表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
829/1345

第829話 『アテナのこんがり鳥料理 その1』



 3匹のバジャーデビルは、ミルクの実から採れたミルクをたらふく飲むと、満足して眠りについた。今は寝息を立てて、ルシエルのテントでご満悦、フフフ。


 ルキアとクロエは一仕事を終えて、皆と一緒に焚火の周りに集まってきていた。


 ルシエルは未だに両手にお芋を握ったまま、嘆いている。



「畜生!! 芋を蒸かすってどうすりゃいいんだ!! 煮るか焼くならできるが、このオレがそんな事をできるのかってんだ!! ちきしょーーう!!」



 ルキアがゴソゴソと荷物を漁って、小さな鍋を取り出す。それに水を浅く入れて、ついでにその辺で手に入れた枝を折って、鍋の底に組み重ねた。



「ルシエル。ここにそのお芋さんを入れてください。それで蓋をして、火にかけて蒸します。それで気を付けなくてはいけないのは、弱火でですよ」


「ほう、それで芋が蒸せるとな。流石はアテナの一番の子分だな」


「子分じゃなくて、弟子ですよ」


「違うわよ。ルキアは私の可愛い妹よ」



 思わずそう言ってしまった後、あえてルキアの顔を見ずに、ノエルから受け取った鳥をまな板に乗せた。


 だって、ルキアの物凄い私を見る目がキラキラして眩しかったから。あと、そんな瞳をウルウルさせているルキアと私の顔を、何度も交互に見てくるルシエルが面倒くさそうだったから。



「さあ、ここからが見せ場よ!」



 ルシエルとルキアとマリン、そしてクロエまでが身を乗り出してきた。


 鳥のお腹に包丁を入れる。スパリと切れたら、慎重に鳥のお腹に指を滑り込ませて内臓を取り出す。この時に、腸を破いてしまわないように――心配なら肛門ごと取り除く。


 そして私も狩人じゃないから、そこまでは見る目はないかもしれないけれど……この肉が絶品なのは、直感でなんとなく解る。


 心臓と肝臓をそれぞれ並べて、お手頃なサイズにカット。



「ノエル、フライパンとってくれない?」


「お、おう」



 フライパンに、瓶に詰めたオリーブオイルを垂らして、隠し持っていたガーリックを入れて火にかけて炙る。そこへカットした心臓と肝臓を乗せて、さっと焼く。


 内臓だからもちろん火は通すけれど、だからといって、あまりこんがりと焼き上げないのがポイント。


 ジュジューーーッ


 そこに塩と胡椒、粉末にしたパセリをふりかけてできあがり。調理している焚火の周りを、悪魔的な食欲を誘うニオイが充満する。


 ルシエルが叫び、皆も群がってくる。



「うおおおお!! 腹減ったああああ!! それ、もう食えるんか!! 食えるんなら、じらさないで早く食べさせておくんなましよーー!!」


「ルシエル、あんた……どんどん私のエルフのイメージから、遠くなっていっちゃうよ。まあ、いいけど。はい、どうぞ!」


「うおおーーーキタキタキター!! 待ってました!! こら、ノエル、マリン!! まずはオレが味見するんだぞ!!」


「ふざけるな!! そう言ってお前は、独り占めする気だな!! あたしは、騙されねーぞ!!」


「いや、ここはまずは肝臓&心臓ソムリエのボクから味見をしよう。あれ? 言ってなかった? ボクは肝臓&心臓ソムリエなんだ。そして一口じゃきっと解らないから、二口三口と食べ続けると予告しておくよ」


「こらーー!! おめーーら、離れろおおお!! あと、そんなソムリエとか聞いた事ねーかんな!!」



 貪欲な3人を見て、呆気にとられているルキアとクロエ。



「安心して二人共……ってカルビもだね。鳥はもう1羽あるし、直ぐに次のを焼くから。それにこれはまだ前菜だからね」


「ぜ、前菜ですか……」


「アテナは、とってもお料理上手なんだよ」



 まるで自分自身の自慢をしているかのように、クロエにそう言うルキア。微笑ましい2人。それに比べてあの3人は……



「うまい! これは絶品だね。とても美味しいよ。肝臓や心臓はとても栄養があるけれど、見た目がグロテスクだろ。でも見てくれ。パクリ……モグモグモグ……ゴクン! うん、美味だね。味だけでなく、見た目も匂いもとても美味しい。これはいいものだ」


「こんらーー!! マリン!! 一番食べてるな、見てたぞ!! こりゃぜんぶ、オレんだからな! よせ、もう食うな、なくなっちまうだろがー!! よこせー、バクリッ! モッチャモッチャ……美味い!」


「むっぐむっぐむっぐ……ごくんっ! お前が喰うのをやめろ! ルシエルはいつも食い意地が張っている! たまには他の者に……つまりあたしに肉をゆずれ!!」


「肉じゃないですーう! これはホルモンですーう! だからノエルには、あげませーーん」


「てめええ!! この野郎、お仕置きしてやる!!」


「はいはいはい、こら!! ノエルとルシエルも、食事の時に暴れないで!! 心配しなくても、まだまだあるから。ルシエル、私が獲ってきた野草とキノコ、こっちにくれる?」


「もっぐもっぐもっぐ、ごくん! うむ、りょーかい!」



 それでスープを作る。鳥ガラも手に入れたし、これを使用すればとても美味しい濃厚なスープができあがる。


 ルキアとクロエ、それにカルビの分の心臓と肝臓のソテーが焼きあがると、彼女達にふるまってお次は砂肝を焼く。同じようにフライパンにオリーブオイルを敷いて。


 更に二羽の鳥の皮を剥いでいく。それは、ちょっと大変。


 醤油にみりん、砂糖を足して、これも他の調味料と同じく持ち歩いていたものだけど、唐辛子をとりだして刻んで入れる。かき混ぜてタレを作ったら、鳥皮を適当な一口サイズにカットして、その辺でみつけた木の枝で串をつくり突き刺していく。


 そして焚火で炙る。すると、ほら。早速もう鳥皮から脂があふれ出してきて、ボタボタと垂れ始めた。鳥皮串。


 ジュジュジューーーッ


 目が見えなくても、音と匂いで食欲が駆り立てられる。クロエも我慢できなくなってきているようで、なんとなく落ち着きなくなってきてた。



「な、なんですか? この美味しそうな香り」



 クロエの質問に、ルキアが答える。



「鳥皮だよ。パリパリに焼く方が美味しいんだよ。ね、アテナ」


「アハハ、必ずしもそうではないとは思うけど、私はそっち派かな。好みは人それぞれだからね」



 ルシエル達も、夢中になって食べる。


 さあ、メインディッシュを作るよ。


 いい感じに蒸かしたお芋さんを、器に入れて塩胡椒、パセリの粉末で味付けする。そして大きめの器に入れて潰す。


 ややペースト状にすると、それを内臓を取り出して中が空洞になった鳥の身体の中に、押し入れる。そして食べられる薬草と、木の枝で入口を塞ぐ。


 表面には塩と胡椒を満遍なく塗し、お芋さんがしっかりと詰められた鳥ができあがったら、それに拾った長めの木の枝を刺して通すと、焚火にかけた。 


 メラメラと音を立てる炎が、お芋さんがしこたま詰められた二羽の大きな鳥を、こんがりと焼き上げていく。


 その光景に、暫く皆押し黙ってしまう。完成まで生唾を飲み込み、じっと釘付けになっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ