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第828話 『おもしろエルフ』



 集めたミルクの実。全て皮を剥いて、用意した鍋の上で割った。するとミルクとしか思えない果汁が、鍋に溜まる。皆でその作業をしたので、作業自体は一瞬で終わった。


 バジャーデビルにミルクをあげるのは、自分達が率先してやりたいと、ルキアとクロエが言ったので任せた。


 ミルクの入った鍋を焚火で、少し温める。人肌ぐらいがモアベター。あと鍋から直接あげるのはちょっとアレなので、スプーンを使った。



「アテナ、ルシエル!! 見てください、この子達、美味しそうに飲んでいますよ!」


「アハハ、くすぐったい。この子、わたしの指も舐めるから」



 和やかな光景に私とルシエルは、微笑んだ。



「クロエの手についたミルクを舐めたんだね。でも気を許していないと、きっとそういう事はしないよ」


「うんうん、そうだそうだ。これでクロエもルキアも、バジャーデビルの立派なお母さんだな」



 バジャーデビルのお母さんと聞いて、目を輝かせる二人。私はルシエルの脇を、指先で突いた。



「おふんっ!」


「変な声を出さない! っていうか、ルシエルが連れて来た子達なんだから、ルシエルがちゃんと面倒みなきゃでしょー!」


「解ってる、解っている」



 心の籠ってないような軽い返事。まったくルシエルはー。


 でもだからといって、このバジャーデビルの子達をパスキア王国、ましてや王都になんてちょっと連れていけないよね。


 既に使い魔として登録されていて、意思疎通もできるカルビは兎も角として……ちょっとどうするか、考えないといけないな。



「さーーってと、それじゃバジャーデビルの面倒はルキアとクロエに任せて、私達は晩御飯に取り掛かりますかね」


「うひょーーー、やったーー、イエーーイ!! もう、ペッコペコだからよ! 沢山作ってくれよな!」


「た……沢山作ってくれって……ぜんぜん手伝う気ないし……」


「手伝うよーー。でもご存じの通りこのルシエルちゃんは、ちょっとお料理スキルはアレだからよ。それに折角いい獲物獲ってきたんだからよ。一番お料理スキル高い人に、調理してもらいてーじゃん!」


「まったくもう、調子いい事言って」



 しょうがない。辺りはもう結構暗くなってきているし、やるしかないですな。


 焚火の前に移動すると、私はノエルとマリンに声をかけた。



「2人は、料理が得意だったりする?」


「あたしは得意だ。だが基本的に焼く事と、煮る事しかできない。手伝うか?」


「ボクも得意だよ。特に盛り付けには定評があるよ。斬ったり焼いたり煮込んだりは、苦手だけどね。でもよく言われるだ。マリンちゃんは、お皿を並べるのは得意だねって」



 2人共、あまり得意ではないな。唯一ノエルが、お肉に塩をまぶしていい感じに焼いたりできるってだけか。ううーーん、でも一人で今から作るとなると、遅くなっちゃうなー。


 ルキアは凄くお手伝いしてくれるし、手先も器用だけど……今は、別の事を頼んでいるし……他に有力な人材がいないか、目を向ける。



 ワウ?



 やだっ!! カルビと目がった。すっごい、つぶらな瞳でこっちを見ている。


 私はカルビに抱き着きにいった。そしてどさくさに紛れて、カルビの頭に顔をすり寄せてニオイを嗅ぐ。スーハー、スーハー。あーーー、癒される。



 ワウワウーー!!


「ごめんね、カルビ! ちょっとこのカルビの可愛い肉球のついた手じゃ、お料理のお手伝いはできないかなー」


 クウーーーン


「手じゃなくて前足だし」



 冷めたノエルの呟いた言葉に、はっと我に返る。二つ咳ばらいをして、カルビの頭をもう一度撫でた後に、私はようやく晩御飯の準備に取り掛かる事にした。


 まず初めに、焚火の火力をあげる。



「ルシエル! 焚火に薪をくべてくれるかな。それとノエルとマリンは、ルシエル達が獲ってきてくれた大きな鳥、それの羽をむしってくれる?」


「それなら得意だ。あたしに任せな」


「え、羽を毟るなんてボクにはできない。それに臭いから嫌だよ」


「やりなさい! じゃないと、マリンの分のご飯は……」


「はい、やりたいと思います」



 2人共、聞き分けが良くてよかった。あれ、そうだ!



「ルシエル、焚火なんだけど、大きめのお鍋に水を入れてほしいんだけど……そう言えば水が……」


「それなら大丈夫だ。さっき、ノエルと狩りに出る時に、その先に小川を見つけたからよ。本当に小さいチョロチョローって流れている川だけど、水も問題なかった。それを汲んでくるよ」


「さっすが、ルシエル。じゃあ、お願いね」



 そう言ってそれぞれに役割を与えると、私は採ってきた薬草を、早速テント近くの木の枝に干した。そしてルシエルが大きな鍋にたっぷりと水を汲んでくると、クロエと採ってきたお芋さんをルシエルに手渡した。



「おおーー!! 芋じゃねーか!! 芋だけに、いいもん採ってきたなー!!」



 死んだ魚のような目になる、私とノエル。だけど1人には大うけ。



「プフーーー! プフーーー! 芋だけにいいもんって……プフーーー!! これは、傑作だよ」



 ルシエルは、マリン1人にウケただけなのに、なぜか鼻の頭を掻いて照れている。そしてなぜか、やりきった感を出している。



「はいはいはい、2人共ちゃんとノエルを見習って手を動かしてね」


「手を動かすって、オレはどうすりゃいいんだ? この芋を両手にもって、マラカスみたいに振ってりゃいいのか。こうやってよ。ウーー、マンボーー!」


「プフーーー、やめて!! プフーーー、プフーーー! 傑作だ、こんな面白いエルフ、ボクは未だかつて目にした事がないよ。でもやめてくれー、笑いで腹がねじ切れる。プフーー!!」


「ヘイヘーーイ、オレっちの芋ダンス、その目にしかと拝ませてやんよ! イッモイッモ、オイモーーサーーン!」



 しーーーーんっ


 急にしらけるマリン。



「これは、気に入らねーのかよっ!!」


「ちょっと、もういいから、食べ物で遊ばないの!! はいはいはい! ルシエルは、そのお芋さん全部、蒸かしてくださーーい! それで、ノエルとマリンはその鳥、全部羽を毟ったら、こっち持ってきてくれる。今、まな板と包丁を用意するから」


「解った。もう、羽を毟り終わるからな。ちょっとだけ待ってろ。って、おい!! バカエルフ!! あたしの尻を触るな!! 今は作業中だぞ、コラ!!」


「こわーーい、ノエルっちこわーーい」



 ノエルが腕を振りかぶって怒ると、怯えてみせるルシエル。まったくもう、なんなのこの子達。


 ……でも楽しい。これから私はパスキア王子との縁談で、そのパスキア王国に向かっている。でもやっぱり改めて思ったけれど、相手がどんな人であれ、私はまだまだ結婚なんて考えられないし望まない。


 だってこんな素敵な仲間との旅や食事、そしてキャンプがとても楽しいから。


 なんか、最終回みたいな感じになっちゃったけど、私達の冒険はまだまだ続くんだからね! 


 フフフ、でもとりあえずは、パスキア王国で縁談を済ませて、ちゃんと断らないとね。


 皆にも、こんな用事につき合わせちゃっているし、そのうち何か埋め合わせしないといけないかな。

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