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第817話 『アバン・ベルティエ その2』



 メイベルは申し訳なさそうに、私とシェルミーに向かって囁いた。



「も、申し訳ないでやんす。あっしとした事が……つい感情的に……」


「大丈夫。問題ない」



 メイベルの肩を、軽くポンと叩いた。


 いつも沈着冷静、喋り口調もそうだが、相方のディストルとは違い、いつも温厚なメイベル。その彼女が、一瞬とはいえあんな殺気を放つとは思わなかった。彼女もそのことについては、反省しているみたいだしもういいのだが……


 今度はシェルミーがアバン・ベルティエに問いかけた。



「それじゃ、とりあえずこれからベルティエ氏にいくつか聞きたいことがあるので、それを……」


「まーーーって、まってまってまーーーって! 駄目よ、そんなの駄目!」


「え? でも私達が怪しい者でないという事は今、メイベルがコルネウス執政官からの手紙を見せた事で……」


「それはそれ。これはこれでしょー。コルネウス・ベフォンの使いか、知り合いかそれはどうだっていいんだけど、とりあえず彼の知り合いなら、会って話を聞いてみるだけでもいいわって思って、あってみただけよ。暇つぶし。単なる、これはアチシの暇つぶしよ」


「なっ……そんなの」



 暇つぶしと言われて、立ち上がりそうになったのを、今度はメイベルとシェルミーに抑えられる。この男……私達に真摯に協力すると見せかけて、本当はからかっているのか⁉

 

 しかし最初に警戒して呼び出した私兵を、今はこうして引き下がらせている。それは私達の事をある程度は、信用してくれているという事だし、彼のいうように単なる暇つぶしであっても、話を聞くつもりがあるようなのは確かだ。


 アバン・ベルティエは、私達の方を見ていたが、いつしかその目は自分の指、小指の爪が気になっているのかそちらを気にし始めた。でも耳は、こちらへ向いている。



「アチシさー、そもそも嫌いなのよねー。コルネウス・ベフォンもビルグリーノもさ。顔は、ビルグリーノはタイプよ。シブくてね。若いピチピチの子もいいけど、ああいうワイルドなタイプもたまらないわ。だけど、アチシ騙されないわよ。あの手の男は、危ないのよねー。第一、信用できないわよ。もしもあの極道コンビに手を貸してというなら、帰ってちょーだい」



 シェルミーと顔を合わせる。メイベルが言った。



「以前は、たしかにコルネリウス執政官も評判はよくありやせんでしたが、今はこの国を立て直す為に、何より他の殺害された執政官の為にも国の復旧に尽くされていやす。ビルグリーノも過去には、盗賊をやっていて半グレでやしたが、今はもう会心してレジスタンスでやんすよ。文字通り、国の……何よりこのメルクトの民の為に戦っているんでござんす」


「フーー、どうだか。それが一番怪しいのよね。兎に角、アチシはあの二人がかかわっているなら手は貸さないし、かかわっているあなた達にも、もうこれ以上は関わらない事にするわ。あなたもビルグリーノとお友達っていうのなら、知っているんじゃないの。これまでに彼が何をしてきたか」



 アバン・ベルティエ。この男は、コルネウス執政官とビルグリーノの事をよく知っている。そして彼らの事を、良くは思ってはいない。


 テトラの話では、コルネウス執政官についてもそのビルグリーノについても特になにも言ってなかった。口ぶりからして、まともな者達に見えたようだけれど。少なくともアバン・ベルティエにとっては、有効な相手ではないという事か。


 困った。こうなってしまったら、これ以上この男から情報を引き出す事もできないだろうし、彼が『狼』かどうかなんて探るなんて事は、もっと不可能だろう。


 こなってしまったら、出直すか。他の十三商人に接触して調査し、アバン・ベルティエは最後の最後にまわす。


 アバン・ベルティエが私達と取り次がなくても、他の十三商人がはっきりと白と確定した場合は、この男が『狼』と断定できる。



「ビルグリーノって事は、あの女狐もいるんでしょ?」


「女狐っていうのは?」


「マルゼレータよ、マルゼレータ。あの色気ムンムンの下品な女、アチシ一番嫌いなのよね」



 マルゼレータという女の話も、テトラから聞いた。


 確か、『レイザーワルツ』という……身に着けているスカートの裾に、鋭利なカミソリを仕込んで、まるでダンスを踊るかのように相手を攻撃するという珍しい戦闘スタイルの使い手がビルグリーノの一団にいたと。



「まあ、そういう事よ。でも折角、この私を頼ってわざわざここまで来てくれた訳だし。仕方ないから、いいものをあげるわ。これをあげるから、満足して帰りなさい」



 アバン・ベルティエはそう言って、小さな革袋を人数分テーブルに置いた。私はそれが何かと手に取ると、中のものを掌に出してみた。すると革袋から、眩いばかりの綺麗な輝きを放つ石が顔を出す。



「これは……」


「ウフ、綺麗でしょ。宝石よ。宝石商のもとを訪ねて、お土産で宝石をもらうなんて気が利いているでしょ。少しこぶりだけど、全部本物よ。売ってもそれなりのお金にはなるけど、宝石は金や銀、魔石と同じでその価値もその時その時で変動するから、自分でしっかりと調べてみると面白いわよ。それじゃ、アチシはここで失礼するわ」



 ここまでか!


 そう思った所で、シェルミーが立ち去ろうとするアバン・ベルティエに声をかけて引き留めた。



「私はレジスタンスだけど、コルネウス執政官やビルグリーノの一団とは違うわ」


「へえ、どう違うっていうのかしら? それって、面白い答えが用意されているのかしらー?」


「ええ、そうよ。とっても面白い。好奇心旺盛なあなたにとっても、きっと満足する答えが用意されているわ」


「へえ、それで?」


「私は、コルネウス執政官とビルグリーノとは関係はない。この国を立て直すには、生き残っている唯一の執政官であるコルネウス・ベフォンの存在は不可欠だとは思うけれど、でもそれは別の誰かが彼の手助けをする。私は、この国を救う為に遥々ガンロック王国からやってきたレジスタンス。この国を乗っ取ろうとしている、『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』を倒しにこのリベラルに来たのよ」


「ふーーん、そうなの」


「そうよ。この国を乗っ取ろうとして裏で糸を引いているのは、『闇夜の群狼』の幹部だという事は既に解っている。そしてその幹部が、あなた達リベラル十三商人の誰かって事もね」


「……それはリッカーから教えてもらった情報なのかしらん?」


「それはどうかな? 続きが聞きたければ、ここから少し私とサシで話をしない?」


「いいえ、もういいわ。それじゃ、アチシは失礼するわ。あなた達は、ゆっくりその紅茶を飲んで、好きなだけくつろいだ後に帰ればいいわ。それじゃね」



 アバン・ベルティエは、そう言って振り返ると執事を呼んだ。そして後の事を任せて応接室を出ようとした。

 

 これ以上は流石に無理だろう。私とメイベルは、溜息をついた。しかしシェルミーは、再びアバン・ベルティエの肩を強引に掴んで呼び止めた。



「手を放して。人を呼ぶわよ」


「どうぞ。でもそうすると、後悔するわよ。先に私の話をちゃんと聞いた方がいい」



 シェルミーはそう言って、ニヤリと不適に笑った。

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