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第775話 『セシリアの追撃 その3』



 森。沢山生い茂る木々の中を、クルックピーに騎乗して駆け抜ける。


 手綱を持っているのは、チギー。だけどその後ろに乗っている私も、そのスピードと迫力を感じていた。


 クルックピーは、ガンロック王国に多く生息している馬のような鳥で、弾丸のように走る事から、別名ロケットバードと呼ばれている。つまり、かなりの速度で走る鳥。


 私とチギーは二人乗りして、弾丸さながらの速度で森の中を駆け抜けているものだから、何度も木の枝にぶつかるとか、このまま体勢を大きく狂わせて転倒しかけるといった事が何度もあった。


 だけどクルックピーは、平然と速度を維持したまま走り続ける。手綱を持つチギーの表情には、余裕の笑み。


 私は振り落とされないように、チギーに抱き付いてやり過ごしているのが精いっぱいだった。


 だけど……森の中に入ってからも、執拗に追いかけてくる4頭の馬。向こう側の拓けた森路の方には、私達の追跡しているマクマスの乗る馬車とレイピア使いの乗る馬が続く。



「チギー!」


「はいよ、なんだい」


「追ってくるわ! このままじゃ、直に追いつかれる!」



 クルックピーの走るスピードも、それを操るチギーのテクニックもかなりのものだった。けれど私達は、マクマスを捉える為に彼の乗る馬車と並走を続けている。


 つまり、追って来る4頭の馬からは逃げる形にはなっているけれども、マクマスの馬車と同じ速度で走らされている訳で、このままでは相手に追いつかれるという事だった。


 チギーは、右手に持っている鉄の槍を握りなおすと、後方を睨んだ。直ぐ後ろに2騎が迫っている。更にその後ろにも2騎。



「この野郎、こんな険しい場所へ逃げ込みやがって! ぶっ殺してやる!!」


「やれるものならやってごらーん! へっへーん」



 男は斧を一回ブンと振ると、更に追い上げてこちらに向かってきた。



「チギー」


「解ってるよー。近づいてきたら、アチキのこの槍で打ち倒す」


「いいえ。とりあえず今、一番迫ってきている1騎は、私が倒すわ」


「え? セシリアが」


「ええ、そうよ。自慢じゃないけれど、私の戦闘能力なんてあなたと比べたら、米粒みたいに小さなものよ。だけど――」



 既に矢を装填したボウガン、それを迫ってきている男に向ける。矢を向けられて男は、焦る。振るうはずだった斧で、必死に矢を受けようとした。



「なっ!! ボウガン!!」



 私は高らかに笑った。



「アッハッハッハッハ、残念。この状況で、飛び道具のないあなた達には、近接武器に頼るしかないわね。だから今のところ警戒すべきなのは、あの馬車に乗っている2人の射手だけね」


「ま、待て!!」


「嫌よ、待たない」



 バシュッ!



「ぎゃああっ!!」



 矢。男は、慌てて馬の速度を落として私達から距離を取ろうとしたけれど、先に私の放ったボウガンの矢が男の腕に命中。


 男はそのまま体勢を崩して落馬したが、直ぐ隣にまで迫っていた仲間も巻き込んだ。巻き込まれた男は、馬から投げ出されて大きな木に激突した。



「やったわ。一石二鳥とは、まさにこの事ね」



 満面の笑みでそういうと、チギーは逆に苦笑いした。



「セシリア……意外と、やるねえ」


「そう? 今のは、たまたまよ。私が狙って射ったのは1人。2人やれたのは、運が私に味方したからよ」


「なんにしてもセシリアは、自分の事を戦闘力皆無みたいに言っているけど、少なくともボウガンの腕があるのは解ったよ」


「そうね、ボウガンの腕なら少しは自信があるかしら」


「それならさ、まだあきらめていない人達もいるみたいだから。倒せそうなら、アチキに遠慮せずに倒しちゃってね」



 チギーの言葉を聞いて再び後方へ目をやると、残る2騎がまだ追いかけてきていた。一人は剣、そしてもう一人はチギーと同じく槍。


 私は振り落とされないように、チギーの方へ体重を傾けるとボウガンにまた矢を装填した。


 追って来る男達は、それを見て私達の両翼へそれぞれ別れる。今度は、1人倒されて転倒しても、巻き添えを喰らわない為に。しかも木々を盾にするように、走っている。



「それならそれでいいけれど……1人倒すのに、時間がかかるかもしれないわ」


「ふーーん、じゃあ今度はアチキの番だね。しっかり捕まってて」



 チギーはそう言うと、手綱をぎゅっと引っ張った。急激な減速。巧みにクルックピーを操って、木々を避けるとあっという間に距離を取って、後方を走っていた剣を持つ男の隣に迫った。



「うわああっ!! な、なんだとおお!?」


「はい、また一人、悪を成敗なんつってね。ハハハ、ルシエルならきっとそう言ったりするのかな」


「ぎゃあっ!!」



 槍を素早く回転させて剣を弾き上げると、その隙をついて小さな動作で男に突きを喰らわせた。狙いは、男が装備している金属製の胸当て。それでも強い衝撃で、男は悲鳴を上げて落馬して転がっていった。



「残るは、あっとひっとりー」


「少しできるからって、調子に乗るなよ!」



 槍使いがチギーと打ち合う。



「おー、やるねー。でもこの程度の槍捌きじゃあ、アチキの生涯のライバルが一人、ジェニファー・ローランドの足元にも及ばないねえ」


「誰だ、そりゃああ!!」


「説明したじゃん。アチキのライバルだって」



 十合打ち合った所で、決着がついた。槍使いの槍は、チギーの巧みな槍捌きでクルっと面白いように絡み上げられて飛ばされる。チギーは素早く槍を反転させて、石突部分を槍使いの鳩尾にめり込ませた。


 男は悲鳴も出せずに、後方へ跳んで地面を何回も転がっていき、苔だらけの岩に激突した。

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