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第825話 『達をつけるな』



 クランベルト王国からパスキア王国に向けての、長い道のり。

 

 その途中の山中、草木に囲まれた鬱蒼とした場所で、私達はキャンプをする事にした。薪などを調達して、ルキアとマリンの待っているキャンプ場所まで戻ってきた。


 メラメラと燃えて揺れる火と、モクモクと立ち昇る煙。焚火の前にいる可愛い猫耳娘を目で捉えたカルビは、そっちへ吸い寄せられるように走り出した。そしてルキアに、飛びつく。



「きゃっ、カルビ!! 戻ったのね、お帰りなさい」


 ワウーー


「あれ? カルビから何かいい匂いがする。なんだろう、この匂い」



 流石は、獣人。嗅覚も敏感。フフフと笑って、クロエをチョンチョンと突いた。するとクロエは、焚火の音のする方、ルキアのもとに近づいてあるものを手渡した。



「アテナ、クロエもお帰りなさい……え? クロエ、これはもしかして苺? 凄い! 桃色の苺だ!!」


「ル、ルキアにあげようと思って……もちろん、マリンさん達の分もあるわ。だからその……沢山採ってきたのよ」


「うわーー、ありがとうクロエ! それじゃ早速一つ食べていい?」


「ええ、もちろんどうぞ」



 ルキアがクロエからもらったピンク色の野苺を、口に入れようとした。その時、少し離れた場所に設営していたテントの中から、マリンが飛び出してきた。



「ボクも!! ボクも食べたい!! これは極めて重要な情報なんだけど、実はボクは苺も大好きなんだ。だから頂戴!!」



 マリンはそう言うなりルキアにまとわりついて、その手から苺を奪おうとする。慌てるルキアと、大笑いするクロエ。フフフ、やっとああやって自然に笑うようになってくれた。



「ちょ、ちょっとマリン! これは、私がクロエからもらったものなんですよ!!」


「ええいっ、冗談ではない!! 言ったろ、ボクはフルーティーなものには目がないんだよ。それとあと、お肉もね!」


「っもう、マリン! 駄目ですよ! 離れてください!! きゃああ!」


「アハハ、大丈夫ですよマリンさん。沢山採ってきたから、マリンさんの分もありますし、ルシエルさんやノエルさんの分だってあるんですよ」


「え? 本当。なら、ルキアのは奪わなくてもいいか」


「いいかって、駄目ですよ。これは私がクロエからもらったものなんですから」



 クロエもすっかり打ち解けている。コナリーさんや皆と、ブレッドの街近くの泉でキャンプしていた時よりも、更に柔らかく見える。


 クロエとルキアとカルビとマリン。4人で楽しそうにワイワイとしている光景を横目にしながら、私は焚火の前に座った。自然と微笑んでいる自分に気づく。


 集めてきた薪を焚火の近くに置くと、お芋や野苺、そして薬草採取のついでに集めてきた食用にできる野草やキノコも、ザックから出して並べた。



「うん、いいんじゃない。これだけあれば、まあ超ヘルシー料理にはなるけれど、もしもルシエル達が獲物を調達できなかったとしても、お腹を満たす事はできるわね! フフン」



 あれ? お腹を満たす? そう言えば……


 ある事に気づく。そして、楽し気にワイワイとやっている4人に向かって言った。



「そう言えば、バジャーデビルの赤ちゃんだけど!」



 マリンが言った。



「え? テントの中にいるよ。ルシエルの方のテント。その中で、今は3匹とも気持ちよさそうに眠っている」


「え? 眠っているんだ。でも、それは兎も角……バジャーデビルの赤ちゃんにも何か食べる物が必要だよね」


「それなら、水はさっき飲ませたよ」


「水だけって……ちゃんとエネルギーになるものも、食べさせないといけないでしょ」



 そう言うとマリンは、おもむろに立ち上がり、私とクロエが集めてきた食料を物色し始めた。そしてキノコに目をつけて、それを摘まみ上げると呟いた。



「ひょっとして……」


「キノコは食べないでしょ!」



 言い終える前に突っ込んだ。舌を出して、明らかに慣れていないおかしなウインクをするマリン。なんだかなー。


 ふう。さて、どうしようか……


 ルキアが、困った表情をする。



「そう言えば、バジャーデビルの赤ちゃん……ロンダリ村でミルクをあげてから、それから水しか飲んでいませんね。本当はミルクをあげたいんですけど、このままじゃ餓死しちゃうからって、馬車で移動している最中に、ルシエルが干し肉をあげようとしていたけど……ニオイを嗅ぐだけで食べなかった……」


「そうなんだ。じゃあやっぱり……」



 ルシエルの話では、この子達の両親である2匹のバジャーデビルは、ロンダリ村の人達やその周辺を通る旅人を襲っては食べていた。この子達もその親に、肉をもらって食べていたのかもしれないとも思っていた。


 昔師匠が言っていたけど、一度人の肉を喰らった魔物は、とても危険で恐ろしい魔物になるって言っていたから。人間の味を覚えると、人間の事を獲物として見るからとも。


 だから少し、その事が気になっていた。だけどこの3匹のバジャーデビルは、干し肉を食べなかった所からしても、まだお肉とかそういうのは食べていたとしても、それ程食べ慣れてはいないのかもしれない。


 なんだかそう考えるとホッとした。でもホッとしたのと同時に、こんな山奥でどうやってバジャーデビルが飲むミルクを手に入れるか……それに悩む。


 どうしよう。ルキアは、ミルクをあげたいみたいだけど、駄目ならやっぱり何かを狩ってお肉を与えるしかない。


 ルキアも心配そうな顔で呟いた。



「あの子たちのご飯……ミルクが必要ですよね。どうしましょうか?」


「うーーん、どうしようか。この辺り、よく知らないからなー。ロンダリ村のような村があって、家畜がいればミルクを分けてもらえるかもしれないけれど。うーーん、でも国境近くって、結構村があったりするからひょっとすると……」


「ミルクがない? なら、搾り出せばいいじゃねーか!」



 唐突な声に振り向く。するとそこには、ルシエルとノエルが立っていた。そう、今のはルシエルの声。



「2人ともお帰りなさい」


「ミルクならあんだろ? 搾り出せばいいじゃねーか! な」


「搾り出せばいいじゃねーかって、何処に牛とか山羊とかいるのよ。何から絞り出すっていうのよ。ねえ、ルキア」


「え? あっ、はい」


「おいおいおい、そんな立派なもん持ってんだから、気づかない訳ないだろ。それだよ、それ。オレ達より立派なもんが、くっついてんだからよー!」



 ノエルがムっとする。



「達をつけるな、達を!」



 そしてルシエルは、まるで親の仇でも見ているかのような目で私を睨みつつ、目線を私の胸に落として鷲掴みにした。



「きゃああっ!! ちょっと、何すんのよおーー!!」



 ルシエルの腕を掴んで、背負い投げた。



「ぎょええ!! いてて、なにすんだよー」


「なにすんだよって、あんたがなにすんだよ!!」


「だって、アテナはオレ達の中で一番おっきいパイパイしてんじゃん」



 ノエルがムッとする。



「達をつけるな、達を!」


「あのね、大きいからって、子供ができないとお乳が出ないでしょ!! 出るなら、バジャーデビルの赤ちゃんに、もうあげてるわよ!! まったく、もう!!


「だって、オレ達と違って大きいからさー。ついオラそのアテナの胸を見て、卑屈になっちまってー」



 悲し気に呟くルシエル。そしてノエルは、ムッとする。



「達をつけるな、達を!」



 本っ当に、もう、ルシエルは! 兎に角、バジャーデビルの赤ちゃんのご飯、何とかしないといけないなと頭を巡らせた。

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