第79話 『アウトロー その1』 (▼クライドpart)
――――クラインベルト王国。かつて凶悪なマンティコアがのさばっていたという、ルリランの森。そこから少し西に位置する場所に『古代の墓場』という高ランク冒険者向けのダンジョンがあった。
――――『古代の墓場』
俺は、Bランク冒険者クライド・ゴートだ。
今、俺は他4人の仲間とそのダンジョンへ挑んでいる真っ最中だ。【ウォーリアー】のゲイブ、【ランサー】のロビー、【ウィザード】のネス、最後にもう一人【ウィザード】のマリン。マリンは、今回初めて一緒に仕事をする仲間だがその他の者は、いつものメンツ。
俺達のパーティーは、独自の戦闘スタイルがある。リーダーは俺。戦闘時の指示は主に俺が出している。そして戦闘時のフォーメーションも俺達のパーティー鉄板のものがある。俺を含める物理攻撃型が3人前衛で戦い、後衛にウィザードを二人配置し確実に勝ちを狙うといったものだ。だいたいの魔物には、このフォーメーションであたるし、戦闘特化に優れているから即効でけりをつける事ができる。
ギャオオオオオ!!!!
「よし! こっちは、仕留めたぞ!! クライド!」
「よくやったゲイブ! ネス! マリン! 残りのガーゴイルどもに止めをさせー!!」
「任せて!! 雷を喰らいなさい!! 《雷撃》!!」
「ボクの水属性魔法を、おみましてあげるよ! 《水玉散弾》!!」
ネスの雷撃が数体の魔物の身体を貫き、マリンの水玉散弾で残っている魔物を弾いて倒した。ネスとマリンが勝利を称え合う。俺は、ガッツポーズをした。
「やったぜ!! これで、古代の墓場の最奥エリアまで制覇だ。ここには、かなりの宝が眠っているという情報だった!! ほら、見てみろ!! 大量の宝だ!!」
ロビーも浮かれた声をあげる。
「やったわー!! これでついにアタシたちも、ついに大金持ちね!!」
刹那、マリンの水玉散弾を浴びて倒れたガーゴイルのうち、1匹が復活した。よろよろとしていて、ダメージはあるようだが戦意は残っている。
「皆さがれえ!! 一旦体制を調えて、全員でかかるぞ!! こんな所でつまらないミスをして、くたばりたくはないからな!!」
「なら、ここはアタシに任せてー!! 確実に留めてみせるわ!」
ロビーが突貫して、魔物の身体を槍で貫く。流石、ロビーだ。しかし、ここまで来て会わなくていい事故に遭うのはごめんだ。俺は確実に仕留めにいく。槍に突き刺された魔物の左右から、ゲイブと同時に飛び掛かった。ゲイブの斧が魔物の腕を斬り落とした所で、ガーゴイルの首を俺が剣で刎ねた。
倒した。俺たちの勝利だ。しかし横やりが入った事で、ロビーは俺とゲイブに、不満そうな顔をした。
「ちょっと。アタシに任せてって言ったのに! アタシの戦闘力知っているでしょ? まさか、信じていないの⁉」
「まあ、そういうな。お前が十分に強いのは重々承知しているが、クライドは万が一を考えたんだ」
ゲイブがロビーをなだめた。マリンが申し訳なさそうにしている。
「すまない。ボクの攻撃があまかった。1匹仕留めそこなったよ。ガーゴイルという魔物の事は、以前本で読んだことはあったんだが、見るのも戦うのも今回が初めてで…………すまない、ボクを許してほしい」
「アッハッハ! 気にするなよ。他の奴のミスは、全体でカバーする。それが俺達チームの心得だ。それより、さっさとお宝をおがもうじゃないか! なっ!」
そういって肩をおとすマリンの背中を叩いた。マリンは、頬を少し赤らめた。照れているのか、それともこのパーティーの空気にこそばゆいのか。
まあ今は、そんな事よりもとりあえずは目の前の宝だ。
明らかにいいものが入っているという雰囲気のする、宝箱も山ほどあるぞ。
「よし! 宝箱を開けてみようぜ!」
「おう!」
「はーーい」
開けてみると、宝石や魔道具など高価な物が沢山入っていた。大収穫だ、売ればとんでもない金額になるだろう。皆の歓喜する声――――
これだけあれば、これを元手に以前から興味があった商売を始める事も、新しい高価な装備を買う事も可能だ。なんだっても夢が叶うぞ。そう思うと自然に、顔がニヤついてしまう。
――――パーティー全員が、宝に目が眩み浮かれていた。その時だった。唐突にネスが叫んだ。
「皆、気を付けて!! 何かが迫ってくる!!」
ガラアアアアアアオオオオ!!!!
ドスーーーン!!
部屋が揺れた。
この最奥の部屋は、天井が高く縦長になっている。その上の方、天井手前に吹き抜きというか……通路のようなものがあり、そいつらはそこから、この俺達がいる場所に降りてきた。ゲイブが叫んだ。
「マンティコアだ! マンティコア2匹……しかも、つがいだ!!」
ガルアアアアアアオ!!
なるほど。つがいのマンティコアは、きっとこの古代の墓地の宝を守る最後の番人だ。完全に出口を塞がれている。倒すしか他に道はない。俺は仲間に発破をかけた。
「倒すしかない!! 宝は、全部俺たちのものだ!! 絶対に倒して宝を全部持ち帰り、なんとしても幸福を手に入れるぞーー!!」
「おおーーーー!!」
先制必勝。ネスとマリンが共に魔法を詠唱する。
「これでも喰らいなさい!! 《氷矢》!!」
「今度は外さないよ! 《水玉散弾》!!」
氷の矢と、無数の水の散弾が、マンティコアを襲う! だが倒せない。今度は、お返しとばかりに、マンティコアの口から、高熱のブレスが放射された。
「まずいまずいまずい!! 高熱のブレスだ!! あれを浴びたらただじゃ済まないぞ!!」
「ボクに任せてくれ。ブレスは必ず防いでみせるから。だから皆、こっちに集まって。ウォーターウォール!!」
マリンが前に出る。そして魔法を詠唱すると、俺達のいる辺りの足もとから、水が吹きあがり壁となった。水の壁が見事にマンティコアの高熱ブレスを防ぐ。ここだ!
「今だ!! いくぞ! ゲイブ、ロビー!」
片方のマンティコアに狙いをしぼって、3人同時に攻めかかる。もう一方のマンティコアが、当然俺達のその行動に反応したが、ネスが魔法攻撃で足止めした。まさに、ナイスアシストだ。
「だあああああ!!」
俺は覚悟を決めると、叫びながら突っ込んだ。そしてマンティコアの片目に剣を突き立てると、同時にロビーが槍で喉をえぐった。そこで、ゲイブが大ジャンプからの、唐竹割りでマンティコアの頭部に深々と斧を斬りつけた。
グギャアアアオオオ
ドスーーーン
マンティコアを倒した。残りはもう1匹。そっちへ視線を移すと、もう1匹を足止めしていたネスがピンチに陥っていた。
「きゃあああ!!」
「まずい!! ネスが!! ネス!! 逃げるんだあああ!!」
グオオオオオオオオ!!!!
マンティコアがネスに襲い掛かった。ネスは咄嗟に魔法詠唱を行うが、間に合わない。ゲイブが助けようと斧を投げる為に大きく振りかぶる。くそっ! きっとそれでも間に合いそうにないぞ! ネスが再び助けを求めて叫ぶ。
「助けてえええええ!! 皆あああああ!!」
――――!!!!
マリンの右手の指先から、水色の光が輝き始めた。
「ボクらに仇なすものを貫け!! 《貫通水圧射撃》!!」
マリンの指先から、高圧力の水が線上に飛び出し、マンティコアの頭部を打ち抜いた。その一撃で貫いた箇所から血が噴き出し、一瞬にしてマンティコアは絶命した。
俺達は、マリンのその魔法の威力に驚愕した。
「おいおいおい! なんて技を隠し持っていたんだ! マリン! 凄いな!」
「隠し持っていた訳ではないんだけど、使用するなら今かなって思ってね」
「はあはあはあ……ありがとう、マリン! 助かったわ」
ネスは、マリンに抱き着いてお礼を言った。これで、なんとか最後の難所は切り抜ける事ができた。さあ、皆で宝を山分けだ。
ロビーもゲイブもネスも大はしゃぎで、宝を漁っている。マリンは、何か魔導書のようなものを見つけたようで、夢中になって読んでいる。皆、お目当てのものが見つかったようで良かった。
俺も、数々の宝の中から宝石が施されている剣を見つけて手に取った。なんて、美しい剣なんだ。心の底から、そう思った。
そして、魔導書を夢中になって読んでいるマリンの背後にゆっくりと近づいた。彼女は、自分の背後に立つ俺の存在に気づいてる様子も、警戒している様子もない。
「すまない、マリン……」
「え?」
俺は、彼女の背中から胸まで突き抜けるように、その宝剣を突き刺した。
マリンは、刺された瞬間にこちらを振り向いたが、何が起こったのか解らないと言った顔でその場に倒れこんだ。
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〚下記備考欄〛
〇クライド・ゴート 種別:ヒューム
Bランク冒険者。クラスは【ソードマン】。剣の腕ににも自信があり、パーティーでの戦闘を得意とする。常に仲間のフォーメーションに目を配り、的確な指示をする。効率的な考え方をする冒険者。
〇ゲイブ 種別:ヒューム
Bランク冒険者。クラスは【ウォーリアー】。斧の使い手。腕力もあるが、度胸もある。クライドとは、古くからの知り合い。
〇ロビー 種別:ヒューム
Bランク冒険者。クラスは【ランサー】。槍の使い手で、動きも早い。持ち前の機動力で敵を攪乱し、さっと相手を刺す戦法を得意とする。クライドとは、古くからの知り合い。
〇ネス 種別:ヒューム
Bランク冒険者。クラスは【ウィザード】。様々な黒魔法を使い、クライドのパーティーでは後方支援役。クライドとの付き合いは長くはないが、気が合って一緒に行動するようになった。今ではその一味。
〇マリン 種別:ヒューム
Cランク冒険者。クラスは【ウィザード】。ネス同様に黒魔法を使いこなすが、水属性魔法が得意でそればかりを使用する。クライドとは今回初めてパーティーを組む。クライドはネスの他にもう一人支援役を探していてアーチャーかウィザードをもう一人入れたいと思っていた。それで、マリンと出会い仲間に誘った。
〇ガーゴイル 種別:魔物
魔族よりの魔物。小悪魔に似た身体に鳥のようなクチバシを持ち、その皮膚は石のよう。そして、蝙蝠のような翼をもっていて、空を飛び回り獲物を襲う。爪は鋭く、危険。
〇マンティコア 種別:魔物
大きな獅子の身体を持ち、鬼のような頭を持つ。牙や爪もも大きくて、その一撃で冒険者の命を簡単に奪う。噛みつくと、肉を引き裂き骨をかみ砕く。獰猛な魔物で、森や遺跡などのダンジョンに生息している。口からは、鉄をも溶かす高熱のブレスを吐く。アテナ一行が以前ルリランの森で退治したマンティコアは、古代の墓場から外へ抜け出して来たマンティコアだったのかもしれない。
〇クラインベルト王国 種別:ロケーション
草木多く緑豊かな王国。アテナは、この国の第二王女。
〇ルリランの森 種別:ロケーション
以前、この森でマンティコアという狂暴な魔物が暴れていた。エスカルテの街で討伐依頼を受けたアテナ、ルシエル、ローザがそのマンティコアを退治した。因みに、その討伐依頼にはエスカルテの街のギルマス、バーン・グラッドも同行し討伐を確認した。
〇古代の墓場 種別:ロケーション
ルリランの森から西に行ったところにあるダンジョン。探索には高ランク冒険者推奨で、危険なダンジョンとされている。
〇魔導書 種別:アイテム
古代の墓場にあった魔導書。宝としての価値がある本で、マリンはこういった本を欲しがって探していた。
〇雷撃 種別:魔法
中位の、雷属性魔法。雷を放ち、敵を撃つ魔法。魔力で発生させたものとはいえ、雷で打ち抜かれた敵はひとたまりもない。
〇水玉散弾 種別:魔法
下位の、水属性魔法。小さな水の弾を無数に生成し、一斉に放って目標を撃ち抜く。水と言えど、その小さな粒は弾丸のように固く感じる。散弾なので、逃げ回る相手や複数の敵にも有効な魔法で、下位魔法に位置づけされはいるものの、物凄く優秀な魔法。
〇氷矢 種別:魔法
下位の、氷属性魔法。氷の矢を生成し、目標へ飛ばして射抜く。でも、氷の矢というよりは見た目的には、つららに近い。
〇噴水防壁 種別:魔法
中位の、水属性魔法。目前足元から水を横一列に魔力で作った水を吹きあがらせて壁を作る。水の壁であるが、魔力で生成しているためその強度も術者に比例する。
〇貫通水圧射撃 種別:魔法
上位の、水属性魔法。指先から光線のように細い水を放水する。しかし、高圧力で発射されている水で、岩をも貫通する威力。触れたとしても、切断されるという恐ろしく殺傷能力にずば抜けた水属性魔法。




