第801話 『ロドリゲス奮闘』
屋上のスラブを突き抜けて、下の階へ落ちる。自分の上に振ってきた瓦礫を押しのけようとするも、重くて手間取っていた。
すると刺客二人が、見動けの取れない私の目前に立った。仮面の上からでも、自分達の有利な状況に笑みを浮かべているのが解る。私は慌てて、自分の身体に落ちてきた瓦礫を押しのけようとした。
「く、くそ!! ちょ、ちょっと待て!! 今、これをどける。そしたら、二人まとめて相手をしてやる!! だから少し待て!!」
「フッフッフッフ、この状況下で何をほざいている。私達は、ご覧の通り刺客だぞ。お前のような立派な騎士ではない。わざわざ敵が身動きできなくなっているのに、待つわけがないだろう」
「くそ――!! 待て!! 二人まとめて相手してやるって言っているんだぞ!! 貴様らだって、こんな身動きできない相手を倒しても後味が悪いだろう?」
二人の身体が小刻みに揺れる。そう笑っている。小柄な方、ローグウォリアーが言った。
「別にどうでもいい。我々はお前達を始末する。それだけだ」
勝利を確信したのか、ついにその口からその言葉を耳にすることができた。
今、ローグウォリアーは、確かに「我々はお前達を始末する」と言った。つまりこいつらは、先程逃げて行ったドルガンド帝国兵士と何らかの関係がある他に、私達の命を狙って現れた。リーティック村の時も偶然の遭遇ではなく、暗殺目的で私達の目前に現れたという事だ。
それが解っただけでも……奴らの目的がひとつ明らかになっただけでも大きい。だが、どうにかしてこの場を脱出しないと――
「うわああああ!! な、なんじゃこりゃあああ!! うちの屋根が突き抜けてるやんけ!!」
ここの住人と思われる男は、騒ぎで私達のいる部屋に入ってきた。屋根を破壊して、あれだけ大きな音がしたのだ。まあ、家にいたのなら気づかない方がおかしい。
二人もその男の方に振り向くと、ローグウォリアーが、ビーストウォリアーに向かって何か合図した。するとビーストウォリアーは小さく頷いて、その場に落ちていた木片を掴んで、ここの住人だと思われる男の方へと歩いて行く。男は呆然としている。
ま、まずい!! ビーストウォリアーめ、ここの住人を殺すきか!!
「ひ、ひいい!! な、なんや!! なんなんや、アンタ。変な仮面なんかつけて……そ、それよりもうちの天井こんなんしてもーて、弁償してもらうで!!」
「ピイピイと、うるせえな。直ぐに二度とやかましくできなくしてやる」
「ひいい、なんや、やめてくれ!!」
ビーストウォリアーは、握っている木片を男に向かって振り上げた。私は身体の上に乗っている、この鬱陶しい瓦礫をどけようとしつつも叫んだ。
「よせ、一般人だ!! 何も知らない一般人だぞ!!」
「何も知らなかったのは、さっきまで。今、我々の事を知ってしまった」
「仮面に声まで変えているだろ!! だからその人には、貴様らが誰かなんて見当もつかない!! やめろ、殺すなら私を殺せ!! 関係のない人間を殺すな!!」
必死になって叫んだがビーストウォリアーは、全く聞く耳をもたない。男を殺そうと、木片を振り上げた。頭上から、男の脳天目掛けて振り下ろした。
「ぎゃあああっ!!」
「よせええええ!!」
木片が男の頭をかち割った……っと思った。
刹那、男が丁度立っていた部屋の入口からニュっと手が出てきて、あわやという所で男の襟首をつかんで後方へと引っ張ったのだ。
男は派手に後ろへすっころんだ。陰から現れたのは、鬼の形相をした巨漢。そしてその巨漢の後ろから、ひょこっと可愛い女の子が顔を出した。
「シェルミー!! ロドリゲス!!」
「もう、ローザはいっきなり一人でどっか行くんだもん!! ひっどいなー。助けが必要なら、言ってよー」
「べ、別に助けなんて……」
瓦礫に埋もれて身動きできず、モゾモゾと藻掻きながらシェルミーに言い返した。これからだ、これから私の猛反撃が始まるのだ。さあ、見ていろよ!! だが、その前にこ、これを……
「藻掻いてんじゃん、藻掻いてんじゃん。全くローザは、強がり子ちゃんだね。ロドリゲス、お願い」
「うが……」
シェルミーがロドリゲスに手話で何か伝えると、彼は私の方へ寄ってきて私の自由を奪っている、この憎たらしい瓦礫を軽々と掴んでは投げてと取り除き始めた。
これはいい、頑張れロドリゲス! だがそれを目にしたローグウォリアーが、相方を呼ぶ。
「ビーストウォリアー!! そのデカブツに瓦礫をどけさせるな!! そして面倒ごとになる前に、さっさとローザを始末しろ!!」
「ああ、解ってるよ!! 動けぬままに叩き潰してやるよ」
ビーストウォリアーがこちらに向かって来る。まずい、早くロドリゲス!! 早く、瓦礫を!!
「デカブツ!! まずはお前からだ!!」
ビーストウォリアーは、こちらに駆けてきながらも、先程手にしていた木片をロドリゲスに向かって投げた。木片は、ロドリゲスの頭部に命中し飛び散った。それ程の威力だったがロドリゲスは、顔色を変えない。だが頭部からは血が滴りおちる。
「ハッハーー!! 私のパンチ力を舐めるなよ。一撃で首の骨が折れてジ・エンドだ。その後に、同じパンチをローザと、そこのシェルー……だったか、女にもぶち込んでやるよ!!」
ビーストウォリアーは、ロドリゲス目掛けて大きく腕を振りかぶる。オーバーハンドのパンチが来る。私は瓦礫を取り除いてくれているロドリゲスを救おうと、彼を突き飛ばそうとした。しかしまだ瓦礫が邪魔で、十分に動けない。
シェルミー!! 彼女を見ると、彼女の姿はそこになかった。そして次の瞬間、急にロドリゲスは後ろを振り向いて、自分に襲い掛かってくるビーストウォリアーの腕と首を掴むと、力任せに床に叩きつけた。
「うっがああああ!!」
「な、なんだと!? うげっ!!」
ズドドーーンッ!!
向こうからは、金属音。目をやるといつの間にかシェルミーが、帯刀していた三日月刀を手に、ローグウォリアーと打ち合っている。今だ!! 今のうちに脱出だ!!
全身全力の力で、腹や足の上に乗っている瓦礫を押した。




