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第823話 『クロエとどきどき採取 その4』



 背負っていたザックを下ろすと、その中から更にザックを取り出した。何かあった時の為の、予備のザック。それを私はいつも自分のザックに、忍ばせてある。


 安くて軽くて丈夫で、沢山物を入れておけるもの。それでいて尚且つ、コンパクトな感じで嵩張らないもの。


 そんなザック、見つけるとなると難しいけど、稀にそういうのを何処かの街の店で見つけて購入する。因みに今持っているのは、エスカルテの街の、ミャオの店で購入したものなんだけど。


 それをクロエに手渡した。薪拾いをしている最中に、こんな鬱蒼とした草木が生い茂る場所でと思ったけれど、思いついたら直ぐに行動したいと思うのも、私のいいところ。フフフ。


 いきなりザックを手渡されたクロエは、明らかに戸惑っていた。



「あ、あのこれは……これは何ですか?」


「フフフ、なんでしょう? ヒント、その1。ここでお芋さんや、薪を集めた訳だけど、それを手で持って帰るのは、ちょっと大変だよね」



 クロエは手に持たされたザックを、両手で触ってそれが何か確かめる。今までの行動範囲は、自分の部屋位だという。だけど、凄く狭い世界にいたものの、そういう生活にも慣れている。


 そしてこの子は、雰囲気や場の感じで、その場の状況なども読み取ったりできる非常に感のいい子だ。だから、すぐに手渡したものが何か、気づいたようだった。



「こ、これ! これはもしかして、ザックですか?」


「正解! あちゃー、ヒント1で解っちゃったかー」



 上品に手を口に当てて笑うクロエ。フフフ、結構ウケた。



「で、でもなぜ、アテナさんのザックを私に? それに中身が入っていない」


「そう、何も入っていない。なぜなら、これは、私のザックに入っていた予備のザックだから。つまり、サプライズ!」


「え? え? そ、そんな、サプライズって、頂いてもいいんですか?」


「うん、どうぞ。これは、クロエにプレゼントするから、早速使ってみて。でもほらこれ、袋。お芋さんは土がついているから、そのままザックに放り込むと汚れちゃうでしょ。だからお芋さんの土を払った後、この袋に入れてから、ザックに入れるといいよ」



 そう言って丁度いい大きさの使い勝手のいい麻袋を何枚か、クロエに渡した。エヘヘ、これも実はミャオのお店で買ったもの。


 一見ミャオは、お金に対してがめついように見えるけど、実際はがめつい。


 ……がめんついんかいっ!!


 だけど、いいものを売ってくれるし、安くもしてくれる。


 まあ、何が言いたいのかっていうと、ミャオのお店は、とてもいいからそこで大抵の物を買っちゃうんだよね。うん、エルカルテの街に寄る度に、必ず何か買いに行っている気がする。


 クロエは、戸惑った声で言った。



「え? え? でも、これ……わたしに……そ、そんな。本当にいいんですか?」


「え? もしかして、いらない? あった方が便利だと思うけれど。だってクロエ、勢いでブレッドの街から出てきちゃった感じだから、その手に持っている杖と、服とか今身に着けているものしかないでしょ」


「でも、こんなものを頂いてもわたし……わたし、アテナさんにどうやってお返しすればいいのか……知っての通り、わたしの家は貧乏ですし……」



 私はアハハと笑うと、クロエの髪を優しく撫でた。目が見えていなというのは、解っている。だけどクロエは、私の方を振り向いてしっかりと目を合わせた。その眼には、戸惑いや困惑のようなものが写って見える。



「言ったでしょ。これはプレゼントだって。プレゼントっていうのは、何も損得だけでするものじゃないのよ。因みに私は、クロエともっと仲を深めたいと思ったから、プレゼントしたいと思ったの。だからむしろ、私の方がクロエにこれを受け取って欲しいかな」


「そ、そんな。でもこれ、とてもいいものじゃ」


「うん、いいものだよ。クロエも会ったから知っているでしょ。ミャオ・シルバーバイン。彼女のお店で買ったザックなんだよ、それ。丈夫だし、ポケットも沢山ついてて使い勝手もいいし。まあ、一応冒険者で一流のキャンパーであるこの私がいうから間違いないけど、旅や冒険には必需品だから。ほら、背負ってみて」



 クロエが持っていたお芋をその場に置かせて、ザックを背負わせてみた。うん、似合う。っていうか、超可愛い。



「ど、どうですか?」


「っちょーー、似合う!! 凄く似合うよ、クロエ。そして断言します! クロエは、猛烈に可愛いです!」


「え? そ、そんな……」


 ワウワウワウッ!!



 飛び跳ねて、私に同意している事をアピールするカルビ。



「アテナさん、グーレス。ありがとう。それじゃあ、本当にこのザックを頂いても?」


「いいんです! どうぞ、使って!」



 クロエはやっと、私があげたザックを抱きしめて、凄く嬉しそうにした。


 ザックひとつでこんなに喜んでくれるなんて……なんて、いい子なんだろう、この子は。って思っていると、唐突に突き刺さるような視線を感じた。


 ふとその方へと目をやると、さっきまで飛び跳ねていたカルビが、じっと私の方を見つめている。ヤダ、超見てるんだけど!! キラキラの眼で、チョーー見てるんだけど!!


 フフフ、大丈夫。カルビもクロエと同じくらいに可愛いから!


 心の中で、そうカルビに伝えつつウインクすると、カルビはビクっとした。

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