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第853話 『今暫くは、忘れちゃおっと』



 パテルさん家の裏手、そこにはなんとお風呂があった。


 パテルさんは、私達がこの場所で一泊すると決めると、早速お風呂を沸かす準備をしてくれた。もちろん、風呂釜に水を運ぶ作業はとうぜん皆でしたよ。


 まあ、そのほとんどを、ノエルとウィニーがしてくれたんだけどね。だけどこういう時に、力自慢のノエルがいてくれると本当に助かる。


 戦闘には自信があっても、私もルシエルも腕力はそれ程だし……もしかしたら、私達のパーティーでノエルの次に腕力があるのって、大きくなったバージョンのカルビかもしれない。


 風呂釜に水が十分に溜まると、パテルさんは薪を運んで点火。焚く。湯が沸くまで薪をくべていく。


 考えてみれば、そういう経験をしたことがないので、パテルさんにお願いしてやらせてもらった。すると、ルキアとクロエも手伝いたいと言ったので、3人で仲良く風呂を沸かす作業をした。


 因みにルシエルとマリンは、本当に調子に乗って食べ過ぎてしまったようで、未だに囲炉裏の横で転がっている。そしてノエルは、パテルさんとまだちびちびとお酒を飲んで楽しんでいる。


 ノエルの血の半分は、ドワーフ。ドワーフと言えばお酒好きだもんね。


 お風呂が沸いたので、まずはパテルさんに声をかけた。



「パテルさん、お風呂が炊けました!」


「入り、入り。儂は後でええけん」


「ありがとうございます。それじゃノエル、入る? 入るなら大きなお風呂だし、何人かで一度に入って欲しいんだけど」


「あたしは、もう少し飲んでから入る。風呂を沸かしたのはアテナ達なんだし、ルキアとクロエを連れて先に入ればいいんじゃないのか」


「右に同じー。オレもまだ駄目だー、動けねー。オレの全能力、この身体に宿る精霊力を総動員して消化能力に費やしているが、まだ先が見えねえわ! ダミダコリャー。一番風呂に入りたかったが、仕方がねー。先に入ってくれーい」


「ボクももう駄目だ、今無理をして動けば、何か出るかもしれないよ。間違えなく出ると、言い直しておこう。だからもう少し、ここで横になってから後で入ろうかな」


「はーい。じゃあ、私はルキアとクロエと一緒に入るから、ノエル達は後で入ってね。旅をして特に身体も汚れているし、汗もかいているんだから絶対に入るのよ」



 そう言って睨みつけると、3人揃って目線を反らした。



「こら、面倒でも絶対お風呂には入りなさい。皆、女の子なんだし、このまま入らないっていうのは、通用しないからね。私達が入った後に続けて入らなければ、無理やり入れます。じゃないと、また薪を焚かないといけなくなるからね。続けて入るのよ!」


「わーーったって。わーーった。いってらっしゃい」



 ルシエルが面倒くさそうに手を挙げて言った。まったくもう!



「それじゃ、お先にーー」



 お風呂に向かう。途中でカルビと会ったので、ワシっと掴むと抱きかかえてそのままお風呂のある小屋へと入った。


 入って直ぐの、こじんまりとした脱衣所。そこで、ルキアとクロエが私を待っていた。



「あれ、まだ入っていなかったんだ」


「はい、なんとなく一緒に入ろうかなと思って」


「あっ! グーレス! グーレスもお風呂に入るのね」


 ワウ?



 抱きかかえていたカルビを、クロエに預ける。



「脱衣籠もあるわね。それじゃ、皆ここで服を脱いで。フフ、じゃあいざ、お風呂に入ろう」


『はい!』


 ワウ!



 私達3人は服を脱いで、カルビと同じように裸になった。


 ルキアの視線が、私の胸に向けられる。



「どうしたの? ルキア」


「私もアテナのようになりますかね」


「あはは、ルキアはまだ9歳でしょ。大丈夫、心配しなくても直ぐに成長するよ。さあ、このまま突っ立っていても風邪を引いちゃう。お風呂に入ろう」


「はい、そうですね。こっちだよ、クロエ」


「え、ええ」



 ルキアは、クロエの手を握って風呂場へ誘導する。


 ガラガラッ


 脱衣所、奥の引き戸をスライドさせて風呂場に入ると、私達の目の前に立派なお風呂が現れた。


 パテルさんは風呂釜と言っていたけれど、湯舟の枠などは木材でできている。しかもとてもいい木の香り。クロエが直ぐに反応をした。



「これ、物凄いいい香り。木の香りみたいだけど、わたしこんな匂い初めて……」


「私もです! この香り、なんなんでしょう」


「フフフ、これは桧ね。とてもいい香りがするだけじゃなくて、丈夫な木なの。だから建築材にしたり、こういうお風呂に使用したり、家具をつくったり……でも、もちろんその品質にもよるけれど、桧っていえば高級な木材なんだよ」


『へえーー』



 私の話を聞いて、驚くルキアとクロエ。本当にいい子達。誰かさんとは、大違い。フフフフ。



 ワウーーー


「あっ、カルビ! 駄目、ちょっと待って!」



 先にお風呂に飛び込もうとしたカルビを捕まえる。



 ワウワウ!



 暴れるカルビ。だけど、「だ――め、ちょっと待って」と言って、再び抱き上げたカルビをクロエに手渡した。そして風呂場に立てかけてあったすのこをつかむと、それをお風呂に沈めた。



「よいしょーーー!!」


 どぷんっ


「ふいーー、これで良し。さあ、皆まず身体を洗って。そしたら湯舟に入って。カルビもよ。後に入る人がいる場合は、ちゃんと先に身体を洗ってからお風呂に入る。それがマナーだからね」


 ワウーー


「解りました。でもアテナ。なぜお風呂にすのこなんて沈めたんですか?」


「あはは、だってそのまま入ったら、足の裏が火傷しちゃうでしょ。お風呂の外枠などは桧だけど、このお風呂自体は薪で焚くもので、鉄製の風呂釜を使用しているんだもんね。だから……ほら、お風呂の底は真っ黒になった鉄でしょ。その下は、さっき私達が薪をくべていた場所」


「なるほど、だから火傷しないように足場が必要なんですね。でも木でできたすのこを沈めるなんてちょっと不思議です」


「そうね。でも水の中に沈める訳だから、熱で燃えたりはしないからね。それじゃ皆、身体を洗おう。カルビは私が洗ってあげるから、こっちに来なさい」


 ワウウ。



 こんな山奥で旅の途中、とびきり美味しいものを食べてゆっくりとお風呂に浸かって……最高だなー。今暫くは、パスキア王国の事を忘れてしまおう。そう思った。

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