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第786話 『自白』



 デューティー・ヘレントは、私の口元へ青い苺を近づけてきた。避けようとすると、彼女は自白剤の入っていると思われる注射器をまるでナイフのように、こちらに向けて威圧してきた。


 大人しく真実を喋るか。それとも、青い怪しい苺を食べるか。どちらかを、選ばせられる。



「これを食べると大変な事になるわよーう。でも私としては、常に気丈で冷静なあなたが、とてもおかしくなってしまうその姿を見てみたいわ。だからどちらかというと、このまま黙っていてもらってもいいなーとも思っているのが本音かしら……ウッフッフッフ、私にとっては両得ね。さあ、食べなさい。甘くておいしいわよーーう」


「ま、待って!! 待って、答えるわ!」


「……あら、残念。でも今の言葉、聞こえなかった事にすれば……いける!! ほら、瑞々しくて美味しいわよ。あーーーん」


「ちょ、ちょっと待って!! 話すと言っているでしょ!! 私は貴族じゃないわ、クラインベルト王国の王宮メイドよ!!」



 どちらにしても自白させられるのであれば、話すしかない。話し始めた私にデューティー・ヘレントは、まるでこのまま黙っていてほしかったというような気配を物凄く放っている。


 それから見ても、青い苺や自白剤の効果は本物だと裏付けている。



「クラインベルト王国のメイドさん……もし嘘をついているのであれば」


「本当よ。それは本当の事! こうなってしまったら、もういいわ。どちらにしても喋る事になるのなら、答えてあげる」


「それじゃーー、残念だけど続けて質問するわ。でも答えられなければ、それはそれでもいい。この青い苺と注射器の出番だから。あなたが言っている事、それを聞いて私が嘘だと判断しても同じ事よ。だから慎重に、正確に答えなさい」



 ゆっくりと頷く。



「それで、クラインベルト王国のメイドさんが、いったいなぜリベラルに……十三商人である私にいったいなんの御用? もしかして私の事を『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』だと思って会いにきた……まさか、そうではないわよね」


「そうよ。あなたがもしかしたら……いえ、『闇夜の群狼』の幹部だと思って会いにきた。他の十三商人もそうよ。既にリベラル十三商人の中に、このメルクト共和国を乗っ取り、リベラルに潜む幹部がいるという事は、解っているわ」



 デューティー・ヘレントは、じとっと私の目を覗いた。私は目を背けもせずに彼女の目を見返す。嘘かどうか、それを見極めようとしているのなら無駄。これは本当の事なのだから。



「他にも仲間が?」


「いるわ。いるけど、もしもあなたが私の仲間を傷つけるなら、私は決してあなたを許さない。もしそうするというのなら、今ここで私を殺して置いた方がいいわ。私は例え両腕を切断されても、生きている限り……もし仲間に何かあれば、どうやってでもあなたに対して復習を果たすわよ」



 これも真実。デューティー・ヘレントには、それが解ったのか、一瞬気おされたかのような表情を見せた。それから、両手に青い苺と注射器を持ったまま、ベッドの上……私の隣に座った。



「もしかしてセシリアさん。あなたは、『闇夜の群狼』に取り入ろうとしてここへやってきたのかしら? それで十三商人の中に幹部がいる事を知って、とりあえず私に会いにきた…………いえ、違うわね。違う、それは違う。そうじゃなくて、セシリアさん……あなたは取り入ろうとしているんじゃなくて、その逆。もしかして、賊を討ちに来た……」


「そうよ。メルクト共和国を、救いに来たというのもあるのだけれど、それは協力を仰がれたから。本当は、今も賊に襲われて、苦しんでいる人達を助ける為にやってきたのよ。奴隷にされかけていた子供達を助けた私の同僚が、そういう子供達が笑って暮らせる世の中にしたいって……人身売買や村の襲撃などをしている、『闇夜の群狼』をこのまま放っておけないって言ったのよ」


「それは、セシリアさんの思いでもあるのでしょ?」


「いええ、私は別にどうだっていいわ。リベラルまで一緒にやってきたその子は、普通の王宮メイドだけれど、私はクラインベルトの王室メイド。国王陛下直轄のメイドよ。民が生きようが死のうが、正直知った事じゃないわ」


「ならなぜ、あなたは一緒に戦っているの?」


「私は国王陛下に忠誠を捧げている。クラインベルト国王に。だから陛下の命なら、全てにおいて従うわ。けれど、最近は他の事にも心を動かされるようになったわ」


「それが、苦しんでいる人たち……という訳ね」



 私は首を横へ振った。



「いいえ。友達よ。友達が苦しんでいたり、助けを求めているのなら私は協力する。『闇夜の群狼』の幹部を、私が探して叩こうとしている理由は、私の友達がそうしたいからよ。私は顔も知らない民達(ひとたち)の為になんて、とても戦えない。陛下や親しい者の為に戦うわ」



 デューティー・ヘレントは、私の言葉を聞いて暫く押し黙ると、青い苺と注射器をベッドの上にそっと置いた。そして扉をノックして男を呼ぶと、鍵を受け取り私の手足の枷を外して身体を自由にした。


 更に部屋に使用人だと思われる女が一人入ってくると、彼女から服を一着手渡された。



「これは?」


「それに着替えなさい。下着でうろうろしてもいいけれど、ここには男性の従業員や警備兵も沢山いるからね」

 


 私は彼女の言うがまま、手渡された服を着た。服は、なんとメイド服だった……けれど、このメイド服には、いたる所に可愛いフルーツのアップリケが縫い施されていた。林檎にサクランボ、レモンに葡萄。


 そう……こ、これは……


 物凄くダサい!! 恥ずかしいわ!!


 デューティー・ヘレントが今、どういう心境の変化で私を自由にしたのか……それとこれから、何をするつもりなのか。


 色々考えてみたけれど、今は従うしかなかった。

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