第794話 『ウニの正体』
オーダーしたものが、テーブルに並べられる。
「うおおおーー、これは!! これは、まさしく黄金に輝くパスタ!!」
「あははは、ローザって実は面白い人だよね」
「え? そう?」
ウニクリームパスタ。初めて食べる料理なのだから、当然初めて目にする訳でこんなセリフを言ってしまった。シェルミーは、それを聞いてにこにこと笑った。
「それじゃ、食べましょうかね!」
「ああ、そうだな。それじゃ早速、頂いてみよう」
湯気。パスタからは、見てるだけでアツアツな熱が伝わってくるような感じがした。出来立て。香りもとても良くて、朝起きてから水分以外なにも入れていない胃袋が、迂闊にも、ぐーーっと音を鳴らした。
その音をシェルミーに聞かれたと思い、一気に顔が赤くなる。チラリと彼女の顔を覗き見たが、彼女は特に気にしている様子もなくフォークを手にとり、ウニクリームパスタを絡めて口へ運んだ。
「おいしいいい!! やっぱり、これ美味しいよーう!!」
「おお、それ程か! このウニクリームパスタというものは、それ程のものなのか!!」
何度も頷くシェルミー。
「おいしーーーい!! ほらほら、人が食べているのを見ていないで、味はとびきりだから遠慮なくローザも食べてみて!!」
「で、では頂くとしよう」
右手にフォーク、左手にスプーンを持つ。
「ローザはパスタを食べる時にスプーンも使うんだね」
「え? あ、ああ。パスタを食べる時は、ずっとこの食べ方だからな。これが一番いい」
フォークでパスタをくるむと、それをスプーンにのせて巻く。
なんというか、こんな茶色のソースをしたパスタを食べるのはなんとも……でも、とてもいい香りがするのは確かだ。一気に、口へ放り込む。
「もぐっ! モッチャ、モッチャ、モッチャ……」
「どう? 美味しいでしょう?」
「う、うまーーーーい!! これはうまいぞ!! 最高だ!!」
ウニクリームパスタ。ウニがどういった食材か解らないが、これは美味しい。濃厚でなんともクリーミー。
クリーミーなのは、生クリームが中に入っているからなのだろうけど、それでもこのウニという食材と、なんとまあいい感じに合わさっていて、とてもいいまろやかな味になっている。
これは、昔よく家族で揃って行った高級店の味だ。
上品だけど、味はしっかりしていてボリューミーで、しっかりと満足させてくれる。
「ああ、きたきた。すいませーーん」
「モッチャモッチャモッチャ……これはいいものだ。ん? どうしたのだ、シェルミー。何か追加注文するのか?」
店員がこちらに歩いてくる。手には何かのお皿。その皿の上には、黒い何かこぶし大のものがのっていた。店員は、それを私達が食事をしているテーブルの上に置いた。
黒くて、棘だらけの……ボール?
「不思議な顔しているねローザ。これがその今、食べているウニだよ」
なっ!! なんだとお!?
「なっ!! そんな馬鹿な!? 流石にこれは騙されないぞ。こんなものが食べられる訳がない。しかも暴力的なフォルムをしていて、とても美味そうには見えない!!」
シェルミーと店員は、クスクスと笑う。
「ほら、見てみろ。私をからかおうとしたんだな。まったくもう、シェルミーは」
言っている間も、食事が止まらなかった。この料理は、かなり気に入ってしまった。
「別にからかってないよ。本当にこれがウニなんだって」
「信じられない。だいたい、色が違う。この料理は明るい茶の色をしている。しかし、この針玉は黒だろ」
「あっはっはっは。針玉ってさーー!! テトラやセシリアも、かなり面白いと思ってたけど、ローザもたいがい面白いよね。そういえばアテナ達、特にルシエルはとても面白い性格をしていたけど、クラインベルトの女の子は皆こんなに面白いのかな」
「こらー! ルシエルなんかと一緒にするな! あんなチンピラエルフ!」
シェルミーはまたお腹をかかえて笑った。そして店員に、言った。
「じゃあ、お願い。この子にちょっと見せてあげて」
「はい、いいですよ」
店員はそう言って皿にのせた黒い針玉を掌に載せると、専用の金属のナイフのようなものを出して、いきなり針玉を真っ二つに割った。すると中からドロドロとした水が出る。体液? もしかしてこの針玉は、生き物なのか? まさか、そんな……
店員は今度はスプーンを取り出して、割った針玉の中へ入れて中身を掬った。そしてそれを私に見せた。
「ひいいいいい!! ののののの、脳みそ!!!! なんだこの生き物はあああ!!」
確かに色が同じ!? まさか、本当に私はこの脳みそを美味しいと言って食べていたのか!? ひ、ひいいい!! いくら、美味しくても脳みそは……お、恐ろしい!!
「あっはっはっはっは!! 確かにそう見えるけど、これは脳みそじゃないよ!!」
「え? 脳みそじゃない?」
店員はにこりと笑って答えた。
「ええ、これはウニの生殖腺です」
「せ、生殖腺……そ、それもなんか……」
「いいからいいから、味わってローザ。ウニは海産物で、クラインベルトとかガンロック、ここメルクトでもそうだけど、内陸部ではかなり高級食材なんだよ。パスタじゃなくてこのウニが山ほど乗った、ウニ丼とかもあるんだから」
ウニ丼……確かにライスとも相性は良さそうだ。なる程、これはそういう食材であったか。
濃厚で新鮮なウニ。それと生クリームを合わせて、特性のソースにしてパスタと絡める。使用されているニンニクやオリーブオイル、胡椒なども絶品でいいものだ。
そして……ウニだけだとちょっとあれだが、パスタの上にはちゃんと緑がのっている。これは、チャービル。これは薬味で、パセリの仲間だ。
確かにこれは美味しい。
「ローザ」
「なーに?」
「あ、あの、このパスタ……」
「いいよ、いいよーう。おかわり頼んでいいよ。私も頼もうかな。それじゃ、大盛で追加注文でいいよね」
「う、うん。ありがとう」
「うんうん、育ち盛りなんだからしっかり食べなさい」
こういう所。
こういう所もシェルミーは、やっぱりアテナにどことなく似ていると思った。




