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第836話 『霧がかる朝』(▼ルキア)



 目覚めると、もう朝だった。


 私は起き上がると周囲を見渡して驚いた。私はテントに入らずに、焚火の周りで寝てしまったんだ。その事に気づいた。


 そして近くでは、外で一緒にアテナとクロエが眠っている。



「昨日は、知らない間に寝ちゃった……」



 それで起きたら、こんな時間。まだ薄暗く完全に夜があけていない。しかも周囲は、少し霧がかっていた。


 こんな草木が多い山の中で、もしも一人でいたら、とてもこんな所で寝転がって眠るなんてできない。魔物だけじゃなくて、もしかしたら幽霊などのアンデッドが現れたりしそうで、恐怖でどうにかなってしまう。


 だけどこんなにも今、落ち着いていられるのは、やっぱりアテナやルシエル、ノエルにマリンにクロエ。カルビが一緒にいるからだと思った。


 今、所持していないというのもあるけど、テントを設営する前に魔物除けの聖水をふりまかないのも、必要性を感じないから。


 ちょっとした程度の聖水で逃げていくような魔物なら、アテナ、ルシエル、ノエル、マリンの4人を見れば、きっと一目散に逃げていくに違いないから。


 …………


 ちょっと悪いかなと思いつつも、2人の寝顔を覗き見る。



「うーーん、むにゃむにゃ……もう……食べられないよ……」


 !!



 気持ちよさそうに、眠っているアテナ。そのアテナがむにゃむにゃと、寝言を言ったことに驚いてしまった。


 アテナは私の事を可愛いと言ってくれて、いつも可愛がってくれるけれど、アテナの方がよっぽど可愛いと思う。


 それに美人だし、勇気があって強くて剣だけでなく魔法も使えるし、あの凄い組技も使える。なんでも知っていて、頭もいいし正義感も強くてとても優しく慈愛に満ちている。


 私にはリアという可愛い妹がいるけれど、2人姉妹だから、私にはお姉さんはいなかった。でも今は、アテナが私のお姉さん。こんな私の事を妹だと、言ってくれる。


 私は特に何も考えずにアテナの顔を覗きこんでいると、まるでチュウをしてしまいそうな程、アテナの顔の真ん前まで顔を近づけてしまっていた。とても優しい香りがする。とっても綺麗な青い髪。


 アテナの寝顔、ずっと見ていられるけど、隣で同じように横になって眠っているクロエに目を向けた。



「うう……うううう……」



 あれ、うなされている?



「……うう……うう、やめて……ヴァサルゴ……」



 ヴァサルゴ?


 うなされるクロエを、このまま眠らせておいても、いいのだろうか。私は少し悩んだ挙句、クロエを起こす事にした。彼女の身体をゆする。


 ユサユサ……



「クロエ、大丈夫ですか? ねえ、クロエ」


「ううん、う……ルキア?」


「うん、私だよ。大丈夫?」


「大丈夫って?」


「酷くうなされていたみたいだから……まだ早いから、そのまま寝かしておこうか悩んだんだけど……」



 クロエはかなり苦しそうだった。そしてヴァサルゴという、多分名前だと思うけど……そう口にしていた。クロエは私のいる方を向いて、顔を左右にふるふると振った。



「ううん、起こしてくれてありがとう。確かにうなされていたと思うわ。起こしてくれて良かった……ってかなり冷えるね」


「うん、まだ陽も昇ってなくて薄暗いし、霧もちょっと出てるから。私も薄着だから、肌寒いね」


「そうなんだ。霧が出ているのね」



 先ほどまで、うなされていたクロエ。なのに、霧と聞いてクスリと笑った。私は急に笑顔になったクロエに、その訳を聞いてみた。



「どうしたの、クロエ? いきなり笑って」


「ううん、霧が発生しいている場所でのキャンプ。あのコナリーさんや、ルンちゃんも一緒にいた、ブレッドの街近くの泉でやったキャンプを思い出して」


「なーんだ。そういう事かあ。凄く楽しかったよね」


「うん、凄く楽しかったわ」



 クロエはまたにこりと微笑んだあと、一瞬ぶるると震えた。私は、先ほどまで自分が使用していた毛布を、クロエに背中から被せた。



「え? ルキア?」


「もう少し、我慢していて。焚火の火がもう消えてしまって、くすぶっているみたいだから、直ぐに薪を足すね。そうすればお湯も沸かして温かいものも飲めるし、身体を温められるよ」


「ええ、ありがとう。そういえば、他の皆は?」



 周囲を見渡すと、霧がかった中に見える2つ設営されたテント。そして直ぐ近くで、薪を重ねて、枕にして眠っているアテナ。



「アテナは、クロエのすぐ前にいて眠っているよ。だけどすごく気持ちよさそうに眠っているから、もう少し眠らせてあげて。他の皆も、まだテントから出てこないから、眠っていると思う」


「そうなんだ。じゃあ、今は山の中。そこにキャンプを張って、そこで起きているのはわたしとルキアだけ?」


「うん、そうだよ」



 クロエはまた楽し気な表情をすると、自分の使っていた毛布と私の毛布を二重にして、その中に身を隠した。



「アハハ、クロエ、なんだか冬眠しちゃっているみたい」


「ええ、冬眠しているのよ。ルキアが早く、温かくしてくれるまで」


「うん、ちょっと待ってね。今、火を起こすから」



 うう、寒い。立ち上がると、余計に寒く感じた。上はノースリーブだし、下はミニスカートだし。動きやすさに関してはこの上ないけど、耐寒性に関してはかなり弱い。


 少し震えながらも焚火のそばにあった、昨日アテナとクロエが集めてくれていた薪に手を伸ばす。それを焚火箇所に置いて、火をつけようとマッチを取り出した。

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