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第78話 『荒野のセレナーデ その3』






 朝。宿屋で目が覚めた。


 昨日の夜、ナジームさんと遅くまで酒場で話をしていたら、アテナが私を探してくれたみたいで、迎えに来てくれた。ナジームさんは、そのあとも一人でお酒を飲んでいたらしい。私は心配になった。


 反対に、宿にも酒場にも顔を出さなかったルシエルの事は、そんなに心配しなかった。私とアテナ――それにカルビが宿で寝泊まりしている間、ルシエルはというと、村にある納屋でピッチ―とずっと一緒にいたらしい。本当にピッチ―の事が気に入ってしまっている。今日、お別れする時に、大丈夫なのだろうか。


 そんなルシエルをちょっと微笑ましく思った。


 宿を出ると、ルシエルとも合流して村にある、クルルッピーのレンタル屋へ向かった。そして、クルックピーを2羽レンタルした。これでカッサスの街へ向かう。



「オレがカルビを抱いてクルックピーに乗るから、もう1羽にアテナとルキアが一緒に乗るといいぞ」


「そうだね。ルシエルは散々ピッチ―を乗り回して、クルックピーに慣れているだろうから、カルビをお願いね」



 ルシエルは、親指を立てて返事すると、カルビを抱きかかえてクルックピーに騎乗した。カルビは、ちょっと焦っている。



「じゃあ、買い物も済んだし、いよいよカッサス目指して旅立ちますかー」


「はい!」



 ルシエルに続きアテナもクルックピーに騎乗すると、私はアテナの後ろに乗ってしがみついた。



「きゃっ!」


「え? どうしたんですか? アテナ?」


「ごめん、ルキア。私、脇腹ダメだからもうちょっと下の方……そう、腰のあたりを掴んで」


「は……はい。そうなのですね。ごめんなさい。気を付けて掴みますね…………はっ!!」



 その時、私は隣で獲物を狙うような目でこちらを凝視し、今のアテナとのやり取りを見ている、ルシエルの存在に気が付いた。何かボソボソと言っている。



「見たぞ……確かに見たぞ……笑い死にさせてやる……絶対に笑い死にさせてやるぞ…………」



 怨念? 憎悪? 私は恐ろしくなってルシエルから目を背けた。すると、その背けた先に、ナジームさんが立っていた。



「もう行くのか? 気を付けてな」


「ナジーム! 見送りにきてくれたんだね」


「ピッチィィィィィーーー!!!!」



 ルシエルがカルビを放り上げてピッチ―に抱き着いた。ピッチ―もそれに応える。カルビは、見事に着地したが怒っている。



「はっはっは。ピッチ―もルシエルとの別れ、残念がっているよ」


「色々とありがとうございました。冒険者と行商人――きっとまた、会う事になると思う。そしたらまた一緒にキャンプでもしましょ!」


「いいね。それは、楽しみだ。……おっと、そうそう。それと、これを持って行きなさい」



 ナジームさんは、1通の手紙を私達に渡した。アテナが受け取る。



「これは?」


「クルックピーを捕獲するのに、オアシスでキャンプしただろ。その時に、君が話してくれたな。君達は色々な場所でキャンプする為に、旅をしているんだって」


「うん。とりあえず、世界を色々見て回りたいと思っている。それで、今は私の愛読書『キャンプを楽しむ冒険者』1巻の内容に従って旅をしてみようと思って。、この本の著者リンド・バーロックの旅の物語を、トレースしてみるのも面白いかなーって」


「ああ。オアシスでもそう言っていたね。だがその本の1巻は、クラインベルト王国からガンロック王国までしか、記されていない。その手紙は、これから君達が向かうだろうガンロック王国の王都にある、書店にあてたものなんだ。その店の主人とは、商売関係の知り合いでね。その手紙を見せれば、きっと力になってくれる。例えば、君の興味のありそうな本…………何て言ったっけ? そうだ。『キャンプを楽しむ冒険者』の2巻とかね」



 ナジームさんがそう言ってウインクすると、アテナは飛び上がる程に喜んだ。



「ええええ!! ナジーム!! ありがとう!!」



 アテナは、急にクルックピーを飛び降りてナジームさんへ抱き着いた。ナジームさんがちょっと照れている。


 そして、本当の別れ――――


 私は最後にもう一度、ナジームさんに向かって想いを伝えた。



「ナジームさん。私、なんとなくバーバラさんは、ここへ来ると思います。もう一日だけ……もう一日だけ、この村で待ってみたらどうですか?」



 ナジームさんは、にこりと笑った。



「ああ。ありがとう、ルキア。君は、とっても優しい。俺に娘ができるとするならば、君のような子が欲しいと思う。じゃあ、もう一日だけ酒場にいて待ってみるよ」



 私も、ナジームさんに思い切り抱き着いた。ぎゅっと力一杯に――――



 私たち4人は、ナジームさんとの別れを惜しみながら、オロゴの村をあとにした。

 





 ――――私達は、カッサスの街を目指して、2羽のレンタルクルックピーで荒野を走り抜けていた。



「次はカッサスだなー!! 楽しみだなー、カッサスには、クルックピーレースが開催されているんだもんな」


「私も楽しみで仕方がないよ。とりあえず、リンド・バーロックの旅ルートをトレースするという事は、次はカッサス……あっ! そこからサナスーラの村。そしてガンロック王国王都ね」


「うおーー!! 楽しみだな!!」



 新たなる旅路に興奮するルシエル。胸をときめかせているアテナ。でも、私は…………


 やっぱり、ナジームさんの事が気になって仕方がなかった。うつむく。


 前に騎乗するアテナが心配した様子で言った。



「ルキア、何かあった?」


「え? …………うん」



 ――――刹那。その時だった。


 前方から、物凄いスピードで1羽のクルックピーが迫ってくる。燃えるような赤い髪の女性。かなり、焦っている表情だった。……もしかして!! 丁度、すれ違った所で、私はその人に大声をあげて呼び止めた。



「待ってー!!!! 待ってください!!」



 驚いて、アテナやルシエル……それに、その赤い髪の女性も振り返って止まったくれた。女性がこちらに近づいてくる。そして私に何か聞こうとしたが、先に聞いた。



「もしかして、バーバラさんですか?」


「そうだけど、あなたは?」



 その名前を聞くと、物凄く幸せな気持ちになった。頬を涙がつたう。私は、アテナとルシエルに頼んで、少しだけバーバラさんとお話しさせてもらった。



 ――――その結果解った事だけど、バーバラさんもナジームさんに想いをよせていたそうだ。


 3ヶ月に1回会う約束を5年という長い年月繰り返し、徐々にその気持ちに気づいたそうだ。それで、恥ずかしがり屋さんのバーバラさんはナジームさんが、プロポーズしてくれるのを待っていたらしい。

 

 だけど、ナジームさんは、奥手な上に紳士すぎる性格があだとなって、二人の距離は縮まらなくなる。それで、3カ月前、ナジームさんのただならぬ感じに、バーバラさんは、もしかして他に好きな人ができたとか、この関係を終わらせたいとか言われるんじゃないかって想像して怖くなった。そして遂に、今まで続けて来た会う約束を、初めてすっぽかして逃げてしまったという訳だそうだ。


 でも、バーバラさんは、思い直した。きっと、途中でナジームさんの顔が浮かんでどうしようもなくなったんだ。


 バーバラさんは、私にその話をしてくれると満面の笑みで、再びクルックピーに騎乗しナジームさんの待つオロゴの村へ駆けた。



「良かったね、ルキア」


「はい。ナジームさん、きっと首を長くして待ってますよ」


「おおーーい!! そろそろいくぞーー!! アテナ、ルキア! おいてくぞーー!!」



 ルシエルの声。


 私は、バーバラさんが駆けて行った方を少し眺めたあと、アテナと一緒にクルックピーに乗り、再びカッサスの街へ向かった。









――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇カッサスの街 種別:ロケーション

ガンロック王国にある街で、アテナ一行の次の目的地。オロゴ村から更に東にあるそうだ。因みに、ずーーっと西に進めばアテナのいた国、クラインベルトでアテナ達はそこからやってきた。現在、カッサスの街ではこの国で馬代わりに親しまれている大きな鳥、クルックピーのレースが行われているのだという。


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