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第772話 『決着間近』



 ファーレの姿を見たジラク・ドムドラは、その場に跪いた。その光景を見て、私とハルは何が起こったのかと驚く。


 するとファーレは、ジラク・ドムドラに駆け寄って何か囁いた。すると跪いていたジラク・ドムドラはすっと立ち上がってファーレに一礼すると、再び今も戦闘を繰り広げている二人に目を移した。


 ファーレの護衛の槍使いと、爪弾きのボビーとの一騎打ちは延々と続いている。戦力は拮抗しているけれど、槍使いの方がやや上に思える。


 次の瞬間、槍使いの槍がボビーの肩を抉った。同時にボビーは、隠し持っていた包丁を私の方へと投げた。


 もはや残す敵はボビーだけで、追剥盗賊団『ハイウェイドックス』は壊滅し、倉庫で捕らわれている人達のもとへも警備団が向かってくれている今、私は完全に油断しきっていた。


 狙いは首だと思ったけれど、左胸。心臓部分、そこにボビーはしっかりと標準を定めていた。今からじゃ、とても避けられない。私は死を覚悟した。


 でもボビーの投げた包丁が私の胸に突き刺さるよりも先に、私の胸の前に素早くハルが腕を突き出した。


 グサリッ


 包丁は、ハルの右手を貫いてそこで止まった。



「いったあああああああい!!」


「ハル!! あなた!!」


「痛いよ、痛いよ、痛いよ!! うえええーーん、痛いよ!! で、でも防いだ! 防いでみせた!!」


「ハル……あなた……」



 ハルの右手、包丁が突き刺さったその手を両手で優しく触る。



「いったあああああいい!! セシリア、ちょっと……じゃない、物凄く痛いよおおお!!」


「あら、ごめんなさい。早く、治療をしなきゃと思って」


「それならもっと優しく扱ってよ!! 包丁が手を貫いてるんだよ、その痛みたるやいなや!! いなや!!」


「なぜ、二回言うの?」


「そんなのは、どうだっていいんだよ、早くあたしのこの手の治療をしてー!!」



 泣き叫ぶハル。これだけ元気なら、きっと大丈夫。


 でもまさかあのボビーの一撃を、ハルが止めてくれるなんて。ハルは【シーフ】と言っていた。手先が器用で素早く動けるハルだったから……


 私の直ぐ近くにいてくれたのがハルだったから、私は助かった。



「ハル」


「なによ!! 痛いよ!!」


「どうもありがとう。あなたに一つ大きな貸しができたわね」


「いいよ、そんなのいいよ!! いったーーい!! それより、何度もまた飛んでくる包丁を止めるなんてマネできないかもだからね!! ちゃんと、警戒して!!」


「解ったわ」



 そう言ってジラク・ドムドラの背後に隠れた。私はハルみたいに素早くは動けないし、あの槍使いやテトラやローザのように武芸達者でもない。だからまたボビーに命を狙われたとしても、それを回避する自信もない。


 それなら合理的に考えて、今一番安全な場所は、剣の腕も確かなジラク・ドムドラの真後ろだと思った。


 ジラク・ドラムドラもそれが解っているのか、自分の背後に隠れる私を横目に見て、それ以上は何も言わなかった。それに彼の注意は、今はファーレに向いている。私に飛んできた包丁、また手斧などがファーレを襲わないかどうか。


 私にまた何か飛んで来たら、ジラク・ドムドラはそれを防いで助けてくれる。けれど私を盾にしないとファーレを助けられない、そのような状況に陥ったら、彼は迷うことなくそうする。そういう意思が、さっき目にしたファーレに対して跪いていたジラク・ドムドラの様子から感じ取られた。


 いくらグランドリベラルのような、超高級ホテルに軽く宿泊してしまえる位のお金持ちの大商人の娘だったとしても、交易都市リベラル……自治都市の防衛責任者が跪いたりするのだろうか。


 ファーレの表情からも、そういった事に慣れている……そういう風に見えたのが気になった。彼女は本当に豪商の娘なのだろうか……



「うおおおおお!! このクソ女!!」


「いい加減に、ここらへんで決める!!」



 槍使いの動きが早くなった。そしてボビーを圧倒する。槍使いは、槍を器用に高速回転させて、そこから見事な一撃を放った。慌ててボビーもその一撃を受け止めようとするが、敵わない。貫く。


 槍使いが槍を引き抜くと、ボビーは前のめりに倒れた。槍使いの勝利で決着――そう思った刹那、馬の嘶きがした。振り向くと、あの私達が乗ってきた馬車が走り出した。マクマスだった。



「はっはっは!! 俺だけでも逃げるぜ!! ほな、さいならーーー!!



 マクマスは馬車を引く4匹の雌のケンタウロスに鞭打つと、ケンタウロス達は悲鳴を上げて猛烈に走り出した。このままじゃ、マクマスを逃がしてしまう!!


 私は、ファーレを見た。



「マクマスを逃がしてしまう。そしたら、また面倒な事になるかもしれない。何より、私自身が、私を騙したあの男を許せないわ。個人的には、ボビーやドネル以上にね」



 ファーレはにこりと微笑んで頷くと、向こうにいる護衛に向けて何か叫んだ。するとその護衛は、鐙を装着した大きな鳥を連れてきた。


 馬のように走る鳥、クルックピー。騎乗した事はないけれど、今はこれに乗るしかマクマスを追える手立てはない。


 マクマスを取り逃すまいとそれに跨ろうとすると、ファーレが何かを手渡してきた。それは私が彼女に買ってもらった、二挺のボウガンと矢だった。ファーレは槍使いに声をかける。



「チギー、お願い!」


「あいよ、解ってますって。アチキに任せて」



 チギーと呼ばれた槍使いは、軽やかにクルックピーに跨ると、さっと右手を差し出してきた。その手を掴む――引き上げられて、クルックピーの後部へまたがった。



「追いつけるの?」


「もちろーん! アチキを誰だと、思っているのかな? こう見えても、クルックピーの扱いはプロレベルだからね。それじゃ、追いかけるから捕まってーーーえ!!」



 チギーが叫ぶと、私達を乗せたクルックピーは飛び跳ねて走り出した。


 ファーレとハルに、ちょっと言ってくると気持ちを込めて目線を送る。二人にそれはちゃんと伝わってはいたけれど、ハルは手の痛みでそれどころじゃない様子。


 それじゃ、これからマクマスの馬車を追いかける!!


 このスピードなら、あっという間にマクマスに追いつけるはずだわ。

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