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第811話 『袋小路 その1』


 出来れば1対2で決着を……いや、1対1で決着をつけたかった。リーティック村での借りを返したかっただけに、勝ちはしたものの不本意な結果になってしまった。


 だが、あのドルガンド帝国兵士を見逃すわけには行かなかった。直ぐに追いかけないと。私は、シェルミーとソアラの顔を見た。



「追いかけよう! 今からなら直ぐに終える!」


「解った。でも、あの倒れている刺客はどうするの?」



 どうもなにも、置いていくしかない。あのドルガンド帝国兵士を捕まえる事が、今の最優先事項だ。


 それにシェルミーを、1人ここに置いていけない。逃げたドルガンド帝国兵士には、まだローグウォリアーがついている。一人で追いかけても、相手が2人となれば取り逃がす可能性を否定できない。


 そいつは、放っておいていい。そう言おうとした時、ソアラとハムレットが、倒れているビーストウォリアーに近づいて言った。



「この人、とどめを刺してもいいんだよね。それなら、ソアラ達がやっておくけど」



 とどめを……殺すという事か。だがこいつは、『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』の刺客。


 『闇夜の群狼』の中でも、暗殺を生業としている暗部の人間。ここで判断をミスすると、また誰かが殺されるかもしれない。


 私はソアラに頷いてみせた。



「亡骸はそのままにしておいてくれ。そいつの顔を一応、確かめておきたい」


「はいはーい。それじゃ、ここはソアラとソアラの可愛い妹のハムレットに任せていってらっしゃい。約束を忘れないでね」



 ソアラはシェルミーにウインクすると、ジャマハダルを倒れているビーストウォリアーに向けた。



「特別な恨みはないし、ソアラの盗賊団はよっぽどの事でもないと、殺しはしない主義なんだけど……でもソアラ達以上の悪党には、例外ね」



 ソアラは沢山の野次馬が集まるこの通りのど真ん中で、微塵も躊躇うことなく、倒れているビーストウォリアーに向かってジャマハダルで突いた。


 しかしジャマハダルの切っ先が、ビーストウォリアーの左胸を突き刺す手前で止まる。私とシェルミーが斬り倒したはずのビーストウォリアーが、起き上がってソアラの腕を掴んでいた。


 シェルミーが驚きの声を漏らす。



「う、うそでしょ……まともに私とローザの技を浴びたのに……」


「いやー、アッハッハ!! 流石は十三商人の一人と名乗って威張っているだけの事はある。アーマー屋ダニエル・コマネフのアーマーは確かに大したものだよ」



 ビーストウォリアーはそう言って、ボロボロのローブの下に着ている服を、更にめくった。その下に身に着けているアーマーを、これ見よがしにみせる。



「いいか、殺すというのはな。殺されてもいいって事だ。だからもちろんお前らは、その覚悟はできているんだろうな。私? 私はできている。暗殺を専門としているからな」


「ソアラ!! そいつから一旦離れろ!!」


「言われなくても解っているわ。それより、ここはソアラに任せて早くあの男を追ったらどうなの?」



 その通りだ。

 

 ビーストウォリアーは、ソアラの胸倉を掴むと、力任せに地面に彼女を叩きつける。その勢いで起き上がると、向かって来るハムレットの鞭を手で掴んで強引に引っ張った。



「きゃあああ!!」


 ドドーーーンッ



 通りの端に積み上げられた木箱の山に、ハムレットは頭から突っ込んだ。



「こっちです!! シェルミー様!!」



 向こうで手招きする、黒いターバンの男。シェルミーの護衛だった。



「ローザ、ドルガンド帝国兵士とローグウォリアーは、私の護衛が追跡してる。だから急ごう!!」


「くっ!! 仕方がない、解った!!」


「逃がさんぞ、ローザ・ディフェイン!! ここで決着をつけようじゃないか!!」



 懲りずに再び襲い掛かってくる、ビーストウォリアー。私とシェルミーは、向かって来る刺客から回れ右すると、手招きするシェルミーの護衛の方へと駆けた。


 周囲の野次馬の間を駆け抜ける。ビーストウォリアーも後を追って来るが、接触する野次馬を突き飛ばしながら迫ってきた。今だかつて、こんなしつこくてパワフルでタフな刺客がいただろうか。



「さあ、こっちです!! 奴はこの先へ逃げ込みましたが、幸い袋小路なので追いつめられます。既に他の者が、追い詰めていると思います」


「そう、やったわね。ありがとう! それじゃ、ローザ!」


「ああ、行くぞ!!」



 後方からビーストウォリアーの雄叫びが聞こえた。迫ってきている。私とシェルミーと護衛の3人で、ドルガンド帝国兵士が逃げ込んだという路地へ駆け込む。


 奥へ奥へと駆けると、路地の所々で倒れている者達を見かける。全員が、黒づくめで頭には黒いターバンを巻いているので、一目見てシェルミーの護衛の者達だと解った。


 きっとドルガンド帝国兵とローグウォリアーを追い詰めて、返り討ちにあったのだろう。見ると、息はあるようだ。あの男を、追い詰めてくれたことに感謝する。


 もうすぐだ!! この先に奴はいる。シェルミーの護衛が協力してくれたお陰もあって、ようやく追いつく事ができた!!


 路地の角を曲がると、その先にドルガンド帝国兵士とローグウォリアーの姿があった。


 ローグウォリアーは、こちらに気づくとドルガンド帝国兵士に何か合図を送る。するとローグウォリアーをその場に残して、更に路地の奥へと逃げて行った。



「おのれ、逃がすか!! 今度は、ローグウォリアーが相手のようだが、瞬殺してやる!!」


「待って、ローザ!!」



 シェルミーとその護衛に止められる。そして護衛が言った。



「焦らなくてもさっき言ったように、この先は袋小路です。ここは、慎重に突破しましょう」


「例え袋小路でも、奴らはこういうのに慣れている。目の前に立ちはだかっている仮面の女は手練れの刺客だし、逃げているドルガンド帝国兵士は間諜の者だ。袋小路で壁に囲まれていても、壁を這い上がるか建物内に侵入するぞ!」



 そう言うと、シェルミーとその護衛は、はっとした顔をした。



「どちらにしても今、目の前にいるのは1人だ。こっちは3人。私が奴を止めるから、2人はドルガンド帝国兵士を追ってくれ!」



 シェルミーと護衛は、頷く。目前のローグウォリアーに向かって、3人同時に突進した。

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