第829話 『アテナのこんがり鳥料理 その1』
3匹のバジャーデビルは、ミルクの実から採れたミルクをたらふく飲むと、満足して眠りについた。今は寝息を立てて、ルシエルのテントでご満悦、フフフ。
ルキアとクロエは一仕事を終えて、皆と一緒に焚火の周りに集まってきていた。
ルシエルは未だに両手にお芋を握ったまま、嘆いている。
「畜生!! 芋を蒸かすってどうすりゃいいんだ!! 煮るか焼くならできるが、このオレがそんな事をできるのかってんだ!! ちきしょーーう!!」
ルキアがゴソゴソと荷物を漁って、小さな鍋を取り出す。それに水を浅く入れて、ついでにその辺で手に入れた枝を折って、鍋の底に組み重ねた。
「ルシエル。ここにそのお芋さんを入れてください。それで蓋をして、火にかけて蒸します。それで気を付けなくてはいけないのは、弱火でですよ」
「ほう、それで芋が蒸せるとな。流石はアテナの一番の子分だな」
「子分じゃなくて、弟子ですよ」
「違うわよ。ルキアは私の可愛い妹よ」
思わずそう言ってしまった後、あえてルキアの顔を見ずに、ノエルから受け取った鳥をまな板に乗せた。
だって、ルキアの物凄い私を見る目がキラキラして眩しかったから。あと、そんな瞳をウルウルさせているルキアと私の顔を、何度も交互に見てくるルシエルが面倒くさそうだったから。
「さあ、ここからが見せ場よ!」
ルシエルとルキアとマリン、そしてクロエまでが身を乗り出してきた。
鳥のお腹に包丁を入れる。スパリと切れたら、慎重に鳥のお腹に指を滑り込ませて内臓を取り出す。この時に、腸を破いてしまわないように――心配なら肛門ごと取り除く。
そして私も狩人じゃないから、そこまでは見る目はないかもしれないけれど……この肉が絶品なのは、直感でなんとなく解る。
心臓と肝臓をそれぞれ並べて、お手頃なサイズにカット。
「ノエル、フライパンとってくれない?」
「お、おう」
フライパンに、瓶に詰めたオリーブオイルを垂らして、隠し持っていたガーリックを入れて火にかけて炙る。そこへカットした心臓と肝臓を乗せて、さっと焼く。
内臓だからもちろん火は通すけれど、だからといって、あまりこんがりと焼き上げないのがポイント。
ジュジューーーッ
そこに塩と胡椒、粉末にしたパセリをふりかけてできあがり。調理している焚火の周りを、悪魔的な食欲を誘うニオイが充満する。
ルシエルが叫び、皆も群がってくる。
「うおおおお!! 腹減ったああああ!! それ、もう食えるんか!! 食えるんなら、じらさないで早く食べさせておくんなましよーー!!」
「ルシエル、あんた……どんどん私のエルフのイメージから、遠くなっていっちゃうよ。まあ、いいけど。はい、どうぞ!」
「うおおーーーキタキタキター!! 待ってました!! こら、ノエル、マリン!! まずはオレが味見するんだぞ!!」
「ふざけるな!! そう言ってお前は、独り占めする気だな!! あたしは、騙されねーぞ!!」
「いや、ここはまずは肝臓&心臓ソムリエのボクから味見をしよう。あれ? 言ってなかった? ボクは肝臓&心臓ソムリエなんだ。そして一口じゃきっと解らないから、二口三口と食べ続けると予告しておくよ」
「こらーー!! おめーーら、離れろおおお!! あと、そんなソムリエとか聞いた事ねーかんな!!」
貪欲な3人を見て、呆気にとられているルキアとクロエ。
「安心して二人共……ってカルビもだね。鳥はもう1羽あるし、直ぐに次のを焼くから。それにこれはまだ前菜だからね」
「ぜ、前菜ですか……」
「アテナは、とってもお料理上手なんだよ」
まるで自分自身の自慢をしているかのように、クロエにそう言うルキア。微笑ましい2人。それに比べてあの3人は……
「うまい! これは絶品だね。とても美味しいよ。肝臓や心臓はとても栄養があるけれど、見た目がグロテスクだろ。でも見てくれ。パクリ……モグモグモグ……ゴクン! うん、美味だね。味だけでなく、見た目も匂いもとても美味しい。これはいいものだ」
「こんらーー!! マリン!! 一番食べてるな、見てたぞ!! こりゃぜんぶ、オレんだからな! よせ、もう食うな、なくなっちまうだろがー!! よこせー、バクリッ! モッチャモッチャ……美味い!」
「むっぐむっぐむっぐ……ごくんっ! お前が喰うのをやめろ! ルシエルはいつも食い意地が張っている! たまには他の者に……つまりあたしに肉をゆずれ!!」
「肉じゃないですーう! これはホルモンですーう! だからノエルには、あげませーーん」
「てめええ!! この野郎、お仕置きしてやる!!」
「はいはいはい、こら!! ノエルとルシエルも、食事の時に暴れないで!! 心配しなくても、まだまだあるから。ルシエル、私が獲ってきた野草とキノコ、こっちにくれる?」
「もっぐもっぐもっぐ、ごくん! うむ、りょーかい!」
それでスープを作る。鳥ガラも手に入れたし、これを使用すればとても美味しい濃厚なスープができあがる。
ルキアとクロエ、それにカルビの分の心臓と肝臓のソテーが焼きあがると、彼女達にふるまってお次は砂肝を焼く。同じようにフライパンにオリーブオイルを敷いて。
更に二羽の鳥の皮を剥いでいく。それは、ちょっと大変。
醤油にみりん、砂糖を足して、これも他の調味料と同じく持ち歩いていたものだけど、唐辛子をとりだして刻んで入れる。かき混ぜてタレを作ったら、鳥皮を適当な一口サイズにカットして、その辺でみつけた木の枝で串をつくり突き刺していく。
そして焚火で炙る。すると、ほら。早速もう鳥皮から脂があふれ出してきて、ボタボタと垂れ始めた。鳥皮串。
ジュジュジューーーッ
目が見えなくても、音と匂いで食欲が駆り立てられる。クロエも我慢できなくなってきているようで、なんとなく落ち着きなくなってきてた。
「な、なんですか? この美味しそうな香り」
クロエの質問に、ルキアが答える。
「鳥皮だよ。パリパリに焼く方が美味しいんだよ。ね、アテナ」
「アハハ、必ずしもそうではないとは思うけど、私はそっち派かな。好みは人それぞれだからね」
ルシエル達も、夢中になって食べる。
さあ、メインディッシュを作るよ。
いい感じに蒸かしたお芋さんを、器に入れて塩胡椒、パセリの粉末で味付けする。そして大きめの器に入れて潰す。
ややペースト状にすると、それを内臓を取り出して中が空洞になった鳥の身体の中に、押し入れる。そして食べられる薬草と、木の枝で入口を塞ぐ。
表面には塩と胡椒を満遍なく塗し、お芋さんがしっかりと詰められた鳥ができあがったら、それに拾った長めの木の枝を刺して通すと、焚火にかけた。
メラメラと音を立てる炎が、お芋さんがしこたま詰められた二羽の大きな鳥を、こんがりと焼き上げていく。
その光景に、暫く皆押し黙ってしまう。完成まで生唾を飲み込み、じっと釘付けになっていた。




