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第790話 『セシリアとリッカー』



「ぼ、僕の……あ、あの薬を、使用しなくて良かった……本当に良かった……」



 イーサン・ローグは、私達がデューティーと仲良くフルーツパーティーしている光景を見てそう言った。


 聞く所によると、あの薬は本当にイーサン・ローグが開発したもので、正真正銘の自白剤だという。


 しかも効力は抜群で、その効果は自白するだけにとどまらないとの事。


 一般的な市場での商品としては販売できず、店頭で売る事もできないので、そのうち政府を相手に売るつもりだったらしい。でも今のままでは、強力すぎるのでもっと調整をしてからだという。


 まあ、それは兎も角、私達が敵ではないことを見極める為だったとはいえ、こんなものを身体に射とうとしていたのだと思うと、ゾッとした。


 デューティー・ヘレントは敵ではないと私は思っているけれど、彼女は恐ろしい女。その気になれば、私達の腕に注射器を刺していただろう。


 情報屋リッカーが、目の色を変えて怒り出す。



「おい、デューティー!! 俺はーー、てっきりこいつらを捕えてーー、拷問か何かして締め上げているものだと思っていたんだーぜ!! それがこんな仲良くフルーツパーティーだなんて、どういうこったーこれはー!!」


「リリリ、リッカー! おちおちおち落ち着いて!!」



 リッカーの怒りを抑えようとするイーサン・ローグ。リッカーの怒りは収まらずに、止めようとするイーサン・ローグを押しのけた。その反動で彼は床に転がった。


 慌てて部屋の外から使用人が入ってきて、咄嗟に助けようとしたハルと共に彼を立たせる。



「あ、ああ、ありがとう」


「いえいえ」



 見るからに虚弱体質で、息を吹きかけるだけでも倒れそうなイーサン・ローグ。しかも挙動不審……彼が交易都市リベラルの最高権力者である十三商人の一人とは、到底思えない。けれど、商人をしている事は虚弱体質であってもできうる事。


 勿論トップの地位にいる事もそう。別に身体が弱くても、能力があれば務まる。


 そして彼は、グランドリベラルの一日支配人をしていた、ミルト・クオーンとも有効な関係だった。そしてここに呼ばれているという事は、デューティー・ヘレントとも親交が厚いという事になる。


 デューティーは、二人の席を用意した。するとアローがテーブルの上に乗っていた数々の美味しそうなフルーツを見て、目の色を変える。



「あ、あのリッカー氏」


「なんだーー、アローー!! こんなーー時に!!」


「もう少し落ち着かれてはどうですか? こうなっているという事は、きっと必然なのです。あなたも十三商人の一人であるならば、まずは話を聞いてからにしてはどうですか?」


「そうよ、その為にあなた達をここへ呼んだのよ。さあ、座って」



 デューティーがそう言って2人に椅子を指し示すと、2人は私たち同様に着席した。その瞬間、アローはテーブルの上のフルーツ盛りに向かって突撃すると、美味しそうな数々のフルーツを貪り始めた。


 こんな時にあれだけど……アローのようなボタンインコなどを、そう言えばトロピカルバードと呼ぶ事を思い出した。


 トロピカルバードは、果実が大好物の鳥全般の呼び名。アローのようなボタンインコ、他にはコザクラインコなどが、それに当てはまる。


 なぜ、私がそんな事を知っているのか……それは……今は考えるべきことでもない。



「それじゃ、二人に説明するわ。この話は、ダニエル・コマネフや、ゴーギャン・レイモンド、ミルト・クオーン。あと、ゴケイにも話すつもりよ」



 全て十三商人の名前。それを聞いたリッカーが長い舌を出す。



「それだけかーー。他の者には言わないのかーー? ババン・バレンバンや、ボム・キング達は仲間外れかーー」


「ウッフッフッフ。焦らないでくれない? それは、これから話すから」


「いいから、さっさとーー話せ」


「実はね、この子たちの目的はね、私やダニエル・コマネフの目的と同じだったのよ」


「なんだと? じゃあ、この小娘達も奴らを……」


「そう。私達が全てを賭けて、築き上げた都市リベラル。それを我がものにして、全てを吸い尽くし廃墟に化そうとしている悪人達。それはあなた達もご存知の組織、『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』……私達もセシリア達も、その者達を叩き潰したい。そうしないと、リベラルの繁栄はこの先も続かないわ。ね、セシリア、ファーレ」



 そういうこと。私とファーレは頷いた。



「そうよ。『闇夜の群狼』の幹部、私達はその人を『狼』と呼んでいるけれど、その『狼』を潰すというのが私達の本当の目的なの。『狼』……リッカー、あなたは既にその情報を掴んでいるみたいだけれど、十三商人の誰かが『狼』なのよ。だから私達は、探っている。『狼』が誰のか、見つけだして叩く。その為に、私達はわざわざ身分を偽ってあなた達に近づいた。『狼』がリベラルで暗躍しているなら、必ずそういった力のある立場に身を置いているだろうから」



 リッカーはまたぺろりと舌を出す。



「なら、だーれーがーその『狼』だとーー、言うのだーー。この情報屋の看板をしょっている俺に対してーー、今まで嘘をついてだましたんだーー。当然めぼしはついているーーんだろうな」


「それはまだ解らないわ。私はデューティーの事は信用していいと思っているけれど、正直あとはまだ解らない」


「なんだとーー!? それじゃ、アレかーー!? 俺が『狼』とかーー、言っているんじゃーねーだろーなー!! 」



 また熱くなって身を乗り出そうとするリッカーを、隣で座っていたイーサン・ローグとチギーが抑えた。


 リッカーとの出会いは最悪だった。リッカーの私達に対する態度も最悪だったし、私達は自分達を偽って情報欲しさにリッカーを騙した。


 メルクトで最も大きな情報を扱っている情報屋のリッカーにしてみれば、それは顔に泥を塗られる行為に等しかったのかもしれない。


 でも……それでも上手くはいった。


 どうにかデューティー・ヘレントに会えればと思っていたけれど、彼女だけでなくリッカーとイーサン・ローグとも一度に会って話をすることができるなんて。


 会うだけで『狼』だと暴けるなんて思ってもいないけれど、折角のチャンスを活かしたい。

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