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第82話 『ホーデン湖 水の悪魔 その1』






 私達は、ホーデン湖の畔にある、アンソンさんの住む小屋に立ち寄った。



「今から準備しちゃるから、その辺の椅子にでも座って待っちょれ」



 私はひとつ、気になっていた事をアンソンさんに聞いてみた。



「そう言えば……アンソンさんは、昨日なぜ私たちのキャンプにいらっしゃったんですか?」


「儂か? 儂はのう……ちょっと今……準備しちょるから……ちょっと待ってくれい」


「そう言えば。テトラは聞いてなかったわね」



 セシリアさんが代わりに話し始めた。



「アンソンさんは、普段ここで生活しているそうよ。必要な物がある時は、昨日みたいに近くの小さな村へ買い出しにいくみたい。それで昨日、村で買い物していると、一人の男が絡んできてしつこく聞かれたそうよ。メイドが二人、ホーデン湖を渡ったかもしれない。その為に手をかしたか? って」


「え? なぜそんなことをアンソンさんに聞いたんですか?」


「アンソンさんが漁師だって知っていたからよ。ホーデン湖唯一の漁師という事をね。ホーデン湖には、昨日聞いたサヒュアッグという魔物が最近沢山たむろしていて、襲われるかもしれないので、漁師は魚を獲る事もできなくなったそうよ。今では、ホーデン湖の漁師はアンソンさん一人。だから、きっとそれで、アンソンに狙いを絞って問いただしてきたのでしょうね」


「でも、そんなのいったい……なぜ聞いてきた人は。私達の事を……いったい何者なんでしょうか?」


「愛の剣士とか、愛の旅人とかなんか、そんなことを言ってたらしいから――」



 はっとした。



「もしかして、アーサー!! アーサーが私達を付け回している⁉」


「私達は彼に、相当気に入られたみたいね。それでアンソンさんは、色々しつこく聞いてくるアーサーから逃げたり、隠れたりしているうちに買い出しが遅くなってしまって、村から家に帰る途中、偶然私達と遭遇したらしいわよ。アーサーからメイド二人って聞いていたから、私達を見つけて気になったってわけね」



 アーサーは、キザな感じで少し苦手だった。だけど、剣の腕前は物凄くてダーケ村ではウェアウルフを2匹も倒して村を救った。


 本人は、旅人って言い張っているけど何者だろう。



「どちらにしても、ストーカーっぽいから、相手にしない方がいいかもしれないわね」


「はい。私もちょっと苦手かなーって」


「よっしゃ!! 準備できよったぞ!! ボート小屋へ行こうかの」



 私達は、アンソンさんの船に乗り込んだ。小さな手漕ぎの船。アンソンさんが不安そうな顔をする。



「本当に、船で渡るのかの? 昨日も言うたがこの湖には、サヒュアッグがおる」


「ええ。一刻を争っているので、お願いします。アンソンさんには、巻き込んでしまって申し訳ないと思っています。それについては、後程必ず十分なお礼をさせて頂きますので」



 セシリアさんが、そういうと、アンソンさんはため息を吐いた。そして、船の底から何やら取り出してセシリアさんに手渡した。



「これは?」


「ボウガンじゃ! 矢もほれ、持つんじゃ。そっちの狐ちゃんは立派な槍を持っているようじゃが、おまえさんはナイフしかもっとらんようじゃ。じゃから、もっちょれ! それでも、無いよりはマシじゃ」


「いいのですか……」


「いい。それと、儂はもうジジイじゃ。十分生きたし死んでもかまわん! 巻き込んだっちゅーても、なんもおもっちょらんで」



 アンソンさん…………


 セシリアさんは、アンソンさんに深々と頭を下げた。そのやり取りを見ていた私も慌てて頭を下げた。




 アンソンさんが船を漕ぐ。私達の乗る船は、湖を北に向けて渡り始めた。


 丁度、湖の十分の1位の位置まで、きたところだった。私の耳が何かを感じ取ってピクピクっと動く。



「何か来る!!」


「サヒュアッグじゃ! サヒュアッグがこの船を襲ってきた!! このまま船を手漕ぎしても何もならん。相手は半魚人じゃ」


「じゃあ、迎え撃ちます!!」



 そう言って私は、槍を構えた。セシリアさんもボウガンを水面に向ける。



 ――――――



 バッシャアアアアン



 湖から、サヒュアッグが飛び出してきた。水しぶきが舞い上がる。しかもその数は1匹2匹では無かった。



 ギイイイイイイ!!



 私は、次々と襲い掛かってきたサヒュアギンを槍で突きさした。セシリアさんもボウガンで応戦している。



「このままじゃ、いかんぞ! 分が悪いわい! 向こう岸には、辿り着けそうにないの!! いった通り、儂は死んでもかまわんがお嬢ちゃん達はまだ若い。その助けてやらにゃならん子も、いるんじゃろ? この場は、一度引いて他の手を考えよう!」



 セシリアさんには、アンソンさんの声が聞こえている。だけど、その声には応答せず、次々と襲い掛かってくるサヒュアッグにボウガンで矢を撃ち込む。



「セシリアさん!! セシリアさん!! 焦る気持ちは私も一緒です!! でも、ここは一度引きましょう。そうしないと、このままじゃやられます! 私達がやられたら、誰がルーニ様を助け出すんですか?」



 セシリアさんは、悔しそうな顔をする。そして、私を見て頷いた。


 刹那、私は背後からサヒュアッグに足を掴まれた。湖の中へ引きづり込まれる。藻掻いて、サヒュアギンを振り払おうとした。だが更に2匹が私に襲い掛かってくる。身体を掴まれ、湖の奥へ奥へ引きずり込まれる。苦しい。息ができない。暴れて抵抗するが、その分、体内の空気を消費している感じがした。


 足を掴んでいるサヒュアッグ目がけて、槍で突く。しかし、水中ではその攻撃は遅くなり、逆に半魚人であるサヒュアッグの動きは素早くなる。槍などは、簡単に避けられどうにもならない。


 サヒュアッグは、笑っているようだった。


 肉を裂く爪も、息の根を止める牙も持っているのに、使わないのはじわじわと私を苦しめて窒息させる為だと思った。


 遠くのほうで、セシリアさんが何度も私の名前を呼ぶ声が聞こえた。


 私は、不思議と恐怖は感じなかった。湖の中は、とても澄んでいて綺麗だった。







――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇サヒュアッグ 種別:魔物

半魚人の魔物。水辺やその近くの洞窟などに生息する。手には銛や、それに近い槍などを武器として持っている事が多く、性格は至って好戦的。牙や爪も危険。群れで行動する場合が多く、人間のみならず他の魔物を襲って食べる事もする。当然、泳ぎは上手い。


〇ボウガン 種別:武器

矢セットし、飛ばす武器。弓と違って弦を引かなくても、矢さえセットしていれば引き金を引きだけで瞬時に矢を射る事ができる。猟というよりは、戦に向いている。アンソンがこのボウガンを持っていた大きな理由は、護身用だった。


〇小さな手漕ぎ船 種別:乗り物

アンソンがホーデン湖で漁をする時に使用している小さな船。調子の良いときは、この船いっぱいに魚と貝が積まれる。そんな日は、もちろんアンソンは魚や貝を売ったお金で酒場へ飲みにいく。お酒はいいよ、んーんーんー。

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