第810話 『3対1』
シェルミーとソアラ、3人で一斉に跳びかかる。しかしビーストウォリアーは、3対1だというのに慌てた様子はない。仮面をつけているので、表情は定かではないが、この状況……戦いを楽しんでいるように思える。
しかも相棒のローグウォリアーとは、対照的で非常に乗りやすい性格のようで、この場に集まっている野次馬が私達の戦いを見て騒ぎ、盛り上がれば盛り上がる程、調子が良くなっているようだった。
「シェルミー、ソアラ!! いくぞ!!」
「シェルミーちゃん、金貨500枚とグランドリベラル宿泊の件、忘れないでね」
「もちろーん! 盗賊団全員はちょっとアレだけど、あなた達三姉妹全員のホテルの部屋を用意するから。その代わり、ちゃんと私達に手を貸してね!」
「本当、やった!! それじゃ、ちゃんと働かないとね。商人の天敵は盗賊っていうけれど、実はその二つには共通しているものもあるのよね。それは、お金大好き。お金の為なら、ソアラ達は頑張っちゃうんだから!!」
3人同時には跳びかかったが、まず最初にビーストウォリアーに届いたのは、ソアラだった。両手に装備した大きな爪のような武器、ジャマハダルの切っ先をビーストウォリアーの胸目掛けて突き出す。
「ジャマハダルか。またこれは面白い武器だな。しかし、私の敵ではない」
ビーストウォリアーは、持っていた斧を力いっぱい振りかぶって、ソアラに投げつける。攻撃するつもりだったソアラは、慌てて突き出したジャマハダルを戻して、目前で交差させると、ビーストウォリアーの投げた斧を受け止めて弾いた。
だがビーストウォリアーの腕力は、凄まじい。まるで大砲の弾が命中したかのような衝撃。飛んできた斧をしっかりと防ぎはできたものの、ソアラは大きな金属音と共に後方へ吹き飛んだ。
「きゃあああっ!!」
「はっはーー!! もっと食べたほうがいいな。そんなか細い身体では、とてもこの私とやり合えんぞ!!」
確かにとんでもないパワー。ひょっとしたら、ディストルやエイティーンを超えるかもしれない。
しかし、斧を投げてしまった今、剣術使いの私達2人を素手で相手にしなくてはならなくなったはず。私の剣、そしてシェルミーの三日月刀が左右からビーストウォリアーを挟撃する。
「本当なら1対1で決着をつけてやるべきだが、悪いな!! なんとしても、あのドルガンドの間諜は、逃がすわけにはいかない。この国で何をしていたかだとか、お前達『闇夜の群狼』との、色々な良からぬ関係が聞けそうだからな。だから速攻でケリをつけさせてもらう!!」
「ぜんぜん悪くなんてない。こうなる事は織り込み済みだ。むしろ、1対1じゃ簡単すぎて、面白くないなと思っていた所だから、逆に感謝を示したい」
「なにい⁉」
シェルミーと共に斬りかかる。ビーストウォリアーは、直ぐ近くにあった建物の柱を思い切り殴って破壊すると、それを掴んで構えた。そして大きな棍棒のように、ビーストウォリアーは大きく柱を横に振った。
ブオオオンッ!!
シェルミーと共に、跳躍して避ける。
「なっ!! 危ないっ!!」
「せ、石柱を武器にして、こんなにも軽々と振り回すなんて!!」
「はっはー!! これなら剣で受け止めれば、剣が折れるぞ。その前にその身が潰れるかもしれないがな。またチャンスがあるようだったら、今度はしっかりと食べてトレーニングしてビルドアップして、私のような強靭な身体を作り上げてくる事だ」
着地した瞬間、直ぐ石柱が戻ってくる。
ビーストウォリアーは、私とシェルミーの2人を相手にする事になっても明らかに余裕がみえる。
私では、決して持ち運ぶこともできないような重量のありそうな石柱を、軽々と振り回してくる。直撃すれば、骨が砕けるかもしれない。
「はっはーー!! いつまで逃げているつもりだ!! この私に勝つ気はあるのか? グズグズしていると、お前達の追っている、ドルガンドの男が逃げてしまうぞ?」
ビーストウォリアーは、石柱で大きく横薙ぎに払った。私とシェルミーは、再び避ける為に跳躍する。まるで、縄跳び。
「やはり、跳んで避けたか。私を倒す為に、後方へは跳ばないと思っていた。だがこれで、チェックメイト! 長い私達の追いかけっこも終わりだ!! 覚悟、ローザ・ディフェイン!!」
「な、なんだと⁉」
ビーストウォリアーが加速する。
私達目掛けて横薙ぎにした石柱は、既に高く掲げられていた。剣術で言えば、上段の構え。狙いはシャルミーではなく、この私に絞っている。
まずい、着地した瞬間を狙われる。あの石柱を、私は防ぐ事ができるのだろうか。でもやるしかない。
「ローザ!!」
シェルミーの叫ぶ声。私は着地した瞬間に、石柱を受ける為に剣を前に出した。柄を握っていない方の手も添える。
受けきれるかは解らないが、やってみるさ!! さあこい!! 受け止めてみせる!! 受けた瞬間、斬りつけて終わりだ!!
「死ね!! ローザ・ディフェイン!!」
ギャアアアンッ!!
強烈な衝撃に備えた――はずだった。
ビーストウォリアーの振った石柱は、私の目前で止まっている。僅かに前に出した私の剣が、石柱に触れているが私が止めた訳ではない。
目をやると、そこには女盗賊団『アスラ』のハムレットとソアラがいた。
ビーストウォリアーの腕にハムレットの鞭が巻き付いていて、更に石柱の攻撃が私に届く直前で、ソアラが私の前に躍り出て2本のジャマハダルで見事に受け止めている。
「や、やりました、ソアラお姉様!!」
「エイティーンがいればよかったけど、上出来ね。ローザ、シェルミー! 反撃よ」
「言われなくても解っている!! いくぞ、シェルミー!!」
「うん、いくよローザ!!」
「うっ!! くそっ!! まずいっ!! この盗賊どもが!!」
このチャンスは、決して無駄にはしない!! 私は低く構えると、地面を大きく蹴りこんで、ビーストウォリアーに斬りこんだ。シェルミーも大きくジャンプしている。
「喰らえ、ビーストウォリアー!! ソードスラッシュ!!」
「必殺、クレッセントスラッシュ!!」
ズババッ!!
「ぎゃああああ!!」
ビーストウォリアーの脇腹を私が斬り、右肩をシェルミーの三日月刀が斬りこんだ。ビーストウォリアーは悲鳴を上げて、石柱を手放すと、仰向けにドスーーンと音を立てて倒れた。




