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第774話 『セシリアの追撃 その2』



「このーー!! いきなり矢なんて射ってきやがって!! 危ないだろーー!!」



 槍を振り回して、怒れるチギー・フライド。



「この野郎がああ!! まさか、このごに及んで抵抗してくるなんて! きっと追って来るのがアチキらだけだから、攻撃してきたんだ!!」


「クルックピー1羽に、女二人。それで迎撃する気になったのね。でもあの人達は、攻撃するという事のリスクを甘く見ているわね」


「っていうと?」


「攻撃するという事は、人を傷つけるという事。人を傷つけるという事は、自分達も傷つけられる覚悟があるという事。つまり何が言いたいのかと言うと、矢をブチ込むっていう事は、矢をブチ込まれてもかまわないという事になるわね」


「……なるほど。おっしゃる通りでありますね」



 前方を走る馬車。それに狙いをつけて、ボウガンを再び構える。また矢を射られても対処できるように、馬車とは一定の距離を置き、チギーは万全の警戒を払っている。


 すると馬車後部から再び男が姿を見せて、矢を放ってきた。今度は、来ると解っている。飛んでくる矢を避け、更に続けて続けて飛んできた矢をチギーが槍で弾いた。私は、お返しとばかりに、ボウガンの引き金を引いた。



 ヒュン、ドスッ!


「ぎゃあっ!!」



 男の肩に矢が命中。後ろにひっくり返る。そして別の男が顔を出して、こちらの様子を確認した。どうやら、馬車にはマクマスの他に、男が2人乗っているようね。



「セシリア!!」


「なにかしら」



 チギーの言葉で振り返る。すると後方からこちらに向かって、4頭の馬が駆けてきていた。馬に乗るのは、いずれも人相が悪く無精髭の男達。手綱を持つ逆の手には、剣やら槍や斧。


 ……まだマクマスの他にも、『ハイウェイドッグス』の残党がいたなんて。


 逃走するマクマスの馬車の後を私達が続き、その後方から4頭の馬が駆けてくる図式になった。


 え? 違う、まだいる!!



「チギー!! 右手の方から一騎来るわ!」


「はっはーーん! 護衛っていう仕事は退屈そうであんまりなー、って思っていたけど、まさかこんなにハッスルできるなんてね。もうアチキの槍捌きを見せちゃっているけど、見た通り結構自信あるんだよねー、バトル!」



 後ろの四騎とは別。真横の薄暗い森の茂みから、一騎飛び出してきた。男は自分が騎乗する馬を、私達の騎乗するクルックピーに乱暴にぶつけた。そこから、素早い動きで突きの連打を放ってくる。


 思わず目を瞑ってしまったけれど、敵の素早い攻撃をチギーは、落ち着いてその全てを鉄の槍で弾いていた。



「よくも、俺達のアジトをぶっ潰してくれたな。この代償はでかくつくぞ。まずは、お前を串刺しにしてやるぜ!!」


「刺突剣レイピア。こんなの騎馬戦闘で出してくるなんて、なかなかやらしいね。でもアチキには、その程度の腕じゃ通じないよ。レイピア使いなんて、カッサスのデスレースで何度も戦った事あるし」



 チギーとレイピア使いが、打ち合う。その隙をついて後方から四騎が迫り、前方を走る馬車からは、再び射手が狙いをつけて矢を放ってきた。チギーは前方からの矢を避けつつも、右側にいるレイピア使いと戦っている。


 私はボウガンに矢を装填し、正面の馬車に乗る射手に向けて狙いを定めた。でもまだ撃たない。


 射手は、狙いを定めている私に気づいて、先に矢を放つ。チギーは、鉄の槍を器用にクルクルと回して、飛んでくる矢をまた弾き飛ばした。射手が叫ぶ。



「おいーー!! 早く駆けあがってこい!! 相手は一騎だ、簡単に潰せるだろーが!!」



 振り返ると、後方の四騎が一斉に前に駆けあがってきた。射手はニヤリと笑うと、御者席にいるマクマスに何か叫んで伝える。すると馬車の速度がゆっくりと落ちてきた。


 私達の騎乗するクルックピーは、馬車と賊達の騎乗する4頭の馬、おまけに右側面からのレイピア使いに囲まれ、挟まれえる形になった。



「チギー、これは流石にまずいかもしれないわ」


「まずくはないから、アチキに任せて!」


「それは、本気なのかしら? 強がりで言っているのだとすれば、この場を乗り切る策を考えなくちゃならないから、正直に言ってほしいのだけれど」


「本気、本気! 大本気だから、安心して。言ってるでしょ、大丈夫だって。ジェニファー・ローランド、ボルト・マックイーンが相手ならヤバいけど、こんな盗賊団なんてあくびがでちゃうよ。なんせ、アチキはクルックピーレースのプロ選手なんだからねー。今は、出稼ぎしている身分だけれど。まあでも、素人でも例外はいるか。ルシエルや、アテ……」


「危ないっ!!」

 


 レイピア使いの、狙いをすませた強力な突き。それを避けたと同時に前方の馬車から矢と、後方から四騎が攻め込んでくる。潰される。私は、チギーの細い腰を力いっぱいに掴んだ。



「あいててて!! ちょっと、セシリア、痛い!!」


「チギー!! このままじゃ!!」


「だから、大丈夫だって! それより、更に激しくいくから、しっかりとアチキに抱き付いて離さないでね」


 クルックルックピーー!!



 チギーが手綱を大きく横へ振りながら、姿勢をまた前傾に低くとる。急カーブ。私達の騎乗しているクルックピーの身体は、大きく反れて森の中でも馬車の走れる割と拓けた道から、脇の木々が沢山生える森路の方へと飛びこんだ。


 文字通り、飛んだと思う。私達の乗るクルックピーは、厚みがあって弾力のありそうな丸みを帯びた両羽を羽ばたかせると、フワっとした感覚とともに、馬一頭分位の高さを飛びあがる。


 後方からと、側面のレイピア使いの攻撃をエスケープしながらも、更に左側の森路へと突っ込んだ。


 だけど相変わらずの速度を維持したまま、先程よりも沢山木々が生い茂っている険しい森の中を疾風のように駆け抜けて、マクマスの馬車を追跡し続けた。


 私は内心、自分でも驚く位にドキドキとしていた。けれど、それと同等に興奮している自分にも気づいた。

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