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第835話 『心の底に潜むナニか その2』



「クロエ、どうもお前のその顔は、アレだな。お前の中に勝手に入り込んで、居座っている俺様を追い出したい。そんな(つら)だな」


「ええ、そうよ。ど、どうしたら出て行ってくれるの?」


「どうしたらって? いいのか、本当に出て行っても。俺は悪魔なんだぜ。お前から出たら、間違いなく他の者に移る。ルキアとか言ったか。あいつなら、簡単に身体を奪えそうだ」


「嘘!! だってそれなら、既にあなたはわたしの身体を乗っ取っているはずよ。だってルキアの方が、わたしなんかよりもしっかりしているし、強いから」



 ヴァサルゴは、大きな口をまた豪快に開いて笑った。わたしなんて、簡単に一口で呑み込まれてしまいそう。



「ギャッハハハハ!! やはり、なかなか賢いな。お前を選んだのは正解だ」


「せ、正解って……」


「特別深い意味はない。お前は、剣も魔法も使えんようだし、その素質もないようだ。目が見えないという所と、ガリガリの栄養失調って所を除けば、何処にでもいる単なる少女だ。だが俺とお前は、相性がいいようだ。相性ってのは、とても大事だからな」


「どう大事だっていうの……」


「そりゃ大事だろ? 察しのいいお前の事だから、もう解っているよな? お前の身体を乗っ取る時に、相性が悪いよりはいい方がいいに決まっているだろ? 俺だってその方がやりやすい。ブレッドの街の、トニオ・グラシアーノの事を覚えているよな。俺様は心に深い闇を持つ者や、魔に近いものに取り付く事ができる」



 グラシアーノさんの事は聞いた。それでミャオさんやシェリーさん、クウさん達も怪我をして……エスカルテの街からやって来た冒険者の人達も、何人かその時に……やっぱりヴァサルゴは危険。



「おーっと、その顔。俺様を危険視する目だ。拒絶する目、嫌悪する目、忌み嫌う目。だがな、言っておくぞ。お前は、俺に助けを求めたんだ。一度だけだがな、ゲース・ボステッドのあの拷問屋敷で、俺様に助けをこうた。あの時は、お前に乗り移ったばかりでな、大した力もだせずに残念ながら力にはなってやれなかった。いや、違うな。正しくは、俺様があの屋敷にいた奴らを皆喰ってしまう前に、あのハーフドワーフ。なんて言ったかな。そう、ノエル。ノエルとアテナがお前を助けた。そいや、子供のウルフもいたな。グーレスとお前は呼んでいるが、あいつは魔物だ」



 ヴァサルゴの目が、ギョロっと動いた。嫌な予感が身体を突き抜ける。



「そうだ、いい事を思いついたぞ。実は今日、お前の夢に現れたのはな、これからお互いに上手くやって行く為に、ちゃんと挨拶しておこうと思ってな。それと、交渉したい事があった。察しのいいお前の事だから、もう理解しているとは思うけどな。一応言っておくと、お前の身体を俺様にくれって話だ。その代わり、お前には、最高の夢をプレゼントしよう。永遠の夢の中の世界、そこじゃなんだって夢は叶うし、目だってハッキリと見える。今見えているのが、証拠だ。説得力あるだろ」



 ヴァサルゴは悪魔。しかも大悪魔って言った。そんなのに、わたしの身体をあげたら、わたしは一生後悔するかもしれない。



「その目。嫌か、それならそれでいいんだぜ。じゃあ代わりに、グーレスか向こうで眠っている可愛いバジャーデビル、あれに乗り移るかな。魔物ってのは、森に生息する兎さんや栗鼠さんのような動物と違って、極めて魔に近い生き物だ。だから魔物っていうんだぜ。俺様が身体を乗っ取れば、たちまち豹変するぞ。そして人々が恐れる、立派な狂暴凶悪な魔物になる。だが俺が乗り移れば、グーレスもバジャーデビルも、以前の面影はなくなってしまうだろうな。モンスター……それで、今お前の近くで眠っているアテナやルシエル……そういや、ルシエルとノエルには大きな借りがあるな。奴らが眠っている間に、バクリと頭から喰らって……」


「やめてええええ!!!!」



 …………



 自分でも驚くほどの声をあげた。沈黙するヴァサルゴ。



「仲間に手を出すなら、わたしは……わたしはあなたを許さない……」



 自分が震えているのが解る。ヴァサルゴは怖い。目にするだけで、吐きそうな位に怖い……でもアテナさん達を失う方が、もっと怖い。


 それにわたしは、お母さんとは違う。あの頃の塞ぎ込んでいた自分とも違う。グーレスに出会い、アテナさんに出会い……優しい皆に出会った。今なら……ううん、今こそ怖くても前に踏み出さないと。立ち向かわないといけない。



「クロエ。ちょっと一つ聞きたいんだがな。俺様を許さない、今そう言ったよな。お前のような、なんの力も持たない汚い餓鬼が、この大悪魔ヴァサルゴ様にだ。どう許さないか、ちょっと聞きたい。その答えによっては、お前の評価を変える」



 評価? そんなもの、関係ない。


 冷静に考えるの。ヴァサルゴがなぜ、わたしのような、何の力も持っていない者とわざわざ交渉しようとするのか。


 大きな力があるのなら、わたしをさっさと食べちゃって身体を乗っ取ればいいのに。それをしないという事は、何かできない理由があるか、もしくはまだその力が備わっていないか。


 わたしは、お腹にぐっと力を入れてヴァサルゴを睨み付けた。



「ヴァサルゴ。あなたがもし、わたしの仲間を傷つけるようなら、わたしは自殺する。自殺して、あなたの企みを阻止する。あなたは、あたしの中にいると言っていたけれど、わたしがもし死んでしまったら、わたしの中にいるあなたはどうなってしまうのかしら。言っておくけど、グーレスやバジャーデビルの子供達に何かしようとしても、そうするから」



 じっと、わたしの目を見つめるヴァサルゴ。そして唸った。



「なるほど。まさかと思ったが、どうやら本当にそう思っているようだな」


「わ、解ってくれて嬉しいわ」


「そして気が付けば、あれだけ怯えていたのに、今はこの俺様と対等に話をしている。あのトニオ・グラシアーノですら、俺様は恐怖の対象であったのにな。そう考えると、やはりお前は当たりだったのかもしれねーな」



 当たり……相性がいいって言っていたけど、それも含めて言っているのかもしれない。身体を乗っ取りやすく、都合のいい人間。


 ヴァサルゴはまた豪快に笑うと、何度か大きく頷いて言った。



「まあ、解った。その度胸に免じて、今回は引き下がろう。だが、よく考えてみてくれ。お前の目は決してよくならないし、光を感じる事もない。それなら夢の中の世界で自分の望むままに、生きた方が幸せじゃねーのか。俺は、断然そっちの方がいいとオススメするぜ。まあ、また俺様に助けてと縋りつく時がくるかもしれーしな、その時に契約書にサインしてくれと迫るのも悪くはねえ。それじゃ、今日はここらでおいとまするぜ」



 ヴァサルゴがそう言うと、わたしとヴァサルゴを照らしていた光がどんどんと暗くなり始めた。真っ暗になっていく。いつもの暗闇の世界。



「そうそう、そう言えばルシエル・アルディノア。あれには驚いたぜ。まさかアルディノアの一族が、こんな所にいて、お前と旅しているなんてな。なんて因果か。まあ、だが残念ながらなんの反応も感じない所をみると、あのアルディノアの一族の娘は、お前と違ってハズレだったようだがな。ギャハハハ」



 アルディノアの一族……ヴァサルゴは、ルシエルさんの事……というか、ルシエルさんの一族の何かを知っている……それが何なのか、私には想像もつかなかった。

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