表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
841/1346

第841話 『巨大熊』



 クラインベルト王国から、パスキア王国へ向けてのルート。その途中、パスキア国境間近の山の中で、突如遭遇した道を塞ぐ巨大な熊。


 その前で私達は、全員が力を使い果たしてしまい、その場に転がっていた。


 どうやっても、うんともすんとも動かない。大きさからみれば、それは解っていたけど、こんなにも重いなんて…



「どりゃああああ、うおおおおお!!」



 そういえば、一人まだ格闘中だった。ノエルだけは、一人でまだあの大きな熊を押している。一瞬、馬車を引いている牛にも協力してもらえば、あるいは……って思ったけれど、この感じだと焼け石に水だろうし……これは、まいったな。


 今から道を折り返して、別のルートで向かうっていう手もあるけれど、もしかしたらかなり時間がかかってしまうかもしれないし、別ルートからパスキアに向かっているエスメラルダ王妃やエドモンテと鉢合わせするかもしれない。そしたら、また嫌味言われるかもだし……うーん、そうなったら嫌だなー。



「よし、仕方がないね。こうなったら、このボクの必殺、【水大砲(ウォーターランチャー)】でこの大きな熊をひとおもいに吹っ飛ばして……」


「駄目だっつってんだろーが!!」



 ルシエルが、マリンに勢いよく突っ込みを入れる。



「でもほら、このままじゃいつまでたってもここを通れないし、今の状況は端的に言ってじりひんだと思うんだけど」


「でも駄目だ! そんな魔法を使えば、このスヤスヤ眠ってなさる熊さんを傷つけるだろーが。アテナも言ったろ。あいつは、まだ危険かどーかも解らんって!」


「魔物というだけでも十分危険だよ。でもルシエル。君の気持もちゃんと考慮している。その証拠に、吹っ飛ばすとは言ったが、【水大砲(ウォーターランチャー)】は下位の水属性魔法だから、それほどダメージは……」


「さっき、必殺って言ってただろーが!! だから、ダメだ!!」


「えーーーー」



 あーだこーだ言い合う、ルシエルとマリン。めげずに一人、熊に何度も向かっていくノエル。


 マリンの言うように、このままここでずっと熊が起きるまで、ボーーっと突っ立っている訳にもいかないし。さて、どうしたものか。


 でも、ノエルの怪力でもまったく動かないなんて……あの熊さん、相当な重量だよね。ダイナミックベアという名称に偽りなしだね。



「ありゃ、おまんらこんなトコで何しとるんだがねー?」



 気配。全員、今の声に驚いて振り向くと、そこには髭もじゃのおじさんが立っていて、巨大な熊を必死で押して動かそうと格闘しているノエルを凝視していた。


 私はおじさんに慌てて駆け寄って、状況を説明する。



「おじさん、ちょっと離れていてください! そこにダイナミックベアが、横たわっていて! もしも目を覚ましたら、襲い掛かってくる場合もあると思うので、近づかない方がいいと思います」



 おじさんは、きょとんとした顔をして、道を占拠する巨大な熊に目をやった。



「おおー、ホンマじゃな。ホンマにこげな所で寝よるねー。こりゃ邪魔になっていかんわ」


「ですから、近寄らない方がいいです。危険ですよ」


「危険? どうして?」


「だって、ダイナミックベアですよ。魔物ですし、もしかしたらとても狂暴かもしれないですよ」


「あんたらは、危険じゃないんけ?」



 おじいさんの質問に、ルシエルが腕を振り上げて答えた。



「おうよ! 問題なしだ! なんてったって、オレらは冒険者だからな。魔物退治はお手のもんよ!」


「なるほど、そういう事かえな。でもこの熊は、退治しちゃならんよ」


「え? どうして?」



 おじさんは、ずるずるずるっと目の前の斜面を滑ると、ダイナミックベアが道を塞いでいる道へと降りた。そしてそのままダイナミックベアの顔の前に移動した。傍にいたノエルが、声をあげる。



「おいっ! あんた、危ねーぞ! いきなり目を覚ましたら、喰われるぞ!」


「いやー、こいつは喰わねえってば。とりあえずよ、このままにしておけねーから、お姉ちゃん、ちょっと手を貸してくれんかね」



 おじさんはノエルにそう言った。ノエルはどうしようかと私の顔を見たが、「ほれ、はよせんか!」とおじさんに言われて、仕方なく手を貸した。



「そっちの子たちも悪いけど、手をかしてくれんかね」


「え? 私達ですか?」


「ほーよ。近くに、他に誰がおるんよ」



 慌ててルキアとクロエも、ノエルと同様におじさんに手を貸しにダイナミックベアの顔に近づく。私とルシエルは、一応何が起きても、直ぐに助けに入れるようにスタンバイした。



「ほら、この熊を普通に起こそうとしても、ほりゃ起きんわ。起こそうと思ったら、ちーーっと頭を使わなあかんけんの。ほんじゃの、あんたはそっち。そんであんたはあっちの穴を手で塞いでの。ほんで、あんたと儂で熊の口を閉じてしまうんよ。ほら、せーのでー!!」



 眠っているダイナミックベアの鼻の穴を左右それぞれ、ルキアとクロエが手で塞ぐ。そしておじさんとノエルで、両サイドから一緒にダイナミックベアの口に抱き着くようにして、閉じさせて塞いだ。


 え? こんな事してどうなるの? こんな事したら、ダイナミックベアは、息ができなくなって……



 ……ブ……ブホッ……


「離すな!! このまま、このまま! これで、跳び起きよるから!! 跳び起きよるまで、絶対離したらいかんよ!!」


 ブ! ブホオオオオオオ!!


「きゃああああっ!!」


「ルキア、クロエ!!」


 ワウウッ



 苦しそうに悲鳴をあげるダイナミックベア。あれだけ押しても、なんにも動かなかった巨大な熊が、鼻と口を完全に塞がれて呼吸ができなくなったことにより、唐突にその大きな身体を起こした。そして無理やりに起こされ、その場に座りこんだ体勢になると、ギョロリと私たちを見た。


 私とルシエルは、素早くルキア達の方へ移動すると、ルキアとクロエの手をそれぞれ引いて、離れた場所へ連れていき2人の盾になる。



「おじさんとノエルも早く離れて!! 潰される!!」


「やっと、目を覚ましよったわ。ホンマに、寝坊助なんよこの熊は。って、うお! なんよ!!」


「おじさん!!」



 ノエルも叫んだ。


 おじさんは、無理やり起こされたダイナミックベアに掴まれると、そのまま片手で宙に持ち上げられた。ルシエルの手が、弓矢に伸びる。


 私も剣の柄に手を当てると、ダイナミックベアとおじさんの方へと一直線に駆けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ