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第81話 『救出ルート』 (▼テトラpart)





 ダーケ村の宿の一室で、ルーニ様が残されたメッセージには、『トゥターン砦』と書かれていた。


 セシリアさんが言うには、ルーニ様はそのトゥターン砦に連れていかれている可能性が高いとの事。だから、私たちはそのトゥターン砦を目指して歩き出した。


 とりあえず、ずっと私達のあとを追いかけてくるアーサーは、後々面倒な事になっても困るので、また撒いてきた。アーサーは何度か助けてくれたりはしたけど……なんか馴れ馴れしいし、信用できない。


 次第に辺りは陽が陰り、夜がやって来た。私たちは林道を歩いていたが少し道を外れてキャンプを張る事にした。



「今日は、ここでキャンプしましょう」


「はい」



 近くに沢がある。適当に拓けた場所を探し、テントを張った。設営していると、足の上をヤスデが通った。私は、我を失った。



「ひいいいええええ!!!! むむむ……虫ぃぃぃぃ!! 虫です、セシリアさん!!」


「はいはい。そういうのは、もういいから。次は、焚火の準備をしましょう」


「ええーーー。セシリアさん、虫……苦手じゃないんですか? ぜんぜん怖くないんですか?」


「そうね……じゃあ、きやあーー、こわい。たすけてえ。――これで、いい? さあ、薪を拾ってきてくれるかしら?」


「………………」



 私は、カンテラに火を灯し、林の中に薪を拾いに行った。風が少し吹く。メイド服。スカートの裾がフワッと舞う。ちょっと、寒いかも。


 セシリアさんが言うには、ルーニ様が連れ去られたトゥターン砦は、もうクラインベルト王国ではないらしい。正確には、ドルガンド帝国領。クラインベルト王国国境を少し越えた辺りにある。


 …………国境…………ドルガンド帝国…………私の住んでいたフォクス村に攻め込んできて、情け容赦なく村人の命を奪い、侵略してきた帝国軍人。あの時の事を思い出すと、胸が重くなって締め付けられる。



「くっ…………」



 でも、私はもうあの時の弱虫なだけの自分じゃい。そこから、何とかして這い出そうとして足掻き続けている弱虫なんだと思った。


 ――――薪を十分集めたので、セシリアさんのもとへ戻った。


 キャンプへ戻るとセシリアさんは、ザックから食料を取り出してお爺さんと晩御飯の下準備をしていた。そう言えば、ダーケ村で色々と食糧調達できたから、暫くは食べるものはなんとかなりそう。



「ただいま、帰りました」


「あら? おかえりなさい、テトラ。じゃあ、薪も集めてもらったし焚火をしましょう」


「もう、寒いからのう。どれ、儂も手伝っちゃるかのう。狐ちゃん、薪をこちらにもらえるかの?」


「あ。はい。お願いします」



 ………………



 ………………え?



 ………………お爺さん?



「どどど……どちらさまですか⁉」



 薪を集めに行っている間に、いつのまにか、お爺さんが私達のキャンプにいた。物凄く自然に溶け込んでいたので、一瞬受け入れてしまっていた。

 


「あら? そう言えばそうだったわ。こちら、アンソンさん。この先にあるホーデン湖で、漁師をやってらっしゃるのよ」


「ホーデン湖ですか。あれ? それって、これから私達が向かう場所ですよね!」


「そうよ。それで、船を出してもらえないか交渉していたの」



 流石、セシリアさんと言うか…………ウェアウルフが現れたダーケの村では、ルーニ様の行方を何としても探し出してみせるし、今はそこへ向かう為にその手段を方々から引き寄せている感じがする。その証拠に、アンソンさんと船の交渉をしている。


 私は、戦うこと位しかできないから、そんなセシリアさんに憧れる。


 焚火が準備できると、そこに水の入った鍋を火にかけた。野菜と肉を投入し、スープを作る。スープが出来上がれば、それにパンを添えて晩御飯の出来上がり。



「お嬢さん達は、どちらに向かっておるんじゃね? 目的地があるんじゃろが?」


「トゥターン砦という所に向かっているわ」



 セシリアさんがそう答えた。一瞬、ドキッとした。だけど、よくよく考えてみればこんなお爺さんに目的地の事を話しても、特に危険性はないだろうと思った。



「ほう。トゥターン砦とな。そりゃ、もはやドルガンド帝国領になっとるんぞ。そんな危ない所には、行かん方がええ」



 セシリアさんは、にっこりと微笑んで見せた。



「なるほどの。どうしても、そこへ行かねばならん理由がありよるんじゃの。なら、トゥターン砦に行くには、ここからすぐのホーデン湖を船で渡らんといかん。船で渡り切ったらそのあとは、草原を北に向かって行く。すると、またここみたいな林があってのう、そこを抜けるとトゥターン砦が見えるはずじゃ」



 ルーニ様が今、捕らわれているだろう砦までのルート。まさか、ここでそれを知ることができるなんて。私は、有力情報の提供に興奮した。



「アンソンさん! ご親切に教えて頂いて、ありがとうございます!」


「それで、ホーデン湖を渡るのに船を出して頂きたいのですが。アンソンさんは、漁師とききました。当然、船をお持ちですよね? 失礼でなければ、お礼も致しますが」



 セシリアさんが詰め寄る。私は、アンソンさんの機嫌をとるように、できあがったスープをよそってパンと一緒にアンソンさんへ差し出した。



「おお。こりゃすまんの。モッチャモッチャ……うぐ……うまいのう。こんな可愛い狐のメイドさんがよそってくれとるからか、余計に美味しく感じよるわい。ふぉーふぉーふぉー」



 私は更にダメ押しでアンソンさんの手を、両手でぎゅっと握った。



「アンソンさん。お願いです。私達の命に代えても助け出さなくちゃいけない人が、そこで待っているんです」

 

「ふむう」



 今度はセシリアさんが、ダーケ村で見つけたルーニ様が書いたメッセージをアンソンさんに見せた。



「これはなんぞ……」


「血文字です。7歳の女の子が、自分を傷つけてまで、手に入れた血で私達に宛てて書いたメッセージです。今も助けが来るのを信じて待っています」



 アンソンさんは、暫く真剣にそのルーニ様が書いたメッセージを見つめる。そして、頷いてくれた。



「よし! わかった!! 儂ももうジジイじゃが、ジジイの前に一人の男じゃ。やったるわい!! その子を助ける為に手を貸しちゃるわい」


「やったーーー!! これで、お救いしにいけます!」


「ありがようございます! アンソンさん」



 だが、喜ぶ私達の姿を見て、微笑んでいたアンソンさんの顔は、すぐに険しいものに変わった。



「しかしのー。船を出しちゃるのはええが、向こう岸にまでたどり着けるかはわからんぞい」


「へ? それってどういうことですか?」


「お嬢さんたちが渡りたいという湖にはのう、サヒュアッグがおるんじゃ」



 サヒュアッグ? セシリアさんが訊ねた。



「それって何か、生き物ですか?」


「人を襲う魔物じゃ。湖を縄張りにしておる、半魚人じゃよ」



 トゥターン砦まではもう一息といった感じ。だけど、やっぱり一筋縄ではいかなかった。


 私は、セシリアさんと顔を見合わせるとセシリアさんは、頷いた。


 私の出番だ……と、思った。

 








――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇テトラ・ナインテール 種別:獣人

狐の獣人。本作第二章の、もう一人の主人公。クラインベルト王国王宮の下級メイドだが、伝説の狐の獣人、九尾の一族である事からセシル王に呼ばれテストを受ける。これから、彼女に何かが待ち受けている。九尾でありながら、尻尾は4本しかなく伝説の獣人と呼ばれる九尾とは比べ物にならない位に弱い。だが、テトラ自身は棒術や槍術といった長柄武器を巧みに扱う事ができて戦闘力は非常に高い。それに加え、獣人特有の身体能力に恵まれている。栗色の長い髪に、丈の長いロングスカートのメイド服に身を包んだ姿の娘。モップやデッキブラシを武器にして戦っていたが、ダーケ村をウェアウルフから救った時に鉄の槍をもらった。


〇セシリア・ベルベット 種別:ヒューム

クラインベルト王国、国王陛下直轄王室メイド。王宮に大勢いるメイドの中でも、トップに位置するエリートメイド。眼鏡をかけていて、長く美しい髪は知性だけでなく気品も感じる。戦闘能力は特にないが、国王陛下に対する忠誠の厚さは凄まじい。誘拐されたルーニを救出する為、テトラと共に選ばれたメイド。もちろん、彼女がその使命をやり遂げるのに適しているという判断のもとに選ばれているのは言うまでも無い。


〇ルーニ・クラインベルト 種別:ヒューム

クラインベルト王国、第三王女。セシル王とエスメラルダ王妃の間にできた子供。アテナやモニカと父は同じで、エドモンテと母は同じという事になる。でも、アテナやモニカの事が大好きで、特にアテナに懐いている。現在はテトラの同僚で王宮メイドのシャノンと、賊に捕らえられてドルガンド帝国国境付近にあるトゥターン砦に連れていかれている。


〇アーサー・ポートイン 種別:ヒューム

旅をしているという冒険者で、レイピアを巧みに扱う【フェンサー】。クラインベルト王都のスラムの酒場でテトラ達と知り合ってから、彼女達をつけ回しているようだ。綺麗な花には棘があると思っている。


〇アンソン 種別:ヒューム

漁師のお爺さん。ホーデン湖の近くに小屋を持っていて、湖で魚を獲って生計を立てて暮らしている。7歳の女のルーニが悪者に連れ去られた事を知り、いってもたってもいられなくなってテトラ達に協力をする。


〇ダーケ村 種別:ロケーション

クラインベルト王国にある村。鬱蒼とした森に囲まれた村で、周辺には魔物も多い。その為、他の村々に比べ人口も少なめ。ルーニこの村へ連れ去られたと、バーテンダーのメルから情報を仕入れたテトラ達が向かった村。


〇トゥターン砦 種別:ロケーション

ドルガンド帝国領。クラインベルト王国とドルガンド帝国の国境付近にある砦。この二国が隣接している個所は、この場所と別に僅かしかない。なぜなら、その間にはノクタームエルドという山々が連なるエリアが広がっているからだ。ルーニを救出する為にダーケ村に行ったテトラは、そこでルーニと再会できなかった。新たな手掛かりとしてルーニはトゥターン砦に向かっている事を知った。


〇ホーデン湖 種別:ロケーション

クラインベルト王国、北西部に位置する湖。大きな湖で、クラインベルトだけでなく、一部ドルガンド帝国とノクタームエルドにも隣接している。しかし、湖自体はクラインベルト王国のものとされている。迂回してもいいが、湖を渡れればドルガンド帝国領へは最短で辿り着ける。


〇ヤスデ 種別:虫

森などで見かける虫。ムカデと似ているが、別もので毒を持たない。だけど、臭い。テトラはそのヤスデの形状からムカデと同じく毒を持っていると思っていたが、セシリアは毒が無い事を知っていた為、ものっそい冷たい目で無駄に騒ぐテトラを眺めていた。


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[一言] ホーデン(ドイツ語で睾丸)湖・・・w
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