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第816話 『アバン・ベルティエ その1』



 応接室に向かう途中の廊下には、色々な宝石が飾られていた。


 こういう屋敷では、花瓶に生けられた花や、骨董品などを目にする事はよくあるが、これほど宝石ばかり飾られていて目にするのは、初めてだった。


 我らがクランベルト王国の王宮内でも、これほど宝石が陳列してある場所なんて、宝物庫位のものだろう。


 しかもここは、リベラル十三商人が一人、宝石商アバン・ベルティエの屋敷。わざわざこうやって飾っているのだから、最低でも私の想像の10倍はする値打ちのするものなのだろう。



「こちらでございます。お入りくださいませ」


「ありがとう。失礼する」



 執事の案内で、私とシェルミーとメイベルの3人は、応接室へと入った。


 中へ入ると、髪と髭をクルっとカールさせた男がソファーに座っていた。男は私達を見るなり、立ち上がりソファーに座るように言った。



「あらん。いらっしゃい、随分と可愛らしいお客さんね。アチシがこの屋敷の主であり、リベラルでも超有名な宝石商のアラン・ベルティエよん。よろしく」



 アラン・ベルティエはそう言って、一回クネクネっと身体を動かすと、片手を差し出してきた。


 私は男なのに随分と女のような口調を使うものだから、一瞬呆気にとられてしまった。するとシェルミーとメイベルが、直ぐに挨拶をした。



「私はシェルミーと申します。ここにはもちろん用があってきました。早速ですが、ベルティエ氏にいくつかご質問したいのですが、よろしいでしょうか」


「ふう……その前に、見せるもの見せてもらおうかしらん。って言っても、何もいきなりあなたのお胸やお股を見せてーって言っている訳じゃないのよ。オーーホッホッホって失礼。あらん、ちょっとアチシ、今のは下卑てたわね。ごめんなさーいね」



 憎めない…男のような気もするが……でも油断は禁物だ。この男が、『狼』でない可能性はゼロではない。それにそうでなくても、『狼』との関係を持つ者である可能性だってある。



「これは失礼しやした。あっしは、メイベル・ストーリ。Aランク冒険者で、門番の方には伝えやしたが、ここへはコルネウス執政官の使いできやした」


「あらん。へえ、そうなのん。それじゃ、それを証明するものを見せてみて。今すぐよ」



 アバン・ベルティエがそう言ったのと同時に、応接室の中へ武装した男達が入ってきた。剣や鎧には、宝石が施されているが、これはアバン・ベルティエの趣味。この者達は、彼の私兵なのだろう。


 つまり、私達が嘘偽りをもってこの屋敷に入り込んだのだとしたら、即座にこの私兵によって捕らえられるという事か。まあ、リベラル最高権力者の一人であれば、とうぜんの対応だろう。


 メイベルが懐に手を伸ばすと、私兵の一人がアバン・ベルティエの前に出た。


 武器を取り出す事を予想しての行動である事は見て取れる。しかしメイベルは、特に挙動不審な行動はとらずに、毅然として懐から手紙を取り出すと、それをアバン・ベルティエに手渡した。

 

 彼はそれを受け取ると、すらすらと目を通してまたその手紙をメイベルに返した。



「ふう、どうやら本物ね。コルネウス執政官の手紙も、あなたたちも。それじゃあなた達、もう行っていいわよ。ご苦労様」



 アバン・ベルティはそう言って自分の私兵に対して、手で追い払うかのようなしぐさをしてみせた。すると私兵は、ぞろぞろと応接室から出て行って、私達の目の前から姿を消した。


 部屋には代わりにメイドが入ってくると、運んできた紅茶を私達の目の前に置いた。



「どうぞ、召し上がって。毒なんて入ってないわよ。安心して飲んでちょーだい」


「では、遠慮なく頂こう」



 紅茶に注がれたカップを手に取り、一口飲むとアバン・ベルティエは再び話し始めた。



「っていうか、あの男……コルネリウス・ベフォン。他の執政官は賊に殺害されて、あの男は助かったって聞いたけど、本当に生きていたのね。ひょっとして、ビルグリーノも一緒にいるんじゃないかしら。あのチンピラ極道コンビ、きっとろくな死に方はしないと思っていたけれど、まさか『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』の暗殺者に狙われても生きていたとはね」



 極道コンビ? テトラやセシリアからビルグリーノという男の話は詳しく聞いているが……確か、もと盗賊団だった男。でも今は、レジスタンスとして活動している。


 メイベルやディストルとは顔なじみで、テトラ達と共に行動し、トリケット村とモロロント山で盗賊団からコルネウス執政官を助け出した。


 そのビルグリーノと、コルネウス執政官がチンピラ極道コンビとは、いったいどういう事なのだろうか。


 それとアバン・ベルティエは、『闇夜の群狼』という犯罪組織の事も知ってた……だが、リベラル十三商人という地位にいる者なら、それについては別に知っていてもなんら不思議ではないか。


 メイベルが口を挟む。



「コルネウス・ベフォン氏は、いまやこの国の執政官でござんす。そして今は、ビルグリーノと共に、この国を脅かしている盗賊達を討伐し、この国の平和を取り戻そうとしている偉大な方でやすよ。あまり、そういう言い方は、お控えくだせえ。ビルグリーノも昔は、盗賊団の頭領でやしたが今は会心してレジスタンスとして行動し、この国にその命を捧げているのでござんす」


「ふーん、あらん、そうなの。それはごめんなさいね。そういえば、あなたはAランク冒険者だって言っていたわよね? なら、そのあなたが言う位なら、ビルグリーノは本当に心を入れ替えたのかもしれないわね。でもコルネウス・ベフォン……はっきりいって、あの男はクズよ」



 メイベルの顔つきが変わった。私とシェルミーは、それに気づいて何かあれば直ぐに彼女を止めれるように身構えた。


 相方のディストルとは、対照的な性格を持つ沈着冷静なメイベル。慕っているコルネウス執政官と、友人のビルグリーノを罵られて少し感情的になったのだと理解はしている……が、一瞬見せた彼女の眼は、少なくとも私は殺気に似たものを感じた。

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