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第779話 『ヘレントの果樹園 その1』



 ――――つまりは、こういう事。


 ハルは、クラインベルト王国をメインに活動していた冒険者だった。けれど、彼女がニガッタという村を中心に冒険者の活動に勤しんでいる時に、なんとも不思議な珍しいトレントに遭遇したのだという。


 そう、枝に林檎を実らせたトレント。それは、とても珍しいトレントらしい。私の場合は、トレントという魔物に遭遇した事はないのだけれど、確かに林檎を実らせたトレントなんて聞いた事もないのは確か。


 でもここにいる誰もが、この世界の魔物を全て知っている訳でもないし、知っているという者がいても僅かだろう。


 モニカ様やアテナ様やルーニ様の教育掛かりでもあり、クラインベルトの宮廷大魔導士であるミュゼ・ラブリック様ですら、この世の全ての魔物を知っている訳ではない。


 なら、ハルが見たという林檎の実っているトレント。それがいたとしても、なんらおかしくはない。


 ハルは、その林檎の実ったトレントを見てからずっと探しているらしい。それで遥々と、メルクト共和国にもやってきた訳なのだけれど、そこでもなんら情報が得られなかったとの事。


 そんな時、リベラル十三商人であるデューティー・ヘレントの存在を知り、ここまで会いにやってきたのだという。


 そう、デューティー・ヘレントはフルーツディーラーと呼ばれいくつかの果樹園を所有しており、リベラルやメルクト一帯で流通している果実のほとんどを取り扱っている大商人。


 トレントには、林檎が実っていた。ハルが探しているのは、その林檎の実るトレント。


 林檎は果実に分類されるので、もしかしたらデューティー・ヘレントなら何かその情報を持っているかもしれない……ハルは、そういう藁にも縋る思いで遥々メルクト共和国、リベラルまでやって来たのだという。


 私とファーレは、果樹園までの道中、その話を聞いて、ハルの言っている事は全て真実だと思った。


 そしてハルが、信頼できる人間であると同時に悟った。追剥のアジトでも助けてくれたから――だから私も、自分達の事を話した。


 ……なぜ私達が、デューティー・ヘレントに会いに来たのかという事や、エスカルテの街からメルクトに入り、交易都市リベラルまでやってきた経緯なども簡単に話した。



「なるほど、大義の為か」


「大儀って、それ程大袈裟なものではないわ。ファーレや他の皆は、きっとそうだとは思うのだけれど、私とテトラは違う。テトラは、ただ単純に奴隷にされる子供達や、平和に暮らしていた人たちの村が盗賊達に無残に襲われて、略奪されたりしている悲惨な状況に我慢が出来ないというだけ。それで自分にできる事……助けたいっていう思いで、動いているだけよ」



 ファーレが、私の顔を覗き込む。



「それじゃ、セシリアはどうして『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』なんて危険な組織を相手にするのですか?」


「私? そんなの決まっているでしょう。私の理由は、単なる暇潰しよ。自分の事で手一杯だから、人がどうなろうと興味がないわ。でもテトラだけじゃ心配だもの。だから手伝ってあげているの。その代わり、うんと恩を着せてね」


「へえー、そうなんですね」



 ファーレは、にっこりと笑ってそう言った。「なんだかんだ言っても解っていますから」、そんな顔だった。


 だけど今言った事は、本心。本当の事なのだから、別に気にする必要もないのだけれど、私はプイっとファーレから顔を背けた。


 ようやく森を抜けた。そこでチギーが、持っていた槍の穂先で向こうを指した。



「見えたーー!! アレだよ、アレ! 緑!! いっぱい木が生い茂っている所が、向こうにもあるだろ? よく見れば、辺りが柵で囲まれているし、間違えない。あれが果樹園だよ」


「ふう……ようやく、ついたわね」


「ええ。てっきり果樹園までは、リベラルを出て馬車を使えば容易に到着すると思っていましたから」


「マクマスにやられたね。それはあたしもだけどさ、アハハ。でも、セシリアとファーレがマクマスに騙されて捕えられていなければ、あたし達の出会いももっと変わっていたかもしれないし。そこは、マクマスに感謝かな。マジ感謝」



 ハルの言葉に皆、笑う。


 テトラは無事、ダニエル・コマネフに会う事はできたのだろうか。ローザとシェルミーは、他の誰か十三商人と接触したのだろうか。もしそうなら、その中に『狼』がいて、見つける事ができたのろうか。


 もしもそうなら、既にテトラかローザが、もう『狼』の正体を暴いていて、交戦している可能性もある。


 または、そうではなくて、これから私が会うデューティー・ヘレントこそが『狼』の可能性もある。どちらにせよ、蓋を開けてみるまでは解らない。


 どうやって正体を暴けばいいのかも解らないけれど、とりあえずは接触してみる事。それから始めるしかないわね。



「それじゃ、行きましょう」


『はい!』



 デューティー・ヘレントの果樹園は、直ぐもう見えるところにある。


 森を抜けて、果樹園に向けて歩くと、街道に差しかかった。本来ならこの街道を辿って、馬車でリベラルからここまで向かってきていた。だからこの道の先には、私達のいたリベラルがある。


 果樹園に辿り着くと、先頭を行くチギーはきょろきょろと辺りを見回した後、柵づたいにまた歩き始めた。果樹園の中に入る事のできる、入口を探している。



「しっかし、でっかい果樹園だねー。こんなのがいくつもあるんだから、十三商人っていうのは、めちゃめちゃお金持ちだよね」



 え? どういうこと!?


 チギーの無意識に言った言葉に耳を疑う。こんなのがいくつもある……って、果樹園はひとつじゃない!?


 はっとした顔でチギーを見ると、彼女は今言った事で、私が驚いているのに気づいて笑った。



「ああ、大丈夫、大丈夫だよ。デューティー・ヘレントは確かにいくつかの果樹園を持っているし、リベラル内にもいくつかの自宅もあるそうだけど、彼女は今日、ここの果樹園いるらしいから。大金払って買った情報だから、間違いないよ」



 大金積んで、買った情報って……リッカーから聞き出したのだろうか……


 っていう事は、チギー達もあのリッカーの住処へ行ったという事になる。


 あの情報屋相手に、騒ぎにならなかったのだろうか。そう思ったけれど、よく考えてみれば、あそこで問題を起こした私達とのつながりはそうそう関連付けられて解らないだろうし、単なる客としか思われなかったのかも。


 シェルミーやファーレは、チギーやロドリゲスと言った護衛隊にリベラルでの待機を命じていた。


 だけど護衛隊は、護衛隊でファーレやシェルミーの為に、色々と裏でサポートに回っていたのねと思って感心した。

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