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第84話 『ホーデン湖 水の悪魔 その3』







 何者かが、私たちのいるこの小屋の扉をノックした。緊張が走る。


 扉からテーブルを挟んで、セシリアさんがボウガンを構える。そうする事によって、もしも開いた扉から敵が突撃して来ても、テーブルがバリケードになる。


 ボウガンの照準は扉。



「私が援護するから、テトラ。お願いできるかしら」



 私は、頷いて扉の前に物音をたてないよう慎重に移動する。扉の鍵を外して、再び距離をとって槍を構えた。



「どうぞ! 鍵は開いてます!」



 扉の外に声をかけた。そうして、セシリアさんと顔を見合わせたあと、再び構える。


 すると、ノブが動いた。扉がゆっくりと開く。


 ――――ガチャリ



「邪魔をするよ。この小屋の近くを通りかかったらいい匂いがしてきたので、立ち寄ってみた。それに、ボクはお腹が減ってどうしようもないんだ。申し訳ないが、何か食べさせてもらえないだろうか」



 サヒュアッグでは、ない。そこには、可愛らしい少女が立っていた。


 水色の三角帽子に水色のローブ。髪は銀色で、三つ編みにしている。ウィザード? 



「あああ……あなたは、誰ですか? 何者なんですか?」


「ボクは、マリン。マリン・レイノルズ。一応これでも、魔法使いなんだ」


「魔法使い…………」


「すまないが、もうお腹の減りが限界なんだ。お礼はするから、何か食べ物を分けてもらえないだろうか」



 ぐーーーーーっ


 少女とのやり取りと、腹の音を聞いて、アンソンさんが調理場から顔を出した。



「ふむう。中にはいりなされ。スープは、沢山作ったから、食べていくとええ」



 唐突に小屋にやって来たお客さんは、魔法使いだった。マリンを加えて、4人で食事することになった。



 モッシャモッシャモッシャ……ずずずずず……



「ぷっはーーーっ! ご馳走様でした。すこぶる美味しかったよ。栄養満点なスープだね。野菜がふんだんに使用されていて栄養バランスも極めていい、それにこの肉は……」


「ビッグボアの肉じゃよ。本来は豚で作るトン汁っていう料理なんじゃが、儂はビッグボアの方が好みでの」


「トン汁。ふむ、興味深い。後でボクのノートに記しておこう」



 いきなり魔法使いの少女の登場で、そちらに意識がいってしまったけど、トゥターン砦に向かう為に再びホーデン湖を渡る策を考えないと。セシリアさんに目を向ける。しかし、セシリアさんは、魔法使いのマリンさんを見ていた。そして、唐突にセシリアさんはマリンさんに話しかけた。



「マリンさん」


「ん? なんだい?」


「あなたは、ウィザードよね。魔法は使えるの?」


「ああ。魔法? もちろん使えるよ。魔法使いだからね」


「じゃあ、例えば――――例えばなのだけれど、この小屋の真横に広がるホーデン湖を船も無しに、魔法だけで渡れたりする?」



 ダメもとでのセシリアさんの質問。だけど、現状打破できる可能性があるのなら、なんでも試さないと。



「ふむ、湖を船も無しに魔法で渡る事ができるか…………君、とても面白い質問をするね。実に興味深いよ。うーーーん、魔法だけで湖をかい? そうだねー」

 


 セシリアさんが、藁にも縋る思いで聞いている事は、マリンさんには伝わっている。だけど、無理だとしてもウィザードなら魔法の力で、私達の想像もつかないような方法を思いつくかもしれない。聞いてみる価値はあると思う。


 マリンさんは、少し考える素振りをみせるとセシリアさんの質問に答えた。



「まあ――――端的に言うとできるよ」


「そうですよね、魔法を使って湖を渡るなんて、普通出来ませんよね」



 ……………え!!



「ででで……できるんですか!!」



 私達が驚きで取り乱しているのをよそに、マリンさんはお腹が満たされ眠くなったのか、目を少し擦って答えた。



「できるよ。そんな質問をするくらいだから、向こう岸に行きたいんだろうけど、魔法を使えば可能だよ。まあ、普通の魔法使いには難しいとは思うけど、ボクにはそれを可能にする力がある」


「お願いがあります! あなたの魔法で私達を、湖の北……向こう岸まで、連れて行って頂けないかしら。御礼なら、なんだってするわ。だから……」



 セシリアさんの必死の言葉を、マリンさんは途中で遮ってこたえた。



「御礼ならもう受け取ったよ。この、美味しいトン汁をね」



 私は、歓喜した。セシリアさんは、頼んでおいてだけど、怪しんでいる。性格上、マリンさんが本当にそんなことができるのか見定めているみたい。

 

 私達は、早速準備をしてホーデン湖の前に立った。再トライだ。セシリアさんが心配そうな顔をする。



「頼んでおいて、こんな事をしつこく言うのは、本当に申し訳ないと思っているのだけれど……でも、私達は必至なの。本当に、向こう岸には渡れるのよね?」



 マリンさんは、こちらを一瞥すると目前に広がるホーデン湖を目前にして立った。そして、湖に向けて杖を翳した。



「《噴水防壁(ウォーターウォール)》!!」



 ザバアアアアアアアア!!



 マリンさんがそう唱えると、突如、湖の水が向こう岸まで真っ二つに割れた。私とセシリアさんは、その光景に圧巻された。言葉がでない。アンソンさんは、腰を抜かしてひっくり返っている。



「な……何事じゃ……こりゃ凄いの」



「申し訳ないが、向こう岸に渡る気があるのなら、先を急いでくれると助かる。流石に大量の魔力を消費し続けている。急がないと、この魔法はあともって…………」



 マリンさんが話し終わる前に私とセシリアさんは顔を見合わせ、互いに頷いて見せた。



「じゃあ、私たち、大切な人を救いに行ってきます! 色々ありがとうございました、アンソンさん!!」



 私はアンソンさんに手を振って走り出した。



「色々助けて頂いて、ありがとうございました。この御礼は、後程必ず」


「お嬢ちゃん達も気を付けてな!! 無理はせんよーにな!!」



 手を振るアンソンさん。セシリアさんもホーデン湖に向かって走り出す。なぜか、マリンさんもついて来ている。



「おおーーい! テトラちゃーん、セシリアちゃーん! 待ってくれよー!!」



 アーサーの声。アーサーがこちらにかけてくる。



「どうするんだい? あの剣士は、君らの仲間なんじゃないのか?」


「ずっと、あの人ついて来ますね! このまま、無視して湖を渡っちゃいましょう」


「そうね。気にしないで、行きましょ」



 ホーデン湖がまるで谷間のように縦一文字に、割れる。


 その中を、私とセシリアさんとマリンさんで走った。ふと地面に目をおろすと、ここは湖の底なんだって気づいた。


 こんな事を人に言っても、きっと信じない。



 嘘みたいな話しだけど――――私達は今、湖の底を全力で駆け抜けている。








――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇マリン・レイノルズ 種別:ヒューム

銀髪、三つ編みの少女。Cランク冒険者で、水属性魔法を得意とする【ウィザード】。水色の三角帽子とローブ、それに眼鏡が特徴的。本作79、80話で登場。クライドとという冒険者とその彼の仲間と共にルリランの森近くの古代の墓場へ宝を見つける為に行ったが、宝を目にしたところでクライド達に裏切られた。大喰らい?


噴水防壁(ウォーターウォール) 種別:魔法

中位の、水属性魔法。目前足元から水を横一列に魔力で作った水を吹きあがらせて壁を作る。水の壁であるが、魔力で生成しているためその強度も術者に比例する。どんな魔法にも言える事だが、使い方次第で様々な事にも利用できるみたい。そう、湖を二つに割る事だって……


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