第830話 『アテナのこんがり鳥料理 その2』
お芋を潰して、いい感じに味付けしまたものを、ルシエルとノエルが仕留めてきてくれた大きな鳥の中に詰めて、こんがりと丸焼きにする。
長い棒に刺し通して、焚火の火でじっくりと焼き上げる。棒や肉が燃えてしまわないように、炎とは少し距離をあけて設置。じっくりと時間をかけて、ジリジリと焼き上げる。
鳥皮に使用したタレを鳥に塗って、また回転させて焼けてない面を焼く。それでまたタレを塗って、回転させるという作業を繰り返していく。
皆、先に作った肝臓や心臓、鳥皮の焼き物を食べながらも、メインディッシュができあがるまでの時間を、今か今かと待って楽しんでいた。
「さあ、できたわよ! それじゃ、鳥を乗せる大きなお皿を用意してくれる……って大きなお皿なんてないから……どうしようか?」
ズッコケる、ルシエルとマリン。
「えーー!? もういいじゃねーかよーう! そのまま切り分けちゃえんばいいんでねーの?」
「クッチャクッチャクッチャ……ゴクン。そうだそうだ。ボクももう、餓死しそうで限界だ。いい加減、そのメインディッシュとやらを味あわせてもらおうか」
「あのねー! このまま焚火にかけたまま切り分けたら、中に詰まっているお芋さんが全部、下にごぼれちゃうでしょ。あと、マリンも餓死しそうとか限界とか言っているけど、ずっと口が動いているよね。焼いた肝臓やら鳥皮だけでく、クロエが獲ってきてくれたピンクストロベリーにも手をつけているみたいだし」
「えーー、だってほら見てごらんよ。この鳥、すっごい美味しそうな色になっているし、香りもとても美味しそうだ。これは塩胡椒とタレだけじゃないね。もしかしてアテナが採取してきた薬草の中にあった、ハーブも使用しているね。驚く程、鳥肉に合うハーブだよ」
「料理は苦手なのに、そういうのは敏感なのね」
「え? そういうのって?」
ルシエルがマリンを、肘で突いた。
「食べる事だよ! この食いしん坊さん!」
「え? それならルシエルこそだよー」
キャッキャッ
盛り上がるルシエルとマリン。二人共冒険者で、確かクラスは【アーチャー】と【ウィザード】。だけど凄く気が合っているみたい。でもそんな二人をとても白けた目で見る、ノエルがいた。私は苦笑い。
「アテナ! これでどうでしょうか?」
「ど、どうでしょうか?」
ルキアとクロエ。2人は、私がルシエル達となんでもない会話を続けている間にも、その辺で木の葉を集めてくれていた。
その葉は大きなもので、艶があって丈夫。以前、この葉の上に調理したステーキを乗せて、ルキア達に食べさせた。その時に、こういう葉は、お皿の代わりにもなるんだよって教えた。それをルキアはしっかりと覚えていたのだ。
私はルキアとクロエ、2人まとめて抱き絞めた。
「えらーい!!」
「にゃんっ!!」
「きゃっ!!」
ぎゅーーーっ
「えらい!! 二人共やっぱり、優秀ね。偉そうに口だけ出して、まったく動かない誰かさんとは大違い! ありがとう、ルキア、クロエ」
「エヘヘ」
「あ、ありがとうございます」
2人の頭を撫でる。そして横目で、その誰かさんをチラリと見た。ルシエルとマリンは、私の視線に気づいて、「お前だぞ、言われているぞ」「君だよ、端的に言って、きっと君の事だよ」と言って、動かない誰かさんの事を擦り付け合っていた。
「それじゃ、ルキア、クロエ。焚火の横に、その集めてくれた大きな葉を敷いてくれる? 今焼いている鳥をそこへあげたら、続けてもう一羽も焼き始めるから。だから、ちょっと広めに作ってもらえてた方がいいかな。6人で囲んで食べるしね」
「はい! 解りました! それじゃもう少し葉っぱ、集めてきます。その間、クロエはここにアテナが今言ったように、葉っぱを敷いてくれる?」
「ええ、解ったわ。任せて」
「よっし、あたしも手伝うぞ!! ルキア、クロエ、何をすればいいんだ?」
「それじゃあノエルはこっちきて。ルキアとクロエが用意してくれたら、この鳥をそこへ置いて食べるから。運ぶのを手伝ってくれる? お芋さんを鳥の中に沢山詰めたから、結構な重さになってるしね。ノエルの出番でしょ」
「ああ、確かにな! そういう役割なら、あたしに任せてくれ! よし移動させるぞ」
「ちょっと待って、焦らないで。ルキアとクロエが今、鳥を乗せるところを準備してくれているから。それじゃあ、ただ単に待っているのも手持無沙汰だし、ちょっと鳥を回転させて、表面を満遍なく焼いてタレを塗ってくれる? 私はもう一羽の準備をしておくから」
「解った、任せろ。あたしは、肉を焼くのは得意なんだ」
ルキアにクロエにノエル。
そしてカルビも、ルシエルのテントの方で眠っているバジャーデビルの様子を見てくれている。
私はまた横目で、ろくに手伝いもせずヨダレを垂れ流して、ただ待っているだけのルシエルとマリンを見て、大きく溜息をついて呟いて見せた。
「ハアーーー、働かざる者、喰うべからず」
はっとする二人。そしてまた「マリン、大変だぞ! お前だけ食べられないぞ!」「君だよ、君の事だよ。可哀想に……」と言って、また働かざる者を擦り付け合い始めた。
私はなんだか急にツボに入って、咄嗟にルシエルとマリンがいる方とは逆を向いて、2人に見えないようにしてブッと吹き出して笑った。
「準備できました!」
ルキアの言葉に振り向く。
「それじゃ、ノエル! お願い!」
「よし、任せろ!」
とんでもなく、美味しそうに焼けた鳥。それをルキアとクロエが敷いてくれた葉っぱの上に乗せる。湯気と香り。ルシエルとマリンだけでなく、皆がその食欲をそそる料理に声をあげた。
「さあ、ここからが見せ場よ!!」
私はそう言ってナイフを取り出すと、一度閉じた鳥の腹を裂いた。すると中から鳥の肉汁をたっぷりと吸って、更に旨味が増しているお芋が現れた。ルシエルが飛び跳ねる。その様子にノエルが睨んで、クロエが笑った。
「うっひょーー、たまんねーー!! ちょーー美味そう!!」
「それじゃ皆、食べましょうか」
『はーーい、頂きまーーす!!』
鬱蒼とした草木の生い茂る山の中。そこでメラメラと温かな炎を燃え上がらせる焚火を囲んで、信頼できる者同士でワイワイとする食事とキャンプ。
この時間がやっぱり、最高に楽しい。
ルシエルにルキアにクロエだけでなく、ノエルとマリンも、ちゃんと両手を合わせて全員で大きく頂きますと言った。
こんがりと焼けた大きな鳥を、皆で食べ始めた。




