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第808話 『クレッセンドスラッシュ』



 交易都市リベラルのある区画にある、大通り。そこで騒ぎになっていた。


 ドルガンド帝国兵士を囲む、私とゴロツキ共。そして二人の刺客。通りを行きかう通行人は、私達を避けて距離をとっていた。その中には、とうぜん面白がって成り行きを眺める野次馬もいる。



「おのれええ!! ローグウォリアー!! シェルミーは、無事なのだろうな!!」


「シェルミー? ああ、あの娘か。さて、どうだったかな。我々がローザ・ディフェイン。お前を追ってここにこれたのだから、おおよその察しはついていると思うが。フフフフ」



 ローグウォリアーはそう言って、手に持っているダガーを私に見せびらかした。刃には、血がついている。



「貴様……」



 私はシェルミーの事は、まだそれほど知らない。リベラルに入る前にたまたま声をかけられて、同じ目的を持つ者だと知り、協力関係になって行動を共にしている。


 だが……ファーレもそうだが、彼女がとてもいい人で、思いやりがあって優しくて親切で、それでいて己の中にしっかりとした正義を持っている。それは、しっかりと解った。


 まだ知り合って短い時間だが、彼女とは気も合うし良き友人になれるとも思っていた。だからだ。だからなんだ!!



「シェルミーの身にもしも何かあったなら、貴様を許さない。この場でお前を斬り刻んで、細切れにしてやる!!」


「ほう、できるかな。前門のドルガンドの間諜に、後門の我々だ。ローザ、お前をここで生かしておけば後々面倒になりそうだ。この場で、決着をつけさせてもらう」


「決着? それはこっちのセリフだ。そして今、疑惑は確信へと変わった。やはり貴様らは、私達を始末する為に送り込まれた『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』の刺客であったか」



 肩を揺らして不気味に笑う二人の刺客。そしてローグウォリアーは、ダガー。ビーストウォリアーは、斧を手に構えた。



「おい、こらてめえら!! 何勝手に話を進めてくれちゃってんだ!!」


「せやで! ワイらの事、よう解ってへんみたいやけどな。ワイらは、このリベラルでも悪名高き盗賊団、『クライングフェイス』だと知ってんやろーなあ!!」


「せやせや、このまま逃がさへんでーー!!」



 ドルガンド帝国兵士を取り囲んでいたゴロツキ共は、どうやら盗賊団だったようだ。しかも『クライングフェイス』って……悪名高きと言ったが、聞いた事がない。



「野郎ども、いてまえーー!!」


『どりゃあああ!!』



 盗賊団が、一斉にドルガンド帝国兵士に襲い掛かった。ドルガンド帝国兵士は、応戦する。それを皮切りに、2人の刺客が私に襲い掛かってきた。

 

 ローグウォリアーのダガーを避けて、その身体に蹴りを入れる。その後にビーストウォリアーが私の首を刎ねる勢いで斧を振ってきたので、それを正面から剣で受け止めた。



 ギイイン!! ギリギリギリ……


「細い身体をしているが、なかなかのパワーだな。この私相手に鍔競り(つばぜり)できるとはな」


「日々のトレーニングに余念がないのでな!! 筋トレも十分にこなしている。それよりも、シェルミーに何かしたのだとしたら、確実に後悔させてやるからな!!」


 ギイイン!!



 思い切り剣を振った。それを正面から受けたビーストウォリアーの身体が、ノックバックする。このまま踏み込んで、得意の剣撃でケリをつけようと思ったが、今度はローグウォリアーに邪魔をされる。ダガーが、頬をかすった。



「よそ見をしない方がいい。私もいるのを忘れたか? フフフフ」


「うるさい!!」



 1対2じゃ、やはり不利か。こいつらは、かなり腕が立つ。しかし向こうのドルガンド帝国兵士も1対多……え? 盗賊団の数が増えている!!



「おめーら、どーしたあああ!!」


「お頭――!! こいつらが、こいつらが!!」


「なにーー!! よくも俺様の可愛い子分の腕を!! 許さん、どいつもこいつも皆殺しだ!! 全員、泣かせてやれえええ!!」


『うおおおおお!!』



 気がつけば3、40人はいるぞ。まさか、こんな大乱戦になるなんて。えらい事になってしまった。


 だが、ありがたかった。盗賊団『クライングフェイス』にしたら、ローグウォリアーとビーストウォリアーも敵に見えているらしい。実際、さっき奴らはビーストウォリアーとドルガンド帝国兵士が仲間だというようなやり取りを目にしている。


 一斉に4人が刺客2人に襲い掛かる。ローグウォリアーは襲ってきた男をダガーで刺して倒すと、ビーストウォリアーは残り3人を軽々と斧でなぎ倒した。


 人数はそこそこいても、小物盗賊団ではこの刺客2人を相手にどうにもならないか。そう思った所で、何処からか鞭が飛んできて、ビーストウォリアーの腕に巻き付いた。


 今度は、ソアラとハムレットが追いついてきたようだ。



「フフ、追いついた。ローザは追うのには慣れているけど、追われる事はないでしょ。ソアラから逃げ切りたければ、言った金額の3倍を支払うか、それともここで道半ば倒れるか。二択よ」


「ソアラお姉様のいう通りですわ! 皆、この場でソアラお姉様に跪きなさい!!」



 ハムレットは、勢いよく鞭を引いてビーストウォリアーの体勢を崩すと、ソアラが間髪入れずにビーストウォリアーの顔面に膝蹴りを入れる。そのまま宙がえりして、両手に持つ大きな爪のような武器、ジャマハダルを私の方へ突き立ててきた。

 

 だがその狙いが、私なのは誰でも解る事。ソアラの攻撃を予測していた私は、彼女のジャマハダルを弾いた。宙からの攻撃だったので、攻撃を弾かれたソアラは大きくバランスを崩して地面に転がる。チャンス。


 ソアラを狙って剣を振り上げた。



「貴様も盗賊だ!! 遠慮はしないぞ!!」



 ソアラに向かって剣を振り下ろそうとした所で、殺気。振り返ると、『クライングフェイス』と名乗る盗賊の一人が、いつの間に私に接近してきていて、両手で握るスレッジハンマーを私の顔面目掛けて振りおろしてきた。


 剣を振るモーションに入っている今から、この攻撃を避けられるだろうか。



「死ねやああああ!!」


「うおおおおお!!」



 回避できるかどうか解らないが、思い切り身体を捻る。


 そこで2人の刺客、女盗賊団『アスラ』のトップ2人に続いて、またもや2つの影が現れた。



「うがあああっ!!」


「喰らえ、必殺!! クレッセントスラッシュ!!」



 私は二人の名を思わず叫ぶ。



「シェルミー、ロドリゲス!! 無事だったのか……良かった!!」


「うがああ!!」



 思わず目に涙が――


 シェルミーは、高く飛んでアクロバティックに宙返りすると、その回転を利用して三日月刀(シミター)で私に襲いかってきていた賊を斬りつけて倒した。


 ロドリゲスも、周囲にいた盗賊を掴んでは持ち上げて地面に叩きつける。



「待たせたね、ローザ。やっと追いつけたよ。ふう、良かった。さあ、私が来たからにはもう心配はないよ」


「うがあーー!!」


「うん、ロドリゲスもいるしねー」


「うう……」



 なん。なぜだろう。思わず涙がこぼれそうになったので、なんとか誤魔化した。


 私は強いクラインベルトの騎士だ。セシル陛下の剣であり盾だ。強くあらねばならないのに、たまに感極まる時がある。まったく、困ったものだ。


 しかし……やっぱりアレだ。シェルミーのこの人に安心感を与える暖かい感じ……どことなくアテナに似ている。


 そしてそれは、シェルミーがあんな高級ホテルに、パっと泊まれる大商人の娘だとしても、とても商人などが持ち合わせているものでもないと思った。

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