーションなのだ。だからこれは、やるしかないと思った。


 パスキア王国に着いて、王子と謁見すれば、暫くは王宮にいなくちゃいけないかもしれない。そしたら次にいつ、キャンプできるかも解らない。だから今のうちに、キャンプパワーをチャージしておかないとね。うん。


 エスメラルダ王妃や弟のエドモンテも私がキャンプをしている事を、快く思っていないし……


 パスキアの王子だって、クラインベルト王国の第二王女がキャンパーだって知ったら、きっとドン引きそう。まあ、結婚は断るつもりだから、ドン引き上等だけどね。はははのはー。


 はあ……


 パテルさん家の直ぐ傍に、いそいそとテントを設営してその前に焚火も熾す。パテルさんは相変わらず困った顔……っていうか、心配そうな顔をする。



「ここらは危険な魔物はでんと思うがの、万一の事はあるんよ。そやけん、やっぱり家の中で休んだ方がええんじゃないかの?」


「ううん、大丈夫ですよ。私、こう見えてAランク冒険者ですよ。慣れてます。それに御覧の通り、もう焚火やテントも設営しちゃったし」


「ほうか、そげんいうなら仕方ないが……そうじゃ!」



 何かを思いつくパテルさん。辺りを囲っている木々が生い茂る方へ――向かって叫ぶ。



「ウィニーー!! ウィニーー!! テガー――!! テガー――!!」


 ブオオオオオオオ!!



 パテルさんの声に反応して、木々の生える場所から雄たけび。間もなくダイナミックベアのウィニーと、サーベルタイガーのテガーが勢いよくこちらに駆けてきた。



「うわーー、凄い迫力!!」



 2匹は駆けてくると、私とパテルさんの目の前で止まって座り込んだ。



「先に言うが、万一の事もあるんよ。大抵は、このウィニーが恐ろしいいうて凶悪な魔物は、ここらに近づいてこんけん大丈夫やが、万一の事は考えといかんよ。山奥やけんね。じゃから、外で寝てもええが、このウィニーとテガーと一緒に寝ればええわ」


「ええええ!! 本当に!! それ、物凄く嬉しいんですけど!!」


「どしたどしたー!! なんの騒ぎだああああ!!」



 パテルさん家から、この騒ぎを聞きつけてルシエルを筆頭に皆、様子を見に飛び出してくる。そしてこれから私が、ウィニーとテガーと一緒にキャンプをしようとしているのを見て、皆羨ましがった。


 ルキアが飛び跳ねる。



「うわーーうわーー。いいですね、アテナ!! ウィニーとテガーと一緒に寝るんですか!!」


「えへへ、いいでしょ。でも折角だから今日は皆、パテルさん家で眠って。皆までわがまま言ったら、パテルさん心配になって自分まで家の外で寝るって言いだしそうだから」



 がっかりするルキア。パテルさんは、私の言葉を聞いて笑っていた。フフ、ウケた。



「それじゃ、皆思い思いにゆっくりと身体を休めましょう。明日は早朝から出発するからね。寝過ごさないように」



 ルシエルが言い返す。



「寝過ごしたら?」


「もちろん、おいていくからね」



 慌てて、パテルさん家に飛び込むマリン。寝過ごす可能性が一番高いのは、彼女だもんね。



「さーーて、それじゃ、私もゆっくりしまーーす」



 焚火の前に腰を下ろすと、皆もパテルさん家に引き返していった。






 ――――夜になると、少し寒くなるね。


 毛布を羽織り、焚火の前で座って焚火を見つめている。パチパチという心地よい焚火の優しいメロディに耳を傾けて楽しんでいると、ブルっと一瞬寒気がした。


 やっぱり、ちょっと寒い。



 ブオ?


 ガルウ?



 するとウィニーとテガーが、私に寄り添ってきた。



「フフフ、ウィニーもテガーも優しいね。ありが……ぶほっ!!」



 寒い夜に寄り添ってくれるのは、ありがたい。2匹ともホッワホッワの暖かい毛皮だし……だけど私は、ウィニーの巨体とテガーに寄り添うっていうか、押し潰されている。いや、これは、埋もれている。



「ううう……く、苦しい! よ、よいしょ! よいしょっと!」


 ブオ?



 とても可愛いウィニーとテガーに、こんなに寄り添われるのは、幸せなんだけど……でもこのままじゃ潰されるから。脱出。


 ウィニーの大きな身体を押して、なんとか抜け出すと、そのままウィニーの身体に今度は私がもたれかかった。そこへテガー。



「ああ……これは、暖かいし癒される。ふーー、ぐっすりと眠れそう。焚火の前でこれなら、わざわざテントを設営する必要なかったなー」



 テガーの頭を撫でる。そして自分の頬をその頭に押し付けて目を閉じた。


 ああ……やっぱり私はキャンパーであり、王女であり冒険者であるとともに、ケモナーでもあったんだなー。すっごい癒されるんだけど。なんか、テガーとウィニーに包まれていると、こうなんていうか物凄いパワーをもらっている感じがするよね。


 思わずテガーの可愛い耳を、優しく噛んでしまった。暫し、この幸せなシチュエーションに浸る。浸っていると……声。



「おい、なんの真似だそりゃ?」



 ビクッとして目を開ける。ノエル⁉



「もしかしてそのサーベルタイガー、食うんじゃねーだろうな。もしそうなら、流石にパテルさん悲しむぞ」


「ちょっとー、食べる訳ないでしょ。こんな可愛い子達を」



 そう言って、ウィニーとテガーを撫でる。



「でも今、テガーの耳の辺りを噛んで……」


「愛情表現です!! っもう、いいの。それより、どうかしたの?」



 ノエルの手には酒瓶。パテルさんから、またもらったな。



「ちょっと話そうと思ってよ、いいだろ?」


「うん、いいよ」



 ノエルはニヤリと笑うと、私達のいる焚火の前に座った。

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