第787話 『デューティー・ヘレント その4』
勿論、皮肉なのだけれど……色々な果実のアップリケの入った可愛らしいメイド服を着て、デューティー・ヘレントの案内に従った。
もう手枷も足枷もされていない。
彼女がこの果樹園で雇っている警備兵や従業員とも、何度かすれ違ったけれど、誰も私達の後をついてこない。
もしも今、私がデューティー・ヘレントに襲い掛かったとしたら……彼女はろくに護衛もつけずにどうするつもりなのだろうか。それともああ見えて、物凄く腕が立つのかもしれない。
シェルミーは、見るからに活発的だけれど、それとは対照的なファーレだってパッと見てとても強そうには見えない。だけど、氷属性などの魔法が使えたりもする。
「さあ、お入りなさい」
意識を失っていたので、ここが果樹園に入って最初に招かれた屋敷かどうかも解らない。捕らわれていた物置のような小部屋から少し歩いた先、そこにある部屋に入った。
するとそこは、ダイニングのような造りになっていた。既にファーレ、ハル、チギーが椅子に着席している。皆、私と同様に拘束はされていない。
「皆、無事だったのね」
「はい、大丈夫でした。でもセシリアの姿がないので、とても心配をしていました!」
「あたし達、どうやら皆……別々の部屋に閉じ込められてね。それでもうちょっとで、変な青い苺を食べさせられかけたんだよ! もう、怖かったなー」
「アチキも自白剤だと言って、注射されかけたんだ。でも別にアチキは、自分の隠している事なんて特にないからさ。ペラペラと喋って、早々に自由にしてもらったけどね。アチキはカッサスきってのクルックピーレースの選手だって言って、この槍の説明もついたし」
チギーの言葉。見ると、彼女は愛用の槍も返してもらっていた。ファーレやハルも同様に、ナイフなどここに来る前に携帯していたものを返してもらっている。
「『ワスプショット』。とてもいい小型ボウガンね。それにこっちは、あなたのような線の細い女性が使うには大きすぎるボウガン。これから戦争にでも行くの?」
「それは別に私の勝手でしょ」
ダイニング――私が着席する為の席もちゃんとあけられていて、目の前のテーブルには私の武器も置かれていた。私は皆と同様に座ると、自分のボウガンに手を伸ばした。矢もちゃんとある……彼女は、いったい……『狼』ではないのか?
デューティー・ヘレントは、ダイニングの隅にいた使用人に声をかけると、使用人は直ぐに部屋を退出して再びフルーツジュースを持って入ってきた。それが私も含めて、皆に配られると、彼女も席について話はじめた。
「まずはどうぞ、喉を潤して」
ハルとチギーが顔を見合わせる。するとデューティー・ヘレントは、笑った。
「ウッフッフッフ。大丈夫よ、今度は毒は入ってはいないわ。入っているのは、この果樹園でとれた最高級の美味しい果実のエキスだけよ。栄養満点で、解毒作用もあるから飲んでおいた方がいいわ」
解毒作用……それを聞いて、私とファーレは目の前のフルーツジュースに手を伸ばす。それを見たハルとチギーも、同様にジュースを手に取って飲んだ。
「それで……私達をどうするつもりなのかしら? ここにいる皆から既に聞いているのなら、私達が『闇夜の群狼』を討伐しにやってきた事は、既に承知しているわよね。デューティー・ヘレント。ここで抹殺する……もしくは、監禁するのであっても、今ここで武器を返したり、仲間と一緒にするのは予想もできなかったわ。どういう考えか知りたいのだけれど」
デューティー・ヘレントは、また笑った。そして私を真っすぐに見つめる。
「私の事はデューティーと親しみを込めて呼んでくれないかしら。ヘレントでもヘレントさんでも、デューティー・ヘレントでもなく、デューティーと親しみを込めてね」
「それじゃデューティー。私の質問についてなのだけれど、良ければ説明して頂けないかしら。もしかしてこのまま外に出て、帰っていいって訳ではないのよね」
冗談を言ったつもりではないのだけれど、デューティーは笑った。目の前からも笑い声が聞こえるので見ると、チギーも笑っていた。
緊張感のある場面……だとは思うのだけれど、いかんせん私だけでなくファーレ達もデューティーの用意した可愛いアップリケのついたメイド服を着ているので、まったくそうは見えない。
「とりあえず、私はあなた達の言っている事を信じる事にするわ。だから、まずは謝らせて欲しいの」
「謝る?」
「あなた達に毒を飲ませ、意識を奪って監禁し乱暴した事よ」
「そう、謝ってくれるのなら許してあげてもいいわ。でももしもあなたが、『闇夜の群狼』の幹部であったのなら、もしくはその組織に関与している者であれば、許す事はできないわ」
そう言うと、デューティーはまたにこりと微笑んだ。そして目の前のフルーツジュースを一気に飲み干すと、手を叩く。すると使用人が新たに色の違ったフルーツジュースと、数種類の果実が大皿に盛ったものをテーブルに運んできた。
ハルとチギーは、それが目の前に置かれると、直ぐに手を伸ばして食べ始めた。
先程まであんな思いをしたはずなのに、この二人は……なんて思って唖然としていると、デューティーは話を続けた。




