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第821話 『クロエとどきどき採取 その2』



 ここは、クランベルト王国からパスキア王国に向かう途中の山の中。


 まもなく陽がくれる。馬車で山道を進んでいた私達は、薪集めと食料調達の為にキャンプをする事にした。そうこの、緑豊富な山の中で。


 それでルシエルとノエルは、早速食料調達……もとい肉の調達に、弓を手に勇ましくも山の中に消えていった。まあ、ルシエルとノエルのコンビなら、大丈夫だよね。大物を仕留められるかどうかは、はっきり言って巡り合わせだから解らないけれど、なんらしかの肉は調達してくるはず。


 って前回は、3匹のバジャーデビルの赤ちゃんを連れて帰ってきちゃったんだけどね。あはは……いつもルシエルは、私の想像の斜め上を行くから予想ができないない。


 そんな訳で、食料調達は2人に任せ、キャンプ設営の方もルキアとマリンに任せて、私とクロエとカルビは、仲良く3人で薪拾いに緑が豊富にある山の中を散策がてらに出かけていた。


 草木が生い茂る中、クロエの手を引いて歩き、その周りをちょろちょろとカルビがついて歩く。


 クロエは目が見えないのに、しっかりと気配で、自分の近くにカルビがいる事も認識していた。だからかもしれないけれど、思ったよりも落ち着いている。



 ガサガサガサガサ……


「アテナさん……」


「なーに?」


「こ、こんな山の中……奥の方まで来て大丈夫なんでしょうか? キャンプからも離れすぎているような気がしますが……」


「そう? そうかな。それじゃ、この辺りで、薪を拾おうか」


「ここは、山の中なんですよね」


「そうね。どちらかというと、鬱蒼としている山の中かな。フフフ、でも大丈夫だよ。私もついているし、カルビもいるものね」


 ワウッ!



 カルビも返事をして見せた。それで、クロエは少し緊張がとけたのか、にこりと笑う。



「で、でも……こんな山の中で、もしも凶暴な魔物が出たらどうしますか? わ、わたし目も見えないし、今までずっと自分のお部屋で暮らしていたから、身体を動かすのも得意じゃないです。恐ろしい魔物が現れたら、きっとわたし……逃げ切る自信がありません」



 私はクロエの方に向きなおして、微笑みかけた。彼女の眼は見えないけれど、代わりにその場の雰囲気や気配などそういうのは、人一倍に感じている。だから私が微笑みかけた事も、彼女には見えなくても感じてくれているはず。



「大丈夫。言ったでしょ、私とカルビがいるから。いざとなったら、カルビがクロエを逃がしてくれるし」


「え? こんな山奥でどうやって……」


「フフフ、カルビって子供のウルフだから、普段はこんな小さいワンちゃんなんだけど、本気を出せば、もっと大きくなれるんだよ」


「え? そんな、嘘でしょ? それは流石にわたしをからかっているとしか……」


「本当だよ。ノクタームエルドにあるドワーフの王国でね、ルキアは王国……ううん、正確には王国ではなくて、王国に住む人たちを守る為に戦ったんだよ。カルビに跨ってね」


「カ、カルビにルキアが……あっ、大きくなったから!」


「そうだよ。それに、ノエルもそうだよ。クロエにとっては思い出したくないかもしれない事だけど、ノエルはゲースからクロエを助け出す為にゲースの屋敷に乗り込んだ。その時に、屋敷の居場所を突き止める為に、カルビに跨ってゲースとクロエが乗っていた馬車の後を追ったんだって」


「そ、そんな。じゃあ本当にカルビは大きくなれるのね」


「だから、そうだって言ってるじゃん。アハハ、これだけ言っても信じないなら、カルビに聞いてみれば。ね、カルビ」


 ワウッ!



 カルビは返事をして、クロエの足もとにまとわりついた。クロエはそんなカルビに手を差し出して、カルビの小さな頭を優しく撫でた。



「凄い凄い、凄いわ、グーレス。グーレスがそんな力を持っていたなんて」


「もともとは持っていなかったんだけど、ドワーフの王国で目覚めちゃったみたい。だから何が言いたいのかって言うと、ここで何かあっても、カルビが必ずクロエを助けてくれるって事かな。その背に乗せてね」



 クロエは、「グーレス」と言ってカルビを抱きしめた。それを見て、クロエは本当にカルビの事が大好きなんだと思った。っていうか、バジャーデビルの赤ちゃんと接している時にも思ったけれど、最初は魔物の赤ちゃんと聞いて恐れていたにしても、今はとても可愛がってよく面倒を見ている。


 クロエは、動物、魔物に至ってもそれが友好的なものなら、大好きなのかもしれない。何を言ってるんだーって思うかもしれないけれど、犬が嫌いな人はいくら優しい犬を目にしても近づかないし、好きにはならなかったりする。動物好きとか動物に好かれるっていうは、しっかりとしたその人の特性だと思う。



「それじゃ、クロエ。この辺で……」



 周囲に生い茂る草々の中で、あるものを見つける。そう、トランプで例えると丁度スペードのような形の葉をした草。その葉を一枚千切ると、クロエに手に取らせた。



「え? これは」


「いいもの見つけちゃったね。じゃあクロエは、この葉っぱがついている草を探してくれるかな? その辺を探せばあちらこちらに群生していると思うから」



 戸惑うクロエ。それもそのはず。



「えっと、私達は薪拾いに来たんじゃないですか?」


「そうだよ、薪拾いに来たんだよ。でも食料調達もしなきゃでしょ。ルシエルとノエルが獲物を探して狩りには行ってくれているけど、100パーセント調達できるかは解らないからね。保険かな。それにちゃんと、野菜も摂取しなきゃだからね」



 野菜と聞いて、クロエがはっとする。



「え? じゃあこの葉っぱは、何か野菜の葉なんですか?」


「フフフ、どうかな? 見つけてほじってみれば、答えが解るかもしれないね」



 そう言って私はカルビに向かってウインクした。するとカルビは、嬉しそうにクロエにまたまとわりついた。


 よし、それじゃ折角だし私も探しちゃおうかな。

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