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第773話 『セシリアの追撃 その1』



「改めまして、私の名前はセシリア・ベルベットよ。こんな格好をしているけれど、これでもクラインベルト王国の王宮メイドよ」


「ハハハー、こんな時に自己紹介って随分余裕あるね。でも気に入った。アチキの名前はチギー・フライド。今は、えーーっと……ファーレ様とシェルミー様の護衛の仕事を臨時でしているけれど、これでもガンロック王国でもそれなりの、クルックピーレースの選手だよ」


「クルックピーレース……聞いた事があるわ。ガンロックでは、馬の代わりにクルックピーという走る鳥の魔物がいるって」


「今、アチキらが乗っているこの子がそうだね。可愛いだろー?」


「ええ、可愛いわ。そして確かカッサスという街では、クルックピーの大きなレースが行われていて、多くの人が集まって熱狂していると聞いた事があるわ」


「よく知っているね。と言ってもクルックピーレースと、ガンロックフェスは、ガンロック王国でも世界的に有名なものだからね。よーーし、それじゃしっかりとアチキに捕まってね!! 一気に距離を詰めるから」


「できるの?」



 私の質問にチギーは、ニヤリと返した。



「逃走中とはいえ、相手は馬車だよ。それに対してこちらは、二人乗りと言えどクルックピー!!」


「でも、もうかなり距離をあけられているわ」


「フフフ、セシリア。クルックピーの別名、知っているかい?」


「何かしら」


「ロケットバードって言うんだ! そして、アチキはそのクルックピーレースの選手! 馬車なんかにも、単なる追剥盗賊団なんかにも遅れはとらない!! アチキとこのクルックピーにとっては、あんなのに追いつくなんてちょちょいのちょいさあ! さあ、いけーーー!!」


 クッルピーー!!



 そう言ってチギーは前傾姿勢になると、騎乗しているクルックピーに合図を送った。クルックピーは、気持ち良さそうに鳴いて返事すると速度を上げた。


 弾丸のようなスピードで、森の中を駆け抜ける。人馬一体……いえ、人鳥一体って言うのかしら。私は振り落とされないように、チギーにしっかりと抱き着いた。


 柔らかくていい匂い……やはりこんな荒々しい事をしていても、チギー・フライドは女の子なのだと思った。



 ぷよっ


「こんらああああーー!!」


「え?」


「どさくさに紛れて今、アチキの胸を掴んだでしょ!!」


「え? この森の中を物凄い速度で走っているから、木にぶつかりそうだし、そんなの気にしている暇なんてなかったわ。ごめんなさい、これから気を付けるわ」


 ぷよっ


「こらーー! 危ないってば!」


「ごめんなさい。これだけは言っておくけど、不可抗力よ」


「えーー。それにしても、随分と余裕があるように見えるけどね。しかも、掴んだ後に揉んだよね」


「え? 掴んだら揉むでしょ、そんなの」


「そんなセットみたいに言わないで欲しいね。まったく……それじゃ、ぜんぜん余裕そうだからもう少し加速するよ。そしたらもう追いつくからね」


「あら、そう。それは良かったわ。けれど、こんな森の中……あのマクマスが走らせている馬車を、はたして見つける事ができるのかしら」


「それなら大丈夫かな」



 チギーはそう言って手綱を片手で握り、もう片方の手に槍を握って正面に向けた。槍の切っ先の先に、ガラガラと凄まじい音を立てて走る馬車が見えた。


 チギーには、マクマスの乗る馬車がしっかりと見えていた。でも、どうやって……



「…………」


「不思議だなーって顔をしているね。でも答えは簡単。奴は、一心不乱に逃げているだろ? 無理もない。だってリベラル警備団に加えて、あのジラク・ドムドラがやってきたんだ。そりゃ猛スピードで逃げるって。でもそう思うと同時に、奴は確実に逃げ切れると思っている。アチキらの事を随分と舐めているっていうのもあるけれど、もう一つ……あの4匹の雌のケンタウロスの馬力が凄まじい。だから追手を撒く事なんて考えずに、ひたすら真っすぐに逃げると思っていたのさ」


「だから、逃げた方へまっすぐに駆け抜けて追ってきたという訳ね」


「そう、ご明察。ほーーりゃ、間もなく馬車のお尻にかぶりつくけど……どうするの?」



 どんどん私達の騎乗するクルックピーが速度をあげて、マクマスの乗る馬車に近づいていく。飛び移るかそれとも……おそらくマクマスは、御者席にいるはず。脅して降参するなら、それでもいい。


 私は更に前のめりにチギーに体重を預けると、両手でボウガンを握った。



「このまま馬車と横並びになれるかしら? そうすれば、御者席をボウガンで狙えるわ」


「え? ()っちゃうの!?」



 マクマスの気の小ささからして、横に並んでこの大型ボウガンを向ければまず降伏するだろう。もし撃つ事になったとしても、手綱を握る腕か、もしくは足に矢を打ち込めば、きっと戦意を喪失するはず。


 私はにこりとチギーに対して微笑んで答えた。



「ええ、必要であればね」


「ひ、ひええーー。おっかねーメイドさんだね、こりゃ」



 ファーレの護衛。黒いターバンに全身黒づくめ。それに全員がそれなりに、腕の立つ者といった感じだった。なのでこのチギーが特別なのかもしれないけれど、かなり可愛くて、取っ付きやすい性格をしていると思った。


 そんなチギーに十分に癒されて、いい感じにリラックスできた所で、そろそろマクマスとも決着をつけさせてもらう。



「チギー! それじゃ、お願いできるかしら!」


「りょーかい!」



 クルックピーの速度があがる。馬車に並ぶために、ずんずんと追い上げる――刹那、馬車の後部から二人の男が顔を出した。手には、弓。



「まずいっ!! セシリア、身を低くしてアチキの身体に隠れて!!」


「相手は弓を持っているわ。大丈夫なの?」


「まあね」



 両手で持っていたボウガン。それを片手に変えて、チギーの腰をしっかりとつかむ。一瞬にして減速すると共に、左右へステップするようにクルックピーが動く。すると、何本かの矢が、顔や身体の直ぐ近くを掠めて飛んで行った。


 馬車に後部に隠れ潜んでいた、『ハイウェイドッグス』の生き残り。いきなり放たれた矢には、驚きを隠せなかったけれど、チギーはそれを咄嗟に類まれなクルックピー操作で見事にかわしてみせた。

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