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第851話 『鍋と言えばあれだよね! その1』



 鍋は、大きな土鍋だった。聞くと、この土鍋を作ったのはパテルさんらしく、材料の良質な粘土もこの山で採取できるらしい。


 そんな、大きな土鍋で作る鍋料理。ベースは鶏肉で、そこにニラ・白菜・葱・椎茸などの、畑で採れたばかりの新鮮な野菜と山菜が大量に入る。


 椎茸は、予め乾燥させてとっておいたもので、そうした方が生のものより旨味や風味が更に強くなるのだ。


 私もたまに森などで、天然の椎茸を収穫する事があるけれど、その場合は乾燥させて持ち歩いたりする。



「どれ、お腹はいっぱいになったんじゃろか? まだ、食えるかね?」



 パテルさんが、少し赤くなったほろ酔い加減という顔で、全員の顔を見渡す。すると、ルシエルとノエル、それにマリンが腕をあげた。



「イエーー! まだまだ食えるぜ! このでかい土鍋には驚いたけど、人数が人数だからな! あっという間よ」


「そうだ。あたしもまだまだ食えるぞ。まだ何かあるというのであればだがな」


「ボクも端的に言えば、まだまだ食べられるし飲めるよ。本当だよ」



 実は私も食べられたりする。アハハ、まったく、私の仲間達はなんて食いしん坊なんだろう。パテルさんは、にこりと微笑むと「よいしょ」と言って立ち上がり、土間の方へと移動する。そして大きなザルに入った白い何かを持って戻ってくると、それを土鍋に入れた。私達はそれを見て、大きな声をあげた。



『それは、うどん!!』



 パテルさんは、私達の反応に笑った。そしてお酒をまたちびり。



「鍋の醍醐味は、やっぱりこれよな。儂はそろそろごっそさんじゃが、皆はまだ食べられるんなら鍋は、まだまだこれからやけんのう。うどんは、儂がこさえたもんじゃけんど、味はいいはずやけん」



 ルキアが、嬉しそうな顔をする。その顔を直に見る事はできないけれど、クロエはルキアの表情をしっかりと捉えている様子だった。



「うわーー。おうどんいいですねー。これ、絶対に美味しいですよ。それになんだか、エスカルテの街からブレッドの街へ向かう時に立ち寄った、教会の事を思い出しますね」


「そうね。少し前なのに、ずいぶん前の記憶に思えるわよね」


「え? いったい何があったんですか? ルキア、教えてください」


「クロエのいたブレッドの街にミャオ達と向かう途中に、教会に立ち寄ったんだけど、そこで皆でおうどんを作ったんだよ」


「教会でうどんをですか?」


「うん、その教会にはシスターケイトと、シスターアンナっていう二人のシスターと、沢山の子供達がいてね――――」



 その時の事をルキアは、クロエに丁寧に話して聞かせた。ルキアは楽しそうにあの時の事、シスターや子供達と小麦粉をこねて作ったうどんの話をする。クロエがそれに聞き入っている間に、パテルさんが鍋に投入したうどんはしっかりと茹で上がった。



「それじゃ、うどんができたけん、お食べ」


『はーーい、頂きまーーす!』



 またパテルさんに全員でお礼を言う。


 早速皆、土鍋からうどんをよそう。私も自分の分をよそって食べた。



「おいしーー!! なにこれ、物凄く美味しい!!」



 まだ鍋に残っていた葱や、白菜に更に火が通ってクタクタになっている。シャキシャキとしたしっかりとした感じも美味しいけど、これはこれでうどんとよく合って美味しい。


 皆もこの味に舌鼓を打った。



 ワウワウワウーー!!


「はいはいはい、大丈夫よ。ちゃんとカルビの分もあるから、焦らないで。はい、どーぞ」


 ガツガツガツ、ハフーハフー!


「アハハハ、ゆっくり! カルビ、お鍋は逃げだしたりしないから、もっと落ち着いてゆっくりと食べなさい! 焦って食べると火傷するからね」



 器をカルビの方へ差し出すと、カルビは私の器に顔を突っ込んで、必死になってうどんを貪った。それを見たルシエルがヒャヒャヒャと笑い、私とカルビに向かって指をさした。



「あーーー、アテナとカルビーー。それ間接チッスじゃね? 関節チッスだよなー、やーらしーーい。フーフー」



 反応に困り、目が点になる私とカルビ。


 お酒が入っているせいか、いつもよりルシエルのウザーイ度にバフがかかっている。



「いいの! カルビは、私の彼氏なの!」


「あーーん? それならチッスしてみろよ! 彼氏ならできるだろ? それともアレか? できねーってのか? あーん?」


「は? そんなの、余裕でできるわよ」



 うどんをもりもりと夢中になって食べているカルビの顔を両手で挟み、無理やりこっちに向けると鼻の頭にキスをした。


 カルビは直ぐに私の手から抜け出すと、また器に入っているうどんをモッチャモッチャと貪る。



「ほらね?」


「なんだその勝ち誇った顔は!! ちっきしょー、アテナの癖にー!! ほいじゃ、オレもカルビとチッスするぜ!! 濃厚な特別な奴を1発をブチかましてやっからよー、見てろよな! よし、こっちにこいカルビ!! ほら、遠慮すんな!!」


「お酒臭いから、嫌だってさ」


「キーーー!! ちきしょーー!! バカにしよってらからにーー!!」



 皆、大笑いする。そんなこんな食事を楽しんでいると、うどんもあっとう間に平らげてしまった。美味い美味いと言う皆の姿を見て、満足げにパテルさんが言った。



「ほんま、よう食いよるけん。まだ食べられるんやったら、ええのが……」


「食う!! 食う、食う、食う!! 食いまーーす!!」



 元気に手をあげて、返事をするルシエル。ノエルやマリンだけでなく、ルキアやクロエも食べたいと声をあげる。私もそう。



「ほおーーう、よう食うね。やが、あまり食べてお腹壊さんようにせんといかんよ」


「大丈夫です。もう少し食べられます」


「よく言うぜ。この中じゃ、アテナが一番大食漢だろーがよ。オレは知っているぜ」


「あのね。私、そもそも(かん)じゃないから!」



 するとパテルさんは、また土間の方へ。そして今度は、美味しく炊きあがったアレをもって戻ってきた。


 フッフッフ、私は覚えている。パテルさんが食事の準備をしてくれていて、ルシエルがその間ウィニーと遊びわまってお手伝いをしなかった時に、ルキアがせっせとライスを炊いていたのを――


 あれがくる!! 鍋と言えばあれ!! うーー、あれがまた美味しいんだよね!!

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